2021年11月に新潟市南区の自宅で妻と娘を殺害した罪などに問われている男の裁判が新潟地裁で開かれている。11月8日の公判では、被告人質問が行われたほか、被告人の父親も出廷した。被告の男は妻と娘を殺害したことに対して、「自分でも自分が許せない」と語った。

遺族が質問「妻と娘殺して今思うことは?」

殺人や殺人未遂、殺人予備、窃盗など4つの罪に問われている新潟市南区の元看護師・渡辺健被告(31)。

渡辺健被告(31)
渡辺健被告(31)
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起訴状などによると、渡辺被告は2021年9月、当時勤務していた病院から塩化カリウム10本を盗んだほか、11月7日には自宅で妻の春香さん(29)と娘の純ちゃん(1)の首をロープで締め付け自殺を装い殺害した罪などに問われている。

11月8日に行われた第8回目の公判の冒頭は、遺族が被害者参加人制度を利用して渡辺被告に質問した。

被害者参加人:
「なぜ春香さんが2021年3月に交通事故を起こした後、病院に連れて行かなかったのか?」

渡辺被告:
「目立った外傷がなかったからです」

被害者参加人:
「春香さんと純ちゃんを殺してしまったことに対して思うことは?」

渡辺被告:
「娘と妻を殺めてしまったその時から、自分でも自分が許せない」

被害者参加人:
「不倫相手に対してはいまどんな思いを抱いているか」

渡辺被告:
「不倫相手にも申し訳ない。私のせいで人生を振り回してしまった」

なぜ殺害後に不倫相手にメッセージ?

続いて裁判員や裁判官からも被告人質問が行われた。

裁判員:
「なぜ睡眠薬を持っていたのか?」

渡辺被告:
「睡眠薬は看護師のユニホームと一緒にうっかり持って帰りました」

裁判員:
「なぜユニホームの中に入っていたのか?」

渡辺被告:
「睡眠薬は患者に渡すものだったが、患者が飲まなかったために必要なくなり持っていました」

裁判員:
「通常、使わなかった薬は看護記録をつけるものだが?また他にもたくさん薬があったようだがそれはなぜ?」

渡辺被告:
「看護記録はつけ忘れていた。他にも薬があったのは、以前にも忘れていて薬を持ち帰ることがあったためです」

検察側:
「春香さんと純ちゃんを殺害するつもりで塩化カリウムを盗んだ?」

渡辺被告:
「前々からは妻と娘の殺害は考えていませんでした」

検察側:
「殺害後、不倫相手に『大好き大好き』などとメッセージを送ったのはなぜ?」

渡辺被告:
「その時にたまたま不倫相手から連絡が来ていたのと、現実から逃げたいと思ったためです。妻と娘を殺したことについては本当に申し訳ないと思っています。どのような判決を言い渡されても責任を取りたいと思います」

裁判長からの質問に言葉を詰まらせた渡辺被告

最後に新潟地裁の小林謙介裁判長からの被告人質問が行われた。

裁判長:
「具体的に殺意を抱いたのはいつですか?ロープを購入した時には少しでも『ロープを使って殺してやろう』と思いましたか?」

渡辺被告:
「その時点ではありませんでした」

裁判長:
「ロープを購入して、殺害しようと思ったのはいつ?」

渡辺被告:
「11月中です」

裁判長:
「ロープの購入は10月30日となっています。いつの時点でロープを買って殺そうと考えたのか?」

渡辺被告:
「ロープを買いに店に行く直前くらいだったと思います」

裁判長:
「何がきっかけでロープを買いに行こうと思ったんでしょうか?」

渡辺被告:
「はっきりとは思い出せません」

裁判長:
「妻を殺そうと思ったのはいつだったんですか?」

渡辺被告:
「ぼんやりと殺そうと思ったのでよく覚えていません」

裁判長:
「それまで考えていなかったのになぜ急にロープを買って殺害しようと思ったんですか?」

渡辺被告:
「私が2021年の10月に交通事故を起こしたあと妻に『自分がもし死んでいたらどうしていたか?』と聞いたときに、妻が『家を売って実家に帰る』と言われたのがすごくショックですごく腹が立ちました」

