非人道的な刑罰

イランでは9月、4人の男性の右手の指4本を切断する刑の判決が確定したと報じられた。4人はいずれも窃盗罪で逮捕、起訴されていた。

イラン・イスラム刑罰法第278条は、窃盗罪に対し右手の手のひらと親指だけを残し、4本の指を切り落とす刑罰を定める。

イラン人権監視団(Iran-HRM)によると容疑者の一人ハディ・ロスタミ(34歳)は裁判で、自分が犯してもいない窃盗を犯したと認めたのは、拷問で肉体的にも精神的にもギリギリのところまで追い詰められたからだと証言した。

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イラン当局による拷問については2020年9月、国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルが詳細な調査報告書を公開している。そこでは殴る蹴るにとどまらず、水責め、吊り下げ、薬の投与、爪剥ぎ、電気ショックなど、自白を強要するために極めて残虐な拷問が行われている実態が報告されている。

反体制デモに参加し治安部隊員を殺害したとして9月12日に死刑を執行された元レスリングの国内チャンピオン、ナヴィド・アクファリ選手も、拷問で自白を強要されたと証言していた。アクファリの死刑執行に対しては、EUや国際オリンピック委員会(IOC)などが遺憾のコメントを出し、イランを国際的なスポーツ大会に参加させるべきではないという声も上がっている。

指を切断するなどの身体刑は非人道的な刑罰だとして、国際法上の犯罪とみなされる。

「神の法が人間の法に優越する」イスラム教徒の理

しかしイラン当局は、2010年の国連人権委員会で身体刑は「文化的、宗教的に当然だ」と主張し、2019年にもイラン検事総長が、国際的非難を免れるために指切断刑がほとんど執行されず、神の法がなおざりにされているのは極めて遺憾だとコメントした。

イラン当局がこのように強弁するのは、この刑罰の源が『コーラン』にあるからだ。『コーラン』第5章38節には、「盗みをした男も女も、報いとして両手を切断せよ。これはかれらの行いに対する、神の見せしめのための懲しめである」とある。イスラム教徒にとって『コーラン』は神の言葉そのものであり、その命令は絶対である。いくら現代の国際法に基づき身体刑が非人道的だと非難されようと、イスラム教徒は意に介さない。神の法が人間の法に優越するのは彼らにとって当然の理だからだ。

コーラン第5章38節「盗みをした男も女も報いとして、両手を切断せよ」

かつて「イスラム国」はシリアやイラクなどの支配地域において、窃盗者の手首を切断する刑を執行していた。イランが手首ではなく指の切断にとどめおくのは、これと比較すると「寛大」であるとすら言える。

イランは2019年10月、窃盗者に対する指切断刑を執行した。米拠点の人権組織アブドッラフマン・ボロマンド財団によると2000年から2020年9月までの間に、イラン当局は少なくとも237人に切断刑の判決を下し、少なくとも129件を執行したという。

「反米」で歩調を合わせつつあるイランと中国

9月25日、イギリス、フランス、ドイツなど47カ国が国連人権委員会に共同声明を提出し、恣意的拘留、不当裁判、自白の強要、拷問、処刑などイランにおける深刻な人権侵害の実態を非難し、世界的に著名な人権活動家ナスリン・ソトゥデなどの政治犯の即時釈放を求めた。

米国務省は9月19日イランを「無法国家」とする報告書を公開、その中でポンペオ国務長官は、イランはテロと反ユダヤ主義の世界最大の国家スポンサーであり、中東の不安定化の主要な推進者だと非難、アクファリの処刑にも言及しイラン体制の最大の犠牲者はイラン国民だと糾弾した。

ポンペオ国務長官

国際社会から孤立する中、イランは同じく米と対立する中国との距離を急速に縮めている。中国はウイグル人やチベット人などの少数派を強制収容所に入れたり、女性に不妊手術を強制したりするなど、こちらも非人道的な弾圧が国際的に非難されている。

中国の習国家主席(左)とイランのハメネイ最高指導者(右)

反米国家は今や、自国民に対する非人道的な弾圧という点においても、歩調を合わせつつある。

【執筆:イスラム思想研究者 飯山陽】