食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。

植野さんが紹介するのは「栃尾油揚焼(とちおあぶらげやき)」。

東京・町田にあるノスタルジックな人気居酒屋「初孫」を訪れ、新潟の郷土食材・栃尾油揚げに自家製味噌を塗りこんで香ばしく焼き上げた人気メニューを紹介。お酒のおつまみにも、ご飯のおともにもなる、万能レシピを学ぶ。

大型ショッピングビルも並ぶ西の渋谷・町田市

「初孫」があるのは、町田駅。小田急線とJR横浜線が走り、新宿や渋谷・横浜までそれぞれ30分と好アクセスの場所。東京の南西部に位置し、半島のように神奈川方面へ突き出しているのも特徴的だ。

「町田は小学生以来かも」「大型ショッピングセンターやデパートもいろいろあるし、渋谷と新宿を足してギューッと縮めた感じ」と植野さん。

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駅周辺には大型ショッピングビルが立ち並び、“西の渋谷”と呼ばれているという。「いろいろなものがある街でも路地に入ると良い飲み屋があったり、昔ながらのお店があったり…あら、何か風情のあるたたずまいで…」と植野さんは店を見つけて、のれんをくぐった。

23歳の息子と親子二人三脚で営む居酒屋

町田駅から徒歩2分の場所にある「初孫」は、繁華街の路地裏にあり、軒先の赤ちょうちんが目印だ。1階は年季の入ったコの字カウンターで、2階はゆったりとお酒が楽しめる座敷がある。

特に1階は、お店を褐色に照らす電球照明が温かく、懐かしい昭和の雰囲気を味わいに訪れるお客さんも多いとのこと。

営むのは3代目の高橋英臣さん。そして、23歳の若さながら、脇でサポートをする息子の祐太さんと、親子2人で切り盛りしている。

カウンターにズラリと並ぶのは、季節ごとの旬の食材。“町田の飲兵衛”には知られた存在の「初孫」をはじめとした選び抜かれた日本酒が楽しめる店だ。

人気メニューの「栃尾油揚げ」は、新潟県長岡市栃尾地域の郷土食材のひとつ。

大豆から作った生地を低温と高温の油で二度揚げする。

左が通常の油揚げ、右が栃尾油揚げ
左が通常の油揚げ、右が栃尾油揚げ

そのボリュームと味わいから“日本一の油揚げ”と呼ばれている。通常のものと比べ大きさは約3倍、適度な弾力の中にフワっとした食感が特徴で、最近はスーパーや通販でも購入できるそう。

始まりは小料理屋、業態変えながら家族経営

1955年、英臣さんの祖母、トシ子さんが始めたのが「ひさご」という名の小料理店。そこから70年、業態を変えながら家族で商売を営んできた。

英臣さんの父、公夫さんが引き継ぐと喫茶店やお酒を提供するバーへと業態を変えていった。そして、1978年、再びお店の業態を変更。これが、居酒屋「初孫」としてのスタートだった。

植野さんが日本酒選びの基準を尋ねると、英臣さんは「懇意にしている酒屋さんがありまして、そこのリストを見ながら日本全国の日本酒を自分でピックアップして選んでいます」と話した。

客の目当てはここでしか飲めない貴重なお酒。

開店前に日本酒の目利きで英臣さんが信頼を置く、酒問屋の瀬間さんに、この冬おすすめの日本酒を相談していた。気に入ったのは青森の銘酒、陸奥八仙の季節限定品。

「イカがとれるところなので、貝類は一番合わせやすい」と瀬間さんは勧め、英臣さんは、さっそくこの日から店で提供することにした。

父親としても店長としても一番尊敬できる人

スタッフが「祐太さんはお酒詳しいですか?」と尋ねると、「日本酒とかはわからないことの方が多い。ちゃんと調べてどんな味か試してみて、お客さんに説明できるようにしています」と話す。

植野さんが「祐太さんどうですか、親父というよりも店主としてどんな人ですか?」と尋ねると、祐太さんは「僕がこの世で一番尊敬している人。父親として、店長として、お客さんとの話し方や提供の仕方などを見ていて、そこはすごく学んでいかないとな、と思っています」と熱く語った。

本日のお目当て、初孫の「栃尾油揚焼」。 

一口食べた植野さんは「栃尾揚げの優しくて軽い香ばしさと優しい甘みがすごく合う」と絶賛した。

初孫「栃尾油揚焼」のレシピを紹介する。