裁判長:
「その時に殺意を抱いたんですか?」

渡辺被告:
「殺してやろうかなと思いました。はっきりとは覚えていないが、きっかけとなったと思います。あいまいな部分もありますが」

少し考えながらも、まっすぐに裁判長の問いに答えていた渡辺被告だが、言葉に詰まる場面もみられた。

“殺害”考えた時期問われるも…

裁判長:
「塩化カリウムを殺害に使わないと思った理由はなんですか?」

渡辺被告:
「注射針を使えば注射痕や体内のカリウムの値が異常な数値を示すと思ったからです」

裁判長:
「それは病院から塩化カリウムを持ち出す時にはそのように思っていたんですか?」

渡辺被告:
「その時は思っていません」

裁判長:
「いつ考えたんですか?」

渡辺被告:
「はっきりとは覚えていません」

裁判長:
「注射痕が残るからこの殺害方法はダメだと、なぜこのように考えたのでしょうか?」

渡辺被告:
「塩化カリウムを使えば、自分の行為がばれて逮捕されると思ったからです」

裁判長:
「それはもともと考えていたのですか?いつから?」

渡辺被告:
「塩化カリウムを持ち出すときです」

裁判長:
「その時には殺害を考えていたのでしょうか?」

渡辺被告:
「明確には考えていませんでした」

裁判長:
「でも塩化カリウムはダメだと思うくらいには殺意はあったんですよね?」

渡辺被告:
「その時にはっきりあったとは言えません」

裁判長:
「妻を殺害すると考えた時というのが記憶にないのでしょうか?」

渡辺被告:
「何か大きな出来事があって殺意を抱いたとかではないので。漫然といなければいいのにと考えていました」

裁判長:
「それは殺害してでも?」

渡辺被告:
「そこまでではありません」

裁判長:
「ではなぜ『塩化カリウムではダメだ』と思ったんですか?」

渡辺被告:
「分かりません」

裁判長:
「殺害するという決意はそこではなかったのでしょうか」

渡辺被告:
「その時点ではなかったと思います」

裁判長:
「ではもっと前から殺害考えていたということですか?」

渡辺被告:
「いいえ、塩化カリウムを持ち出したもっと後です」

裁判長:
「ではなぜ塩化カリウムを持ち出すときに『これでは殺害はダメだ』と考えたのでしょうか?」

渡辺被告:
「・・・」

裁判長:
「あなたの記憶を喚起してください」

渡辺被告:
「・・・」

殺意を抱いた時点については、あいまいな答えを続けた渡辺被告。その後も小林裁判長から「睡眠薬入りの飲料を飲んだ妻が事故を起こしてしまうのではないかなどの認識がなかったのか」などと問われるも「急に意識を失うことはないと思っていたし、家にいるときはそうした症状が見られなかったから」などと答えている。

被告人の父親も出廷「一生かけて償ってほしい」

被告人質問が終わると、渡辺被告の父親も出廷し、証人尋問が行われた。

弁護側
弁護側

弁護側:
「事件当時を振り返ってどのような影響がありましたか?」

渡辺被告の父:
「住宅設備機器メーカーに45年勤めていたが、解雇された。その3か月後には現在勤めている会社に就職させてもらい、朝と夕方とパートで勤務している。現在は自分の母親と2人暮らしで年金とパートの給料だけで生活している」

弁護側:
「なぜ解雇されたのでしょうか?」

渡辺被告の父:
「事件の2日後に会社から電話がかかってきて、『解雇という形にさせてください』と言われたためです」

弁護側:
「当時、事件のことを聞いたときにはどんな思いでしたか?」

渡辺被告の父:
「なんでこんなことをやるのだろうという気がしてなりませんでした。確かに2020年の正月前に春香さんとケンカして3~4日実家に泊めてくれと言われたこともあって、その時に私には妻がいたが『息子が浮気した』といったようなことは聞いていた」

弁護側:
「2024年4月に渡辺被告から手紙が届いたと思うがどんなことが書いてあった?」

渡辺被告の父:
「事件のこととか、親子の縁を切るだとか書いてありましたが、そんな簡単にできるのかと思ったりしていました」

弁護側:
「その手紙について今はどんなことを思っている?」

渡辺被告の父:
「手紙書くくらいなら、なんでこんな事件を起こしてくれたんだと思っています。まわりのことを考えたりしていないし、自分本位だと思いました」

弁護側:
「事件からある程度時間も経つが、今の気持ちは?」

渡辺被告の父:
「相手の方には申し訳ないと思っている。お辛いと思うがこのようなことになってしまって申し訳ない。謝っても謝りきれない。心苦しく思っています」

弁護側:
「いま渡辺被告に約2年半ぶり会ったと思うが伝えたいことは?」

渡辺被告の父:
「これだけの騒ぎをしたので自分なりに思っていることもあると思うが、しっかりやっていただきたいです。ご遺族にも謝罪したりだとかこれから一生償っていかなきゃいけないし、謝ることはしっかり謝った方がいいと思います」

弁護側:
「今後、渡辺被告とはどのように付き合っていく?」

渡辺被告:
「会える時は会ったり、面会出来る時は面会したいと思うが、自分でもまだ整理がついていなくて自分の中の整理がつくまでは関わりは持ちたくない」

続いて裁判官からも質問が投げかけられた。

裁判官:
「先ほど述べた渡辺被告にしっかりやってほしいとは具体的になにを?」

渡辺被告の父:
「これから刑が決まると思うが、その刑をしっかり全うしてほしい」

証言台に立ち、弁護人や検察、裁判官などからの質問に答える父親の姿をうつむきながら座って聞いていた渡辺被告。

公判は11月12日に結審し、11月22日に判決が言い渡される予定だ。

(NST新潟総合テレビ)

NST新潟総合テレビ
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