米大統領選挙の世論調査は信用できるのだろうか?
米国の新興ニュースサイト「アクシオス」がハリス世論調査会社(副大統領とは無関係)に委託して調査した結果を10月30日の記事で伝えたが、有権者の約4分の1、最若年層の約半数が「誰に投票するか」を問われれば「ウソをつく」と回答したからだ。
「ウソをつく」回答の約半数はZ世代
それを世代別に見ると、「ウソをつく」と答えた全ての有権者23%のうち、Z世代(1990年代半ば~2010年代序盤に生まれた世代)が48%、ミレニアル世代(1980年代~1990年代に生まれた世代)が38%、X世代が(1965年から1980年に生まれた世代)17%、ブーマーズ世代とそれ以前(1964年以前に生まれた世代)6%となっている。
この記事の画像(4枚)このニュースが衝撃的だったのはそのタイミングだ。投票日まで1週間を切った時点で、大統領選挙の世論調査は信用できないかもしれないということになったからだ。
今回の大統領選挙は終盤までカマラ・ハリス副大統領とトランプ前大統領の競り合いが続き、その差は「僅差」と伝えられていたが、前々回2016年の場合なら事前の世論調査ではヒラリー・クリントン氏がトランプ氏を3.2ポイント上回っていながら(リアル・クリア・ポリティクス平均)敗北し、次の2020年も当選したバイデン氏は7.2ポイントリードしながらも現実の投票率ではトランプ氏と4.5ポイントしか差が開かなかった。
「隠れトランプ」支持者がいるのではないかと言われながらも確証がないまま、今回の選挙の世論調査にも疑念が抱かれていた時に、この調査の公表だった。
“ハリス氏支持”は無難?「ブラッドリー効果」指摘も
「“選挙の嘘つき”は2024年の米大統領選挙の世論調査を歪めることになるかもしれない」
英国の大衆紙「デイリーメール」電子版は10月30日、こうした見出しの記事を掲載したが、素直に世論調査の結果を受け止められなくなったのは確かだ。
調査は「なぜウソをつくか」は尋ねていないので、どう世論調査を歪めたのかまでは明らかではないが、最若年層に「嘘つき」が多かったことにヒントがあった。
「スマートフォンで育った若いアメリカ人は、政治的な交流や、仕事などの日常的な場面でも、対立を避ける傾向がある。彼らは一般的に、『アプリを通してやる方がマシ』というデジタルな考え方で、対面でのやりとりを最小限にすることを好む。そのため、対立や気まずいやりとりをするリスクよりも、投票方法について嘘をつくことを好むのかもしれない」
ハリス世論調査会社のジョン・ゲルゼマ最高経営責任者はこう分析している。
最近の世論調査は電話ではなくインターネットを使って質問表を送るopt-in(オプトイン)方式で行われることが多く、ウソをつき易いのは確かだ。しかしそれでなぜウソをつくのかは別に理由があるようだ。
オンラインに記録が残る世論調査では、なるべく穏便な履歴を残したいと思うのは当然だ。その場合、傍若無人なトランプ氏の主張には同調しても、記録上は“ハリス氏支持”としておいた方が無難だろう。
1982年のカリフォルニア知事選挙に立候補した黒人のトム・ブラッドリー氏は、世論調査では大差で白人の対立候補をリードしていたが、実際の選挙では白人候補に敗退した。以来、黒人候補は世論調査で支持率が高めに出ることを「ブラッドリー効果」と呼ぶようになった。
今回も、世論調査には黒人で女性のハリス氏を支持する建前にしておくという「ブラッドリー効果」があるのではないかと言われてきた。
「アクシオス」の調査は、その実態までは迫れなかったものの「隠れトランプ」の存在をうかがわせることになり、選挙の行方を分析する上で新たな視点を与えてくれたのは確かだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン・図解:さいとうひさし】