特に最近、カナダで大規模な違法行為が急増しています。カナダではシラスウナギの採捕量の上限は年間約10トンと定められているのですが、2022年に年間約43トンのシラスウナギがカナダから香港へ輸出されていたことが発覚しました。カナダ政府は事態を重く見て、2024年のカナダ国内におけるシラスウナギ漁を全面禁止としました。にもかかわらず、同年には再び約42トンものシラスウナギが香港へと輸出されたのです。

また、2022年にはカリブ海のハイチから100トンのシラスウナギが香港に輸出されています。ハイチは政情が非常に不安定ですので実態把握は難しいのですが、100トンものウナギを正規で輸出するというのは考えにくいことです。2025年1月の国連安全保障理事会では「ウナギの密売が麻薬の密売やマネーロンダリングに繋がっている可能性がある」と報告されています。

私たちも間接的に加担している可能性

――二つとも遠く離れた国の事件ですが、私たちが普段食べているウナギとは関係あるのでしょうか。

関係はあります。カナダやハイチの業者が違法ウナギを輸出した香港ではウナギの養殖は行われておらず、輸入したウナギは養殖のため、主に中国へと再輸出されます。

つまり、カナダやハイチから輸出されたアメリカウナギのシラスウナギは香港を経由した後中国で養殖され、蒲焼きなどに加工されて中国内外で消費されます。その一部は輸入され、日本の食卓に上ります。

違法なウナギの一部は蒲焼きなどに加工されて日本に入ってきている(画像はイメージ)
違法なウナギの一部は蒲焼きなどに加工されて日本に入ってきている(画像はイメージ)

最近日本の小売店や生協を調べた我々の調査では、現在、日本で流通しているウナギの蒲焼の約4割がアメリカウナギでした。

海外で起きているウナギの密漁や密輸、それに関わる薬物犯罪やマネーロンダリングなどの問題は、決して日本と無関係ではなく、じつは知らないだけで我々も問題に加担している可能性があります。日本は一人当たりの消費量世界一のウナギ消費国。消費者は、ウナギの背後にある様々な課題について、もっと実情を知っておくべきでしょう。

6月27日、EUはニホンウナギを含む全てのウナギをワシントン条約の対象にすることを提案した。これを受け、食卓への影響やウナギの未来はどうなるのかについても海部さんに聞いた。記事はこちらから→「ニホンウナギがワシントン条約の対象になったら食べられなくなる?数は増える?ウナギの未来はどうなるのか専門家に聞いた

『日本のウナギ 生態・文化・保全と図鑑』(山と渓谷社)
『日本のウナギ 生態・文化・保全と図鑑』(山と渓谷社)

海部健三(かいふ・けんぞう)
中央大学法学部教授。河川や沿岸域におけるウナギの生態研究のほか、ウナギを適切に管理する仕組みづくりに関する研究活動を行う。著書に『結局、ウナギは食べていいのか問題』(岩波書店)、『日本のウナギ 生態・文化・保全と図鑑』(山と渓谷社)など。

取材・文=中村宏覚

プライムオンライン特集班
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