高速道での逆走、駐車場での暴走など高齢ドライバーの事故が相次いでいる。免許証の自主返納が対策の1つだが、山間部が多い長野県内では「なかなか車を手放せない」という人も多くいる。現状と課題を取材した。
99歳男性が運転の車が逆走…正面衝突
6月11日の中央道下り線・恵那山トンネル。「逆走車」が右車線を走ってきた。
逆走車を目撃した人は「顔をハンドルに近づけるような体勢で口をポカーンと開けてどこかぼーっとしている様子だった」と話した。

運転していたのは長野県阿南町の99歳の男性。男性が運転していた軽乗用車は、トンネル内で別の車と正面衝突し、衝突された車の運転手が大けがを負った。
高速道路にいたことも認識せずか
男性は1人暮らしで当時、飯田市内まで買い物に行き、帰りに迷って高速道路に入ってしまったとみられている。
事故の2日後、取材に応えた99歳男性の息子は、「買い物に行っていたのは確か。そこから帰ろうとして道を間違えて高速に入ったみたい。パニックになったのか、何か勘違いをしたのか、本人も分かっていないのでは。原因とか聞いてもそもそも(耳が遠くて)聞こえていないので、会話があまりスムーズに成り立たない」と述べた。

男性は警察に対し、「見慣れない景色から道に間違えたことに気付いた」という趣旨の供述をしていて、高速道路にいたことも認識していなかったとみられている。
スーパー駐車場で76歳運転の車が暴走
長野県内で高齢ドライバーの事故が相次いでいる。
5月2日には御代田町のスーパー駐車場で76歳の女が運転する車が暴走。73歳の女性がはねられ死亡した。

警察はアクセルとブレーキを踏み間違えた可能性があるとみて調べている。
長野市内では2025年、7件の死亡事故が発生。2024年に比べ急増していて、県は「長野地域」に「多発警報」を出した。このうち6件は高齢者が運転する車が絡む事故だった。
警察は「講習」義務付けなど対策
高齢者の事故防止のため、警察は免許更新の際に70歳以上の人には高齢者講習の受講を、75歳以上の人はそれに加え、認知機能検査を義務付けている。
5月16日に行われた免許更新のための認知機能検査。職員が高齢者に「後で何の絵があったのか全て答えてもらいますので、よく覚えてください」と呼びかけ、複数のイラストを見せた。認知機能検査では記憶力や時間の感覚を調べ、「認知症のおそれがある」と判定された場合は、免許の取り消しや効力の停止を受けることがある。

認知機能検査を受けた男性(83)は、「どこに行くとしても車がないと困る。動体視力も落ちてくるから気付くのが遅くなる。長いこと運転しているからいいというのが一番いけない」と話した。
女性(80)も「バスもなくなって、3年前に更新した時、81歳までと思ったけど、今考えたらやはりいる(必要)。いつも慣れている道だけど危険を感じるときがあるから怖い」といい、高齢者は免許は手放せないようだ。
警察も対策しているが、高齢ドライバーの事故は後を絶たない。
中央道を逆走した99歳の男性は、息子によると、2025年3月に免許証を更新。認知機能の検査もクリアし、いわゆる「ゴールド免許」だった。
最も効果的なのは「自主返納」だが…
最も効果的な対策はやはり「免許証の自主返納」だが、自主返納の現状は―。
県警によると、2024年12月末時点で高齢者(65歳以上)の運転免許証保有者数は約46万人。高齢者全体の7割だ。

一方、2024年、免許を自主返納した高齢者は約7000人、1.5%程度にとどまっている。全国平均の2%を下回っている。
「車を手放せない」交通の便が課題
山間部の多い長野県。交通の便もあまり良くなく、車を手放せないという人が多いとみられる。
「高齢者の方の事故が増えておりますので、運転する際は気をつけて」
6月19日に長野市のスーパーで警察官が実施した啓発活動。

このスーパーでも6月17日に91歳の男性が運転する車が駐車場から出る際に向かいの店舗の壁に衝突する事故が発生。助手席の84歳の妻が死亡した。
警察は高齢ドライバーに対し慎重な運転、運転支援機能のついたサポカーの乗り換え、そして「運転免許証の自主返納」の検討も呼びかけた。
警察「積極的に返納呼びかけづらい」
スーパーに運転してきた高齢者に車の必要性を聞いてみると、男性(89)は「車がないと不便だね。車がないと仕事にならない、山の上にいるので。出しても40km/hくらいでずっと走って、無理しないで」と話した。
91歳男性は「(車の運転は)買い物とか、うちの母ちゃんが寝たきりだから、病院に連れて行ったり。息子には言われている。あまり人を乗せちゃいけないよと。来年まで免許(の期限が)ある。(返納するか)どうしようかと」と子どもと相談しているものの、日常生活での運転の必要性を感じていて、悩んでいる。

中央道を逆走した99歳の男性も息子から免許を返納するよう促されても、これまで受け入れなかったという。
99歳男性の息子は「この辺の人は車はすぐそこに行くのにも使うみたいな感じ。(運転を)もうやめろとは更新の前から言っていた。恐れていたことが起こったというか。(事故受け)免許返納も認めさせたし廃車も認めさせた」と話した。
ある県警の担当者も「地域の特性もあり長野県では積極的に免許の返納を呼びかけづらい」という。
運転に不安ある場合は相談を
県警は高齢ドライバーに対しまず、「通り慣れた道でも油断せず安全確認と慎重な運転を心掛けること」「身体機能を過信せず、丁寧な運転をすること」など呼びかけている。
そして、運転に対する不安がある場合は家族も含め警察に相談してほしいとしている。全国統一の安全運転相談ダイヤル「#8080」に電話すれば最寄りの免許センターに設置されている窓口などにつながり、状況に応じた対応策など相談できるという。

県警東北信運転免許課の今溝隆次長は「若いときには感じなかったこと、反応が遅くなったとか、アクセルとブレーキを踏み間違えただとか、今までになかったことが起きたときには、まず家族や警察に相談したりして、自分たちの良い方向に進めてもらえば」と述べた。
(長野放送)