100年以上にわたって熊本市南区川尻で親しまれている老舗和菓子店『菓舗梅園(かほ・うめぞの)』。伝統を受け継ぎ、新たな道を模索する若き五代目に密着しました。
(3月9日/熊本市南区『川尻蔵前通り祭』)
3月、熊本市南区で『川尻蔵前通り祭』が開かれました。新酒が味わえる『瑞鷹(ずいよう)新酒蔵出し市』は多くの人でにぎわっていました。
【来場者】
「おいしいです」
「最高です!日本酒がおいしいです」
「熱燗、最高!」
一方、川尻公会堂では『和菓子ふれあい絵巻』が開かれていました。
川尻は、お菓子の町です。1990年に町内六つの菓子店で『開懐世利六菓匠(かわせりろっかしょう)』を結成し、さまざまなイベントを通して、お菓子の魅力を発信しています。
【菓舗梅園 五代目 片岡 翔之助さん】
「食べて喜んでもらえる。人に幸福を与えられる仕事だと思っていますので、やりがいがある仕事だと思っています。少しでも興味を持ってもらえたらいいかなと思って作っていました」
『菓舗梅園』の五代目、片岡 翔之助さん、32歳です。1993年1月生まれ。菓舗梅園、片岡家の4人きょうだいの末っ子です。やんちゃで、野球が大好き。子どもの頃から〈和菓子職人になりたい〉と思っていました。
高校卒業後、大阪の菓子店で修業し、父・圭助さんが一時、体調を崩したのを機に熊本に帰りました。菓舗梅園の五代目として翔之助さんはSNSなども使って和菓子の魅力をPRしています。
2016年の熊本地震で、この店とは別の場所にある自宅と工場(こうじょう)が全壊しました。このとき片岡さんのSNSを見ていた東京の女性が〈力になりたい〉と店の商品を注文してくれました。
(2016年10月/東京・東上野)
さらに東京で和菓子教室を企画し、講師として、片岡さんを招いてくれました。
【福島 由美子さん】
「(片岡さんのつくる和菓子が)とてもカラフルで、かわいらしいので何か引きつけられて、それで〈少しお手伝いになるならいいな〉と思ったところから始まった出会いだったんです。大きな震災もあった中で、『僕が頑張らなくちゃ』とちゃんと信念を持って、『感心する』の一言です」
【片岡 翔之助さん】
「ここのへたの際のところまで大きく思いきり切ってください」「おおっ、きれいにできましたね」
【参加者】
「あんな〈みかん〉とか見た時、〈絶対できない〉と思ったんですが、つくってみたら、結構できたから、うれしいかったです。ちょっとはまりそう」
「初めて自分でつくってみて、とても楽しかったです」
【片岡 翔之助さん】
「普段買って食べるのと、自分でつくったものを食べるのと思い入れが違いますので、もっといろいろな人に知ってもらって、お菓子の魅力が伝わればいいなと思います」
(和菓子教室の打ち上げ)
片岡さんは子どものころ、父・圭助さんが開いた和菓子教室で初めて『みかん』を作りました。それが〈和菓子職人になりたい〉と思ったきっかけでした。
(参加者の子どもが和菓子の〈みかん〉を本物のミカンと思って皮をむいている〉
【片岡 翔之助さん】
「かわいいですね」
(子どもが〈みかん〉を食べる〉
(2019年1月/工場の上棟式)
【父・圭助さん】
「上棟式にお集まりいただき、ありがとうございます。後ろの帽子をかぶっているじいちゃんがおじちゃんのお父さんです。梅園の三代目になります。私が梅園の四代目です。おじちゃんの息子、梅園の五代目になります。ここの建物は、この人が借金を返していきます」(一同笑)
(餅まき)
【片岡 翔之助さん】
「子供たちが食べてくれるお菓子を作っていくのが今後の課題かなと思います。(お菓子に)近づいてほしい。華やかなものを見て、お菓子を食べてもらいたい。目にとまるように作っています」
(2021年1月/菓舗梅園の工場)
【三代目 片岡 龍助さん】
「〈お菓子は食べ物だけん。うまかつば、つくれ〉。そう私は(父親に)言われました。それは受け継いでいるつもりです」
【四代目 片岡 圭助さん】
「日本の食文化には〈目で食べる〉という文化がありますので、目でまず味わって、そして、舌で味わう。これが和菓子の魅力でしょうね」
【五代目 片岡 翔之助さん】
「先代を超えていかないとお客さまが認めてくれないと思います。そこが一番重きを置いているところです。形のない、ただの丸から花や果物をつくる。そこに〈芸術性〉があるので、海外の和菓子を知らない方に発信できていけたらいいなと思っています」
2023年10月、熊本市で開かれた結婚披露宴です。
片岡さんは新婦・紗代さんと2021年1月に入籍。新型コロナの影響で披露宴は延期していました。
【乾杯の発声/姪・志那乃(しなの)ちゃん】
「翔くんとは生まれて、もうすぐ5年の付き合いになります。(一同笑)「かんぱ~い!」
「乾杯!」
【カステラ入刀】
和菓子職人の披露宴はケーキ・・・ではなく、カステラに入刀です。『開懐世利六菓匠』の先輩たちがお祝いの菓子を作ってくれました。
【片岡 翔之助さん】
「うらやましいです。同じ年代で同業者として、仲間がいるのがすごくうらやましいです。いろいろなイベントをするのにみんなで集まって『ああじゃないこうじゃない』と話したりできる仲間がいるのが、すごくうらやましいと思います」
【開懐世利六菓匠/北川天明堂 北川 和喜さん】
「花嫁さんです。これから2人で寄り添って、鯉の新しい生活が始まります」片岡さんの祖父母にも花束が贈られました。孫の門出の日に、祖父・龍助(りゅうすけ)さんはおだやかな笑みを浮かべていました。
(菓舗梅園 三代目 片岡 龍助さん 2024年2月 逝去 享年90)
2024年8月、熊本市南区川尻で開催された『夏だ!夜市だ!川尻ワッショイ』。川尻地区の青年たちが中心となって企画、運営する祭りです。実行委員長の片岡さんは目の回るような忙しさです。
【菓舗梅園 五代目 片岡 翔之助さん】
「じいさんたちが培ってきたこの川尻の文化もすごく感じましたし、〈本当にありがたかったな〉と亡くなって気づくことが多いなと思いました」
「時代に合わせて作り替えていって伝統をつなげて、自分の道ができたらいいなと考えています」
伝統を受け継ぎ、守り、新たな道も探り、切り開いていく。手の平の小さな和菓子に込めた、五代目の決意です。
菓子職人の道を歩いて、もうすぐ15年で『開懐世利六菓匠』の先輩たちは自分たちの技術を惜しげもなく教えてくれて「とてもありがたい」と片岡さんは語っていました。
現在の工場は和菓子教室もできるようになっていて、外国の方たちも和菓子づくりの体験をしているそうです。