今年のプロ野球ドラフト会議。
西武、楽天、広島、日本ハム、ソフトバンクの5球団から1指名を受け、抽選の結果、楽天が交渉権を獲得した明治大学・宗山塁(4年)。
大学生野手に5球団以上が競合したのは、6球団の79年岡田彰布氏以来45年ぶり2度目の快挙。
アマチュアNo.1内野手の宗山がここまで成長したきっかけは、全人類が直面した未曾有のウイルスだ。

コロナで夢を絶たれた2020年の夏

2月インタビューに答える宗山塁
2月インタビューに答える宗山塁
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今年2月、宗山が語ったのは…

宗山:
野球を続けられていることであったりとか、今立てるグラウンドとか室内練習場や寮であったり、環境があるのが、まず当たり前じゃない。それに対して感謝する気持ちを忘れたら野球選手以前の問題なので、高校3年間で感謝する大切さを学びました。

「野球ができることは当たり前じゃない」
この言葉を胸に刻んだのは新型コロナウイルスの影響で甲子園大会が中止となった2020年の夏。
当時、名門・広陵高校でキャプテンを務めていた宗山も夢を奪われた一人。

広陵高校時代の宗山塁
広陵高校時代の宗山塁

宗山:
甲子園だけが目標じゃないということを、改めて全員再確認できて、下を向かずに前を向いてそこから今まで生活できているかなと思います。

心に整理を付け、胸の内を語ってくれたのは大会中止から2カ月後の7月。この経験が、宗山の人生観を形成した一部となっていた。

宗山:
自分としても、もしかしたら甲子園があったら人生変わっていたかもしれないですけど、そこから強く生きていけるかは自分次第なので、本当にその経験があったから良かったと言えるようなこの先にしたいなと思います。

侍ジャパンにも選出

東京六大学の名門・明治大学に進学した宗山は、1年生春からいきなりレギュラーを獲得。入学当時の初練習ではこんな逸話も…。話してくれたのは宗山を1年生の頃から起用している明治大学・田中武宏監督。

明治大学・田中武宏監督
明治大学・田中武宏監督

田中監督:
練習終わったはずの上級生の内野陣の何人かが、こそーっと宗山を見に来て「これはダメだ」と。実際に他のポジションに転向を申し出た上級生の選手もいました。早い段階で守りではかなわないとチーム内に浸透していたと思います。

首位打者1回(2年春)、ベストナイン3回(1年秋、2年春、2年秋)を獲得するなど、「20年に1人のショート」と称されるまでに成長した宗山。

東京六大学リーグ 宗山塁
東京六大学リーグ 宗山塁

さらに、その名が一気に全国に知れわたったのは今年2月。ドラフト前の大学生では、史上初となる侍ジャパントップチームに選出。

侍ジャパンの井端監督も宗山の守備力について…

井端監督:
ショートの姿は華があった。臨時コーチで色々な角度から守備を見ましたが何も言うことがない。

球界トップクラスの守備職人、西武・源田壮亮も絶賛。

源田:
しっかり頭を使って普段から野球をやっているんだろなと会話から分かりましたし、一緒にノックを受けてすごく上手いなと思います。

宗山自身もプロの選手たちと一緒にプレーしたことに手応えを感じていた。

宗山:
打球が飛んできて自分が捕って投げに行くまでの形は源田選手と近いものがあったと思うので、確認できてよかった。

野球ができる幸せは当たり前じゃない

そして、迎えたドラフトイヤー。しかし、1年生からスタメンで試合に出場していた宗山の姿はベンチにあった。

怪我でベンチからチームメイトを見守る宗山塁
怪我でベンチからチームメイトを見守る宗山塁

宗山:
自分としては骨折していると思わなかった。タイミングもタイミングだったので、悔しかったです。

2月29日に右肩甲骨を骨折し、侍ジャパンに帯同するも試合に出場することができず…。さらに5月5日、春季リーグ戦の途中に右手中指第1関節骨折とおよそ2カ月で2度の骨折。

苦難が続く中、宗山の胸の内は…

宗山:
怪我が治って今まで通りプレーができるのか焦りはあったんですけど、特別なことができるわけではないので、一日一日、今できることに目を向けてやっていました。

大事にしていたのは4年前の夏と同じように、下を向かず今の自分自身と向き合うこと。

広陵高校時代、練習に励む宗山塁
広陵高校時代、練習に励む宗山塁

田中監督も怪我の期間についてこう語る。

田中監督:
リーグ戦は治療に専念しても良かったが「自分は出られなくてもベンチに入りたいです」と得意の本気の目で言われたら、「分かりました。どうぞご自由に」と言うしかなかった。

さらに、宗山はこの怪我の期間で改めて感じたことがあった。

宗山:
今まで怪我で長い期間野球ができないっていうことはなかったので、野球ができる幸せや喜びは当たり前じゃないんだと感じましたし、この気持ちは忘れてはいけないものだと思うので、これからも大事にしたいなと思います。

秋季リーグ戦では打率.400、2本塁打、12打点と怪我を乗り越え完全復活した姿が!

迎えた運命の日。車から降り、会場に向かう宗山の心境は…

宗山:
いよいよという感じで指名の時に自分がどうなっているか想像出来ないです。野球を始めたきっかけがプロ野球を見たことなので、1番目標にしていた舞台ですし、プロに入って活躍したいと思って練習してきたので、この瞬間になると感慨深いものがあります。一つの目標です。

そして、「どうなっているのか分からない」と語った指名の瞬間。
5球団から名前を呼ばれても、楽天が交渉権を獲得しても、表情を崩さなかった宗山。

ドラフト当日 会場に向かう宗山塁と浅利太門(日本ハム3位)
ドラフト当日 会場に向かう宗山塁と浅利太門(日本ハム3位)

指名直後に改めて「“当たり前じゃない”って言葉はプロに入ってからも大切にしたいか」と聞くと…

宗山:
どのステージになっても変わらずに持ち続けないといけない気持ちだと思うし、自分一人の力だけでは本当に何も出来ないので、ずっとそこは肝に銘じていきたいと思う。
1年目は新人王、守備ではゴールデングラブ、打撃部門では首位打者、最多安打ってところが自分が目指すところかなと思います。

5球団から指名されたアマチュアナンバーワン内野手・宗山塁が新たな夢舞台に進みだす。

【取材メモ】
ドラフトで名前が呼ばれた瞬間に喜びを見せず、表情を崩さなかったのには理由があった。
「自分の中の感情はあったが、隣にチームメートで指名を待つ浅利太門(日本ハム3位)もいますし、高校の同級生、大阪商業大学・渡部聖弥(西武2位)なども指名を待っていたので、自分だけのドラフトではないという思いはありました」
周りのことにも気を遣う、宗山塁という人間性が分かる瞬間だった。

『すぽると!』​
11月9日(土)24時35分
11月10日(日)23時15分
フジテレビ系列で放送中