「ウナギの減少には、『過剰な漁獲』『堰やダム、護岸などによる成育場環境の劣化』『化学物質による汚染』『寄生虫など病原体の侵入』『温暖化による海流などの海洋環境の変化』など様々なことが関わっていると言われていますが、何が一番影響を与えているのかわかっていません。
『過剰な漁獲』が原因だとしたら、食べる量をセーブして、ウナギを取り過ぎないようにすれば個体数は増えるはずですよね。でも現実はそうはなっていません。例えば日本では漁業者の数は減少傾向にあるのに、日本にやってくるシラスウナギの数は相変わらず減り続けているのです」
人間の過剰な関与は避けるべき
養殖ウナギの放流や、魚が河川を遡れるように魚道を整備するといった保全への取り組みに対しても海部さんは懐疑的だ。
「放流によってウナギが増えるかどうか、実はわかっていません。むしろ、野生のウナギや生態系に悪影響を与える可能性も指摘されています。魚道の整備にも、プラスとマイナスの両面があります。魚が川を遡れるようになるのはいいとして、魚道に魚たちが集中するため鳥に狙われやすくなってしまうのです。
それよりももっと問題なのは、魚道を作ったことで人間が満足してしまい、根本的な問題から目をそむけてしまうことです。本来は魚道を作る前に、すでに存在しているダムや堰がその川に本当に必要なのかを考え、そして必要ないと判断した場合は、魚道を作るよりもダムや堰を撤去する方向に向かうべきなのです」

海部さんによれば、ヨーロッパやアメリカはすでにダムを壊す方向に向かっていて、大型ダムが次々に撤去されているのに、日本で大型ダムが撤去された例は今のところ熊本県の荒瀬ダムの一例だけだとか。
「自然や生き物の保全活動では、人間が加剰に関与することを避けるべきです。多くの場合、生き物は放っておけば増えていく、あるいは一定の数を維持します。それがうまくいっていないときには、消費や環境改変など、人間の行為が彼らになんらかの悪影響を与えている可能性が高いのです。
だから生き物を保全するためには、人間が影響を与えている部分をどう緩和していくかを考えるべきなのです。放流のような生き物に対する積極的な関与は、生き物を守ろうとして、かえって悪影響を与えてしまう可能性があります」