なぜ25年もの時間を要したのか。
広島高速道路公社は2025年4月30日、広島高速5号線・二葉山トンネルの掘削が完了したと発表した。
二葉山トンネルの建設案が浮上したのは2000年。当初、完成時期は2007年度だった。
紆余曲折した25年間を振り返る。
住民の信頼得られず 事業が一時休止
二葉山トンネルの建設をめぐっては工事が始まる前から住民が猛反発。その背景にあったのは、2006年に開通した広島高速1号線「福木トンネル」の存在だ。

「ぞっとした。主人と2人で床下に首を突っ込んでのぞいて、亀裂がどこまでいっているのか」
2007年、福木トンネルの工事によって床下に亀裂が入った広島市東区の住民が自宅を公開。周辺地区では想定を超える地盤沈下が発生し、住宅が傾くなどの被害が続出した。
同様の被害を懸念して、すでに計画されていた二葉山トンネルの事業案に対し、建設予定地の真上に位置する地区の住民が反対の声を上げ始めた。二葉山トンネル建設に反対する牛田東三丁目の会・棚谷彰代表は「意見の食い違いはあるが、トンネルを掘ることの不安は伝えたので、理解してもらえたのでは」と話していた。それから何度も行政と住民の間で話し合いが行われたものの、工事の安全性に対する住民の不安は払拭されず、議論は平行線をたどった。

2011年に開かれた住民説明会では、最前列で説明を聞いていた住民が怒りのあまり行政職員の目の前で資料を破り捨てる場面も…
揺らいだ信頼関係は修復されず、一時、事業が休止となった。
構想から18年 掘削工事始まる
計画が再び動き始めたのは構想から約12年後。

2012年に広島市の松井一實市長は「広島高速5号線のトンネルの施工は可能と判断し、事業を再開することといたしました」と、広島県の湯崎英彦知事も「客観的には安全性を確保できるという判断に至った」と発表。市長と知事の両者は、広島駅と高速道路網を結ぶ重要なインフラであると判断し事業再開を決断した。

その後、地盤沈下の抑制に優れた「シールド工法」を採用するなど度重なる計画変更を経て、掘削工事が始まったのは2018年9月のこと。
ところが工事が始まってからも、掘削機の故障が度々起こり工事は中断。トンネル内の硬い岩盤を前に工事は思うように進まなかった。
恐れていた“異変”が次々と…
さらに、住民たちが長い間、抱いていた懸念が現実のものに。

住宅地の外塀の一部が落下。住民は「敷地の中に落ちたからいいけど、外に落ちてごらんなさいね。危なかったですよ」と憤り、掘削工事による振動が原因ではないかと見ている。
また、別の住宅ではふすまの建て付けが悪化。
「冷暖房が効かない。隙間から空気が逃げるから直せと言ったんですよ」
住民の要望を受けて公社が隙間をなくす応急処置を行ったが、ふすまは動かなくなったという。そのほかにも亀裂や水漏れなどさまざまな異変が現れ、約半年間、工事が中断することもあった。

反対の声をあげ始めてから18年。
2025年の掘削完了という1つの区切りを迎えても住民の心配は続いている。二葉山トンネル建設に反対する牛田東三丁目の会・棚谷彰代表は「現象・原因調査・因果関係をピシッと整理整頓しなきゃいけない。少しでも原因があったら補償の対象にすべきじゃないかと。そうするべきだと言って、まだこれも交渉は平行線ですよ。まだね…」と出口の見えない現状を憂いた。
25年間で膨れ上がる事業費の問題
掘削完了をもってすべてが解決したわけではない。トンネル工事が長引いていることで出てきたもう1つの問題が「事業費の拡大」。
【広島高速5号線・事業費の推移】
2000年9月 965億円
2006年2月 739億円
2014年3月 869億円
2016年12月 949億円
2020年1月 1259億円
2023年10月 1289億円
事業に着手した2000年時点で965億円だった事業費は、4車線を2車線に規模を縮小したことで2006年に226億円減少。しかし、その後はトンネル工法の変更や期間延長に伴って増加の一途をたどり、2023年時点で1289億円に膨れ上がっている。
新たな高速道路がもたらすアクセス向上との費用対効果はどうなのか。検証が求められる。
(テレビ新広島)