事件当日に現場周辺で信者の目撃情報
これまでの捜査により、Xや井上以外にも、事件当日の「危ない自転車の男」に似ていた矢野隆(仮名)や、その矢野がテレビ朝日にかかってきた脅迫電話の音声を聞いて、声の主だと指摘した金子充(仮名)が浮上している。

現場での目撃情報などから端本悟元死刑囚の名前も捜査線上に挙がったほか、早川紀代秀元死刑囚が現場の指示役だったのではないかとの見立ても出てきている。
Xの供述のみならず彼らの動きが、いくつもの蜘蛛の巣となって絡まりあい事件の真相を隠していた。その糸の絡まりを解きほぐし、本ボシにつながる糸を手繰り寄せなければならない。
井上元死刑囚の立場の変化
長官銃撃事件のキーマンは「Xからの連絡で長官銃撃事件を知った」と証言した井上嘉浩だったと言っていい。X供述によれば、井上自身が何度も現場の下見をした可能性があった。

それにも関わらず井上に言わせれば長官事件当日は蚊帳の外だったという。
目黒区公証役場事務長逮捕監禁致死事件(通称・仮谷さん事件)の捜査が活発化していった95年3月、井上の教団内での立場は急速に悪化していたという。

この事件はオウムが、ある女性信者の全財産を狙ったことから始まった。女性は自らに迫る危険を察知して身を隠す。教団は女性の居場所を突き止めようと必死に探した。居場所を突きとめるため、女性の兄で目黒公証役場事務長だった仮谷清志さん(当時68歳)を井上嘉浩の指揮のもと教団信者らが拉致するのである。仮谷さんから居場所を聞き出そうとしたが失敗し、監禁中に死亡させた。