◆400年以上の歴史…国重文の「伊勢大神楽」継ぐ若者
歌舞伎の世界で血筋を引く者と外の世界から飛び込んだ者のそれぞれの葛藤が描かれている、映画「国宝」が話題になっています。
実は、岡山と香川の島々を巡業する国の重要無形文化財、伊勢大神楽でも“国宝の物語”を思わせる「二人」がいます。継承が課題となる中で伝統をつないでいこうとする二人の姿を取材しました。
「旅する獅子」が2025年も丸亀市の本島にやってきました。400年以上の歴史を持ち、国の重要無形文化財にも指定されている「伊勢大神楽」です。
◆1年のうち10カ月は旅の空…23歳の後継者は15歳の時からこの世界に
家元の一つ、森本忠太夫さんの一行は、1年のうち、10カ月ほどをかけて三重県から近畿・中四国地方を巡っていて、秋には香川県の島々をまわっています。一行を率いるのは、森本和也さん、23歳。家元の忠太夫さんの孫で次期後継者です。亡き父に代わり、血筋を継ぐ者として中学を卒業後、15歳でこの世界に入り、2025年6月から跡継ぎとして本格的に活動し始めました。
(森本和也さん)
「代表になる身なのでその自覚を常に持って何事も前向きにとらえていきたいと思う。」
◆江戸地代から家々巡る大神楽…島では伝統行事
伊勢大神楽は江戸時代、三重県の伊勢神宮の参拝に行けない庶民のため、地方の家々を巡って無病息災などの厄除けの神事を行い、お札を配ったのが始まりとされています。
「旅する獅子」は本島でも伝統行事となっています。
(本島の住民)
「いつもの行事だから最高。生まれる前から来ていると思う。わざわざ伊勢の方から来てくれるから、めったに行けないから(ありがたい)」
◆縁もゆかりもない伝統芸能の世界に飛び込んだ…後継ぎの幼なじみ
8人で活動する一行の中に、もう1人、若者の姿がありました。山本晃輝さん、23歳です。実は晃輝さん、跡継ぎの和也さんとは保育所からの幼馴染。5年前に和也さんに誘われ、それまで縁もゆかりもなかった世界に飛び込みました。
(山本晃輝さん)
「ちょっと変わった仕事がしたいと思っていた。たまたま(和也さんが)いて、本当に試しにやってみるかくらいの軽い感覚で最初は入った」
きっかけは軽い気持ちから。しかし、地方を巡るうちに伝統芸能の世界に惹き込まれていったと言います。
(山本晃輝さん)
「直接客から感謝の言葉とかいただくのでそこで身が引き締まる思い。やればやるほど僕自身がのめりこんでいる。」
◆二人三脚で守る伝統の舞
血筋に生まれた者と外から飛び込んだ者。仕事中はあまり会話はしないようにしているという二人ですが・・・
(森本和也さん)
「頼もしい。一緒に仕事をしてくれるのもそうだがいろいろ覚えてくれているので。頼りにしている」
(山本晃輝さん)
「僕に足りない所を持っている人だと思っている」
◆一行を率いる親方…2人の活躍に目を細める
現在の代表で、これまで一行を引っ張ってきた三木隆美さんも「二人」の成長を温かく見守ってきました。
(三木隆美さん)
「和也と晃輝は幼いころからいつも一緒だった、保育園から。そのつながりであうんの呼吸もわかるし一生懸命二人がケンカもしながらやっている」
「おはようございます」
ー玄関の呼び鈴鳴らすも不在ー
多い時には1日に100軒近くまわっていたと言いますが、島の過疎化は深刻です。
(森本和也さん)
「年々軒数が減ってきているので(終わる)時間が早くなっているのは感じる。寂しい。知っている人がだんだん少なくなるから」
(本島の住民)
「だんだん人数が少なくなって、昔はたくさん見に行っていた。」
◆15歳の秋、後継ぎの和也さんは”おじいちゃんはかっこいい”
午前中に20軒ほどまわり、やっと昼休憩です。午後からは恒例の一大イベントが待ち構えているため、ここでしっかりエネルギーをチャージします。休憩を早々に切り上げた晃輝さんは一人で黙々と練習していました。
この芸を披露するのが島民のもう一つの楽しみ、一行が様々な獅子舞や芸で観客を楽しませる「総舞」です。
かつての和也さんも祖父の背中を追い求め練習を重ねてきました。
(森本和也さん)
「(おじいちゃんの姿はどう?)やっぱりかっこいいですね。すごいなと思ってもらえるような人になりたい。」
◆過疎が進む島…毎年、待ってくれている人たちのために披露する「総舞」
例年なら大勢の見物客でにぎわう総舞ですが、2025年はなかなか人が集まりません。結局10人ほどが集まり、総舞はスタート。
ー剣三番叟を披露する晃輝さんー
ー魁曲を披露する和也さんー
(本島の住民)
「毎年素晴らしい。(まだ続けてほしいと思う?)もちろん。年間の行事だから」
(山本晃輝さん)
「久々だったので緊張した。ご飯ものどを通らなかった。」
(森本和也さん)
「昔から見てくれている人は毎年やってもらわないと困ると言ってくれているので、今でも楽しみのうちの一つになってくれているのかなと思う。」
生まれによる継承と意志による継承。伝統をつなぐ難しさに直面しながらも、「二人」が支え合いながら歩む姿は、伊勢大神楽が紡ぐもう一つの“国宝”です。
(山本晃輝さん)
「先人たちが残してきたものなので自分が残せるかという責任感は当然あるが、そこで折れても仕方がないので前向きに考えて自分が出来ることを精いっぱいに今は考えている」
(森本和也さん)
「一人でも二人でもやらせてもらおうと思っている。見てくれる人がいる限り」