「オウムを守った。救済した、という気持ちですがすがしい気持ちでした」
「その後はどうやって逃げたの?」
「すがすがしい気持ちだったので慌てて逃げるような感じでもありませんでした」

「銃は自転車に乗る前にカバンにしまい、自転車に乗りFポートに沿って走らせ、一度違う路地に迷って入りそうにもなりましたが、Dポートの前を右に曲がってスロープを下りました。
スロープを下りたところの突き当たりを左に行くと月極駐車場が見えてきます。
そこを右に住宅街を入って行きました」

「その先に黒っぽい乗用車が待っていて運転手が手招きしたので、そこに自転車を乗り捨て助手席に乗り込みました。
少しすると後部座席に息を切らせ走ってきた男が乗り込んできました。田上健さん(仮名)でした。
彼を乗せてすぐ車は発進し、入谷の交差点で田上さんを降ろしたあと、上野方向を走っていき、東大の池之端門を入って東大病院まで送ってもらいました」

「東大病院で簡単な診察を受け、その後本富士署に向かう途中、突然自分が長官を撃った犯人であることに気づいたんです」
病院での受診の後「自分が長官を撃った犯人であることに気づいた」というX供述のおかしさに石室らはもちろん「何を言っているんだ?」という思いで聴いていた。それでもXの話を遮らないよう努める。
「体の芯が震えて頭の中が真っ白になるほどショックを受けました。
午前9時15分頃、署の正面玄関から入ると、公安係への差し入れの缶コーヒーを買って、それを食堂のお盆に乗せ、結城巡査部長(仮名)のいる公安係の部屋に戻りました。
戻ると結城さんが長官事件の犯人の逃走ルートなどについて話してくれました。
10分くらい滞在してから、その後は署を出て、昼ごろサリン事件捜査本部の相勤者と恵比寿交番で会い、2人でバス会社の聞き込みに行きました」
ここまで黙って聴いていた石室は肝心な話を聴いた。