食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「卵入り焼きそば」。
東京・南千住にある甘味処「大釜本店」を訪れ、もうすぐ創業100年を迎える老舗店の看板メニューで、客がこぞって注文する一品を紹介。やきそばの旨味とコクを飛躍的にアップさせる、プロの技を学ぶ。
再開発で利便性高まり人気の南千住
「大釜本店」があるのは、東京・荒川区南千住駅。
南千住はこれまであまり縁がなかったという植野さん。
3つの鉄道が乗り入れ、東京駅まで17分と好アクセスの南千住は、再開発で駅前に大型ショッピングモールやタワーマンションが建設され、利便性の高いエリアに。

東京の2大貨物駅のひとつである隅田川駅から貨物列車を間近で見ることができる人気スポットもある。
南千住駅から浅草方面へ歩いて行くと見えてきたのが、赤い街灯が目印の「アサヒ商店街」。東西に約250メートルあり戦前から商いを続ける店も残る、静かな日常が流れる商店街だ。
多様なメニューで常連に愛される甘味処
南千住駅から徒歩18分の場所にあるのが、甘味処「大釜本店」。1928年に開店し、伝統の味を今に伝え、世代を超えて愛される店だ。

4代目店主の青山久子さんと3代目女将の長田悦子さん。昔ながらの変わらない味と温かい接客、母娘二人三脚で切り盛りしている。

店頭でいなりずしや赤飯を販売をしていたり、店内では甘味やラーメン、焼きそばなどの麺類が楽しめる、使い勝手のいい店なのだ。
常連に話を聞くと「月に5~7回来てると思います」「何十年もおしるこ以外は食べたことがない」「友達から美味しいと聞いた、ここの焼きそばは他では食べたことがない味」と古くからの常連が足繁く通う、地元の名物店。
猛反対の末に…家族でレシピを習得
初代・長田きよせさんから始まり、4代目となる現在まで、約100年もの歴史を紡いできた「大釜本店」。焼きそばが一般的ではなかった時代に初代が少ない材料でできる店オリジナル焼きそばを提供していたという。

植野さんが「最初の、作り方から初代が?」と尋ねると、2人は「初代がはい。その作り方だけは変わってないと思います」と答えた。
さらに植野さんの「ずいぶんハイカラというか、(当時からすると)新しい食べ物だったわけですよね?」と聞くと、3代目の悦子さんは「かなり繁盛していました」と振り返った。
代々、大切に受け継いできた、やき焼きそばのレシピ。現在の店主・久子さんが結婚する時に、ある出来事がという。

久子さんは「姉妹しか生まれなかったので、結婚は大反対、猛反対。私が選んだ方が長男でサラリーマンだったので、おじいちゃんもおばあちゃんもダメ(と言われた)。お婿さんになる人は継いでくれる人(だった)」と結婚当時の苦労を語った。
猛反対の末に結婚し、4代目となった久子さん。夫、息子たちも仕事が休みの日には店を手伝いに来てくれるという。「豚バラ焼きそば」や「スタミナ味噌ラーメン」は息子たちが考案し、大人気メニューになったそう。
さらに店の味を絶やさぬようにと、夫も、息子も、家族全員、焼きそばのレシピを習得している。悦子さんも長男の焼きそばを「美味しいです、合格点。これならお店出せるわ」と絶賛した。長男も大釜本店を「せっかくなら守っていけたらいいなと思います」と宣言した。

本日のお目当て、大釜本店の「卵入り焼きそば」。
一口食べた植野さんは「麺のおいしさも感じられる、ソースが絡んでしっとりした感じが良い」と称賛する。
大釜本店「卵入り焼きそば」のレシピを紹介する。