
阪神・淡路大震災では、水道管の破損が相次ぎ、水が途絶えた。
その時、水道局の職員が迫られていた、知られざる決断。
30年がたった今、私たちの水は地震に耐えられるようになったのか、取材した。
■漏水箇所が多過ぎて被害が分からなかった神戸の水道

30年前。神戸の街では、命をつなぐ「水」が途絶えた。
〈当時のニュース映像〉 被災した人:水がないんでね 困りますね。
「水を届ける」責任を負う水道局でも、庁舎が崩落。
そして、街の被害は職員の「常識」を超えていた。
神戸市水道局 浄水統括事務所 橋上重弘所長:漏水があると道路面で水が噴き出すのが常識だと思っていたのですが、全くそれではなかった 。(だから最初は)あまり被害ないんじゃないかなって思ったりしました。実際は、被害の数が多すぎて、あまりに同時にたくさんのところで漏水したので、上に上がるほどの水圧がかからなかった。
神戸市内では、1757カ所もの配水管が破損。 水道局が残した記録からは、地震直後の、混乱した様子が見て取れる。
【水道局の資料より】 「約4時間でトンネル及び市街地の貯水水量が0になる旨の連絡がある」 「病院より水が約1時間しかもたないと依頼がある」
■水の分配で難しい判断迫られる

パニックに陥る中で、難しい判断を迫られていたのが、奥平野浄水場にあったオペレータールームだ。
神戸市内の各地域に、水をどう分配するのか決めるのがその役割。
当時、奥平野浄水場で勤務をしていた坂田さんには、忘れられない光景がある。
神戸市水道局 東部水道管理事務所 坂田昭典所長:ここの4階にオペレーターの部屋がありまして、景色を見渡していた。こちらの方向なんですけど、長田区、兵庫区ですごい火の手が上がっていまして、ここからでも黒い大きな煙がもくもくと上がっているのがよく見えました。
普段とは全く違う、黒い煙で覆われた街の姿。
■家が燃えるのを見ているしかなかった人たち

「水」がないために、消火活動は難航を極めた。
街ではあちこちから、「水さえあれば」の声が聞こえていた。
(当時のニュース映像) 記者リポート:消火活動が続けられているのですが、どうでしょうホースから出る水の勢い これは私たちが知っている消火活動の水の勢いではありません。
燃える家を見つめる人:こんなむごいことない。こんな、燃やすの見てるだけ。
消火活動をしようとする人:圧がない、圧が。圧がなくてだめ、届かない。
■水道局では「火災現場への最優先の送水」を決断

そんな中でオペレーターたちが下した決断は、「火災現場への最優先の送水」。
それは、他の地域への送水を、後回しにすることを意味した。
神戸市水道局 東部水道管理事務所 坂田昭典所長:地震後、いつになったら水が出るんだという電話が殺到していた。かなり混乱していた状況。当時は病院を優先して水を送るべきという状況もありましたし、避難所にも水を送りたい」 「いろんな優先すべきことがある中で判断しながら水のコントロールをしていった。オペレーターは心身ともに大変な状況になっていたと思います。
■しかし消火活動は思うように進まず…

苦しい決断の末に、送られた水。 しかし、当時消火活動にあたっていた上村さんはこう証言する。
神戸市消防局 上村雄二消防指令:試しましたよ。試しましたけど水が上がってこない。
オペレーターの操作により、水は火災現場近くの配水池にたまった。
しかし、街中の消火栓へとつながる水道管の多くが損傷していたため、結局、十分な水が使えなかったのだ。
時にはホースを海まで延長して消火するケースもあり、当然、時間がかかった分、救えない命も多くあった。
神戸市消防局 上村雄二消防指令:消火栓が使えなかったらほかの水を探さないといけない。20分、30分はかかったんじゃないですかね。伸ばすのに。
■「水道管の耐震化」が重要

では、「30年前の経験」は、いま、いかされているのだろうか?
記者リポート:災害から水を守るため、今、重要とされているのが水道管の耐震化です。
この日行われていたのは、古い水道管と、地震に強い水道管を取り替える工事。
神戸市水道局 東部水道管理事務所 菅原広太さん:継手の部分が爪のような構造になっていまして、何か伸びるようなことがあっても引っかかりができて。目標としては年間50キロのペースで(取り替えを)目指しています。
■神戸市の「秘密兵器」とは

さらに神戸には、災害時、多くの人に水を届けるための「秘密兵器」がある。
エレベーターに乗り、地下6階へ。さらに階段で、より深くへと下りていく。
そこに現れたのは、神戸の地下を走るトンネルの入り口。 「大容量送水管」と呼ばれる、水の巨大トンネルだ。
Qどのぐらいの水が流れている?
神戸市水道局 浄水統括事務所 橋上重弘所長:(1日で)40万立方メートルを送る能力があります。
■教訓をいかした神戸市

震災の翌年に整備事業がスタート。およそ20年かけて作り上げられた。
中にはストローのように曲がる鋼管が入っていて、地震に強い構造になっている。
そして、最大の強みは、設置場所。
大容量送水管は、従来の送水トンネルがあった山沿いではなく、市街地の地下を通っている。
神戸市水道局 浄水統括事務所 橋上重弘所長:阪神淡路大震災の教訓として、市街地が全部断水になったときに水を供給するための場所がすべて山の近くにあった。そこから水を運んで市街地に持っていくにも渋滞で非常に時間がかかった。(大容量送水管があると)タンク車で水を運ぶときの拠点が街中にできる。
■街に潜む「漏水」のリスク

一方で、全国を見渡すと、「水の耐震化」は順調とはいえない。
先週、漏水調査が行われていたのは、大阪府八尾市。
街には、漏水のリスクが潜んでいる。
八尾市水道局 水野貴史施設整備課長:水管橋と呼ばれているもの。昭和55年に敷設されたものなので、耐用年数は40年と言われていますが、もう45年経過した管になります。
国が目標とする水道管の耐震適合率は60パーセント。しかし八尾市では、23.5パーセントと、目標を大きく下回っている。
■長期戦化する「水の耐震化」

このような自治体は他にも多くある。
去年、能登半島地震が発生した石川県では、水道管の被害が大きかった七尾市などの多くの市や町で、耐震適合率が低い水準にとどまっていた。
対策を進められない背景には、街の人口減少がある。
八尾市水道局 水野貴史施設整備課長:料金収入が相当下がっております。そういう部分でいきますと、やっぱりその耐震化を進めるっていうところで、足かせになる。
十分な予算が確保できない中で、「水の耐震化」は、長期戦となっているのです。
八尾市水道局 水野貴史施設整備課長:目標値としましては、令和57年度には耐震化率100パーセントというところを目標に掲げている。
30年前、想定外の被害により、街から消えた水。 震災が私たちに突き付けた課題は、まだ解決したとはいえない。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年1月13日放送)