鳥海山の麓、秋田・由利本荘市矢島町に2024年、ワイナリーが完成した。人口減少が進む古里の将来を考え、たった1人でワイン造りへの挑戦を始めた若き農家。ワインの産地としては決して恵まれた土地ではないが、地域の気候を長所と捉え、ここでしか出せないワインの味を追求している。
地域と調和した味わい目指す
鳥海山の麓に広がる由利本荘市矢島町。約4000人が暮らすこの地域でワインが造られている。

「アルモニ秋田」と名付けられたワインは、赤ワイン用の品種・メルローに山ぶどうを掛け合わせた『富士の夢』というブドウを使ったすっきりとした飲みやすいワインで、“調和”という意味の名前にちなんで地域と調和した味わいを目指している。

このワインを醸造したのは、TOYOSHIMA FARM(とよしまファーム)を運営する豊島昂生さん(35)。「ここのブドウ畑の良さを発揮したワインにしたいと思って造った」と話す。
矢島町で生まれ育った豊島さんは、東京の大学を卒業後、大阪の会計事務所に就職。1年ほど働いたが忙しさで体調を崩し、2014年に古里に帰ってきた。
学生時代は「農業はかっこ悪い」と思っていた豊島さんだが、帰郷後、父親の農作業を手伝ううちに考えが変わったという。

TOYOSHIMA FARM・豊島昂生さん:
太陽の下で体を動かしながら汗をかきながら働く。そこに本来人があるべき姿というか、すごく充実感を覚えた。一度古里を離れてみて、ありがたみにようやく気付くことができた。
就農を決意!選んだのはワイン造り
本格的に農家になることを決心した豊島さんは、稲作に取り組む傍ら他県のワイナリーを見学し、ワイン造りに興味を持つようになった。
豊島昂生さん:
人口減少で過疎化がどんどん進んでいく時代に、私一人が農業で成功したところで将来は見えている。それよりも発展していけるものを考えたところ、6次産業化に期待できると思いワインを選んだ。

ワインに可能性を感じた豊島さんは、2016年にTOYOSHIMA FARMを設立してブドウ作りを始めた。いまではシャルドネや富士の夢など8種類、約6500本のブドウを育てるまでに規模は広がった。

そして2024年、待望のワイナリーが完成し本格的にワイン造りに着手した。豊島さんはブドウの管理・収穫からワインの醸造、商品のラベル貼りまで1人で行っている。
瓶を拭く作業は「本当はやらなくてもいい」と言いながらも、豊島さんは「お客さんに飲んでもらう時に、ピカピカのボトルを手に取ってもらいたいという思いがあるので拭いている」と笑顔を見せる。
短所を長所に!飲みやすさを追求
古里で始めたワイン造りだが苦労は絶えない。

矢島町は全国の他産地に比べ、日照時間が少なかったり、降水量が多かったりと、実はブドウ作りに向いていないのだ。それでも豊島さんは「この地域でしか出せないワインの味がある」と話す。

豊島昂生さん:
同じブドウ品種でも栽培地域、栽培する人によってワインの味ががらりと変わる。雨が多いのは逆に言えば特徴になるのではと考えている。普通は雨の少ないところでワインを造って、熟成に耐えられるような凝縮したワインを造るが、飲みやすさを追求していく上では長所となると考えている。

人口減少で次第に過疎化が目に見えて分かるようになってきているという由利本荘市矢島町。
豊島さんは「こうした状況でも地域に人を呼べるようなワイナリーやブドウ畑があって、そこで活躍する姿を次の世代の子どもたちが見て『農業ってこういうやり方があるんだな』とか『ワインって面白そうだな』とか、ぜひ農業に注目してくれたらうれしい」と、地域の主要産業である農業の未来への思いを語る。

月に一度ワイナリーを開放し、ワインの販売を行っているTOYOSHIMA FARM。矢島町でしか造れない唯一無二のワインを目指して豊島さんの挑戦は続く。
(秋田テレビ)