「世界の人類学にとって画期的な発見」と胸を躍らせる研究者たち。
2024年、広島・廿日市市の冠遺跡群で約4万年前の石器が見つかった。日本列島への人類到達時期を大きく塗り替える可能性があり、分析が進められている。

日本の人類史、さらに5000年古い?

廿日市市吉和。山あいの静かな土地にある冠遺跡群で、考古学の歴史を揺るがす調査が進んでいる。この地で発掘を行うのは、奈良文化財研究所の国武貞克主任研究員だ。

冠遺跡で見つかった石器の一部
冠遺跡で見つかった石器の一部
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国武さんが2024年に行った発掘調査で発見したのは、日本で最古とされてきた3万7000年前の石器よりも約5000年古い地層から出土した石器である。縁がギザギザに加工され、先が尖ったその形状は、中国大陸や朝鮮半島で約5万~4万年前に使われていた石器と同じ特徴があるという。

「日本列島の人類の歴史が5000年さかのぼったことが、この遺跡で初めてわかった。驚きが大きすぎて、しばらく夜眠れない日もありましたね」
国武さんは目を輝かせながら、そう語った。

地質の分析から「確かな年代」探る

石器が見つかった地層の年代は、放射性炭素年代測定による分析で4万2300年前。
「地質学的な科学分析で地層の年代をより確かめていきます」
国武さんたちは2025年9月に追加調査を実施し、地質学の専門家なども参加した。

火山灰考古学研究所の早田勉所長は、5センチごとに地層のサンプルを採取。「3万年前の火山灰は大体わかっているので、それより古い火山灰が見つかるといいなと。遺跡の断面に時計の目盛りを刻むようなものです」と話す。

一方、遺跡周辺の石を調べているのは自然災害などを研究する専門家だ。
京都大学防災研究所の山崎新太郎准教授は「この地層がどういう環境でできたのかを調査しています。石器の起源になる石と石器の起源ではない石の2種類があって、それぞれの特徴を分析します」と話し、慎重に土を採取していた。
考古学・地質学・災害など複数の分野が協力し、総合的な年代特定を目指している。

旧石器時代の「理想的な一等地」

追加調査の期間中は一般公開も行われ、多くの見学者が現地を訪れた。
見学者の1人は「地元で発見されたのがうれしい。当時の生活を想像するとロマンがあります」と声を弾ませる。

雨の中、発掘現場を見学する人々
雨の中、発掘現場を見学する人々

休日を利用して発掘を手伝っていたのは、広島県立歴史博物館の学芸員・杉山歩夢さん。
「仕事ではなく休みを使って来ています。それくらい掘りたくてウキウキしています」と笑顔を見せた。

しかし、なぜ山に囲まれたこの場所で石器が見つかったのか?
国武さんはこう推測する。
「ここは黒色安山岩という石器の材料が豊富にとれます。平らな盆地で水が湧きやすい場所が何カ所かあり、乾燥した旧石器時代において貴重な水源だった。植物が繁茂して草食動物が集まる理想的な当時の一等地と言えます」

考古学研究への信頼を取り戻す

旧石器時代の研究は、2000年に起きた「旧石器捏造事件」で一時停滞を余儀なくされた。自ら石器を埋めて掘り出したとするこの事件は、考古学界に深い傷を残した。
その教訓を踏まえ、今回の調査では考古学の視点だけでなく地質学の専門家も加わって分析を重ね、徹底した裏付けを取っている。

旧石器時代に詳しい岡山大学の稲田孝司名誉教授は「この調査は、これまでにわかっている石器文化の移り変わりをもう一歩さかのぼる。従来のものとつながりがあり、信用できる」と評価する。

冠遺跡の発掘調査の様子(提供:国武貞克氏)
冠遺跡の発掘調査の様子(提供:国武貞克氏)

人類が日本列島に到達した時期を探るうえで、今回の発見は貴重な手がかりである。現地調査は9月末で終了し、今後はそれぞれの専門家が分析を進めていく。
約4万年前にこの地で生きた人類の確かな息づかいが、今、呼び起こされようとしている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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