「値上げしたくないが、このままでは...」弁当業界に広がる危機感

富山県の弁当製造会社の破産をきっかけに、県内の弁当業界に危機感が広がっている。食材価格の高騰が続く中、企業や施設向けの弁当を手がける業者たちは、値上げと品質維持のジレンマに直面している。

突然の破産に驚く利用者たち

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「4月30日の朝、普通にお弁当を持ってきた。午後に回収しにきた時に紙を渡された。30日いっぱいで弁当の製造を中止することを知らされた。びっくり」

富山市の障害者就労支援施設の指導員、橘悠太さんは、ユニオン・ランチの突然の破産に驚きを隠せない様子だった。同施設では10年ほど前から毎日ユニオン・ランチの弁当を利用してきた。

5億円超の負債、コロナ禍と食材高騰が追い打ち

ユニオン・ランチは企業や福祉施設向けに弁当を製造・販売し、社内食堂の運営も手がけていた。1日およそ7500食を納品していたとみられるが、コロナ禍での売上減少に加え、近年の食材価格高騰分を価格に転嫁しきれず、事業継続を断念。負債総額はおよそ5億7900万円にのぼり、先月30日に破産手続きの開始決定を受けた。

新規注文殺到、しかし危機感は拭えず

滑川市の「お弁当のとみや」では、ユニオン・ランチの破産後、新規注文の問い合わせが殺到している。池下陶子社長は「困っている客が『ニュース見ましたよね?』と電話がよくかかってくる」と話す。

しかし、注文数の増加が喜びばかりをもたらすわけではない。池下社長は「弁当業界は今、危機的な状況だ」と危機感を露わにする。

原材料費高騰、値上げは避けられない現実

「コメが今、倍以上の値段になっているが、それ以外でも現状維持の価格のものがないというくらい全てが上がっているので、値上げの時期をいつにしようか考えている」と池下社長。

とみやでは2年前にすべての弁当を100円値上げしたが、今年の秋ごろまでにさらに100円以上の値上げを予定している。しかし、「400円ほどで提供してほしい」という利用客の声もあり、価格設定に苦慮している。

品質維持か、価格据え置きか、難しい選択

「米油を使っているんですけど、今コロナ明けで倍以上の値段に。今それをやめるわけにはいかない、客の満足度は下げたくない」

揚げ物が好評なとみやでは、品質維持と価格据え置きの難しい選択を迫られている。食材や調味料だけでなく、衛生用品の値上がりも経営を圧迫している。

「競争より共存」業界全体で乗り越える姿勢

「できれば値上げはしたくないが客の声を拾いすぎるとこれだけの物価上昇の中で、従業員を抱えている中で安くするとは言えない。価格競争ではなく、適正価格の設定を。競争より共存という意識でできたらいいな」

池下社長の言葉には、厳しい状況を業界全体で乗り越えていこうという姿勢が表れている。

長引く価格高騰の中、弁当業界は今後も厳しい経営判断を迫られることになりそうだ。利用者にとっても、日々の食事を支える地域の弁当店の行方から目が離せない状況が続きそうだ。

富山テレビ
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