漁業の担い手不足が深刻化している静岡県西伊豆町。こうした中、釣りの愛好家を漁師として育てる新たな取り組みが始まっている。
自然環境に恵まれるも高齢化率は県内一
絶景スポットが数多くある“夕日のまち” 西伊豆町。
主な産業は観光業だが、伊豆半島の西海岸に位置し駿河湾に面していることから漁業も盛んだ。

ただ、高齢化率は県内で最も高い53%超で、西伊豆町産業振興課の松浦城太郎 係長は「特に一次産業、漁業の分野においては平均年齢が70歳~80歳と非常に高い状況になっていて、今後、漁業の担い手がいなくなってしまう」と強い危機感を抱いている。
町内にある伊豆漁協の支所の中でも比較的組合員が多いと言われる仁科支所。

しかし、2017年には92人いた組合員も今では55人と10年も経たない間に40人近く減っていて、こうした状況を打開しようと、いま「このまちと暮らす釣り人になる」をコンセプトとした西伊豆&ANGLERプロジェクトが進められている。
後継者不足解消へ向けたプロジェクト
仁科漁港で釣り人のサポートをする三上陽平さん(31)。
自身も釣りが大好きで、海に関わる仕事をしようと2024年に地域おこし協力隊として西伊豆町に移り住んだ。

三上さんはプロジェクトのサポートもあり2025年6月に漁業権を取得したが、実は漁師の世界における後継者不足の一因にはこの漁業権取得のハードルの高さが指摘されていて、組合への出資金や権利の行使料などの費用面はもちろん、それぞれの漁協ごとに厳格なルールが設けられている。

前出の松浦係長によれば、西伊豆&ANGLERプロジェクトでは「(漁業体験)ツアーの中で、漁協や漁港周辺の関係者としっかり面通しをして、マッチング出来たら、移住というプロセスを組むので、両者の考えの違いが起こりにくい」という。
三上さんの指導役を務めるのが遊漁船・龍海丸の船長・山田雅志さん(58)。

網をあげてからの魚の外し方や船を操船する際に覚えておきたい岩礁などの地形などについて細かく教えていて、三上さんも「この1年いろいろ教わってます。濃いですよ」と笑う。
山田さんは三上さんと初めて会った時の印象について「漁師になりたいということだけでなく、いろんなことを考えていける子かなと思った」と話し、「それで自分のところで修業しつつ、漁業権も取れるように頑張ればと話した」と振り返る。
一方、三上さんも「趣味が釣りだったので、海のことわかっているつもりだったが、全然何も知らなかった。こうやって修行させてもらうと、海のことも港のことも学べます」と感謝の思いを口にする。

また、山田さんの息子・龍哉さん(31)も「この土地、若い人間が少ないのでこうやって移住してきてくれて、若い仲間が増えてくれたら心強い」と同世代の三上さんを歓迎している。
漁業権を取得して新たな決意
この日、三上さんの様子を見ようと山田さんのもとを訪れたのは小村麻衣花さん。
西伊豆&ANGLERプロジェクトの現地体験ツアーをコーディネートしていて、三上さんのアテンドも担当した。
また、小村さん自身も西伊豆の海に魅せられ移住したひとりで、2023年には漁業権を取得している。

小村さんは「1年目住んだ時は、(漁業権)をすぐ取らせてくれたらいいのに」と思ったと言うが、「2年、3年経ってくると、地元の人たちが海に対してどう考えているのかとか、ローカルルールなどいろいろなものが見えてくる。そこの理解が無いと、今まで(漁業を)つないできてくれた人たちがいっぱいいるので、簡単に取得できるようなものではない」と自身の経験も踏まえて話す。
8月7日。
伊豆漁協の組合員加入の証書を受け取り、「頑張ります。嬉しいです」と満面の笑みを見せた三上さん。
自身も含めて3人が西伊豆&ANGLERプロジェクトを通じて初めての漁業権取得者となり、「やりたいことを快く受け入れてくれる漁師の人たちのおかげで(漁業を)やれるので、恩返しができるように移住者の僕しかできないことで、地元に恩返ししつつ人を呼び込む、何か新しくておもしろいことをやっていきたい」と意気込んだ。

釣りを趣味としている人を漁師に、そして、水産業の担い手にと育てることを目指す全国初の取り組み。
今後の新たなモデルケースとなっていくことが期待されている。
(テレビ静岡)