オウム真理教による地下鉄サリン事件から10日後の1995年3月30日、国松孝次警察庁長官が銃撃され瀕死の重傷を負った。
事件との関与が浮上した、オウム信者であり警視庁の現役警察官でもあったXは「警察庁長官を撃った」と証言したが、その供述はデタラメばかりで、結局不起訴となった。警視庁は捜査を続けたが、2010年3月30日、ついに時効を迎えた。
一方、教団とは無関係の男・中村泰（なかむら・ひろし）は「自分が長官を撃った」と供述。関係先からは拳銃や銃弾、偽造パスポートが発見された。
発生から30年を迎えた警察庁長官銃撃事件。
入手した数千ページにも及ぶ膨大な捜査資料と15年以上に及ぶ関係者への取材を通じ、当時の捜査員が何を考え誰を追っていたのか、「長官銃撃事件とは何だったのか」を連載で描く。
（前話『「誘拐された日本人の解放に取り組みたい」長官銃撃事件“自供”中村泰が取り調べて語った事…拉致事件解決のため武装化か』はこちらから）
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長官銃撃事件の取り調べ開始
新宿の貸金庫から見つかった大量の銃器・弾薬をめぐる銃刀法違反などの事件について、中村泰は2004年3月4日に起訴されたことから、警視庁捜査一課の原雄一係長は3月16日から本格的に長官銃撃事件についての調べを開始した。
この時点で判明していた中村と長官銃撃事件の接点は以下の通りである。
・中村が居住していた三重県名張市の協力者Aの居宅にて押収したフロッピーディスクに長官事件に関与したことを伺わせる叙事詩が多数見つかったこと。
・中村が「浅野健夫」との偽名で契約していた新宿の貸金庫の開閉時間が、事件当日の1995年3月30日は午前9時26分となっており、犯行後に貸金庫に立ち寄り凶器となった拳銃を隠匿した可能性があること。
・犯行現場となった荒川区南千住所在のアクロシティから新宿の貸金庫まで、最寄りのいずれかの交通機関を利用して移動した場合、貸金庫の開閉時間である午前9時26分までに移動できること。
・南千住駅からアクロシティまでの道順を鉛筆でなぞった地図を中村の居宅から押収したこと。
・中村の居宅から長官銃撃事件に関する新聞記事や雑誌の記事を多数押収したこと。
・三重県名張市の居宅や新宿の貸金庫で銃器や弾薬が多数見つかったことから、中村がアメリカで大量の銃器・弾薬を購入・入手し日本国内に持ち込んでいたこと。
・中村に高度な射撃技術があること。
