避難のためらいをどう防ぐべきか

新型コロナウイルスの感染予防には、換気の悪い「密閉」、多くの人が集まる「密集」、近距離で接触する「密接」という、いわゆる3密を避けることが重要とされている。

ここで課題となるのが、災害時の避難とどう釣り合いを取るかということ。大規模災害が起きれば、避難先となる体育館や公民館には、大勢の人々が集まることは避けられないだろう。避難所内でクラスターが起きるという、最悪のケースも考えられる。

実際、2020年7月に全国各地を襲った「令和2年7月豪雨」では、感染予防対策として、避難所の収容人数に制限を設ける動きもあったという。当然、間仕切りなどを設ければ物理的に収容人数は少なくなるだろう。こうした状況が続くと、被災者は「感染が怖くて思うように避難できない」というジレンマを抱えてしまい、避難をためらうことにつながるかもしれない。

新型コロナウイルスが収束する気配を見せない現在、避難をさせつつ、感染予防対策もするには、どうすればいいのだろうか。今回は異なる方法で避難対策を進めている、3つの自治体を紹介する。

調布市は避難所の“見える化”目指す

東京・調布市は7月から、災害時に特定の避難所が混雑することを防ごうと、避難所の開設状況や混雑状況などをリアルタイムで確認できるシステムを試験的に導入している。

このシステムは、ソフトウェア企業の「サイボウズ」が開発したもので、専用フォームに入力されたデータから、避難所ごとの情報を自動集計して、ウェブサイトに掲載することができる。

調布市の場合、避難所の受付で専用フォームにアクセスできるQRコードを配り、避難者に訪れた人数などを入力してもらうことで、市の特設サイトに混雑状況などを反映させるという。

システム利用のイメージ

さらに、メールアドレスを登録した避難者には、避難所内で新型コロナウイルスの感染者が出たときに、濃厚接触の可能性などを通知することもできるという。こうした情報をリアルタイムで提供することで、避難所の“見える化”を目指す方針だ。

7月には導入後初の訓練も行われているが、課題などはあったのだろうか。調布市に聞いた。

――なぜ、混雑状況が分かるシステムを導入した?

調布市には32カ所の指定避難所があり、約1万8000人を収容できる計算でした。ですが、2019年10月に台風19号が発生したとき、避難人数が約6000人だったにもかかわらず、一部の避難所に集中して混雑してしまったのです。

新型コロナウイルスの感染予防、指定避難所が浸水エリアとなって使えなくなる可能性を考えると、避難者をもっと分散させる必要があると思いました。


――システムはどのように運用する?

避難者グループの代表者に、スマートフォンでQRコードを読み取ってもらい、一緒に訪れた人数を入力してもらいます。その数字はリアルタイムで市の特設サイトに反映されるので、どこに避難すればいいかなどを一目で確認することができます。これから逃げようとする人が確認することで、混雑を防ぐことにつながると思います。

調布市の特設サイトの画面。避難所の人数をリアルタイムで確認できるという

――導入に関連して課題に思うことはあった?

システムの都合上、避難所が開設してすぐには、どこが混雑するかは伝えきれません。混雑が予想される避難所は事前に、市の広報などで周知する必要があると思います。また、QRコードの読み取りや情報入力はあくまで協力をお願いする形であり、避難者には、読み取りに必要なスマートフォンをお持ちでない高齢者らもいると思います。

市の特設サイトで分かる避難人数と、避難所の実態に隔たりがないように、管理していく必要もあるでしょう。

特設サイトでは避難時の注意喚起を行うという

調布市によると、現在は試験導入ということもあり、まだ訓練時に使用したのみとなる。しかし「今後、災害で避難勧告を出すことがあれば使いたい」とのことだ。

京都市はホテルを妊婦らの避難場所に

3密を防ぐため、避難場所を増やそうとする自治体もある。京都市は8月、市内12のホテル事業者、タクシーの業界団体と協定を結び、ホテルの客室を一時的な避難所とする試みを始めた。

これは、災害時に避難所の混雑が予想される場合、妊婦や乳幼児、高齢者といった、健康面の配慮が必要な世帯を対象に、避難所からホテルにタクシーで移動してもらうというもの。避難所が閉鎖されたときには、ホテルからそれぞれの自宅まで送ってくれるという。

観光都市でもある京都市には、多くのホテルがある(画像はイメージ)

ホテルやタクシーの手配は京都市が行い、ホテルには1人当たり1泊1万円までを上限に、タクシーには送迎分の運賃を市が支払う。避難者に経済的な負担は発生しないようになっている。

仮に避難所が混雑したとしても、ホテルに移動できるのであれば、感染するのではないかという不安も和らぎそうだが、どのような効果を期待しているのだろうか。京都市に聞いた。

――なぜ、ホテルを避難場所とする試みを始めた?

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、避難所の運営においても体調チェック、距離の確保といった対策を取り入れましたが、それでも密となる可能性がありましたので、さらなる備えとして始めることにしました。

避難所の感染予防としては、間仕切りのテント設営や個室の確保なども取り組んでいるので、既存の対策をした上で、密になりそうなときの手段として考えています。


――災害発生時にはどのように運用される?

避難所が密になりそうなとき、現場の要請を受けて発令します。具体的には、災害対策本部がホテルとタクシーを手配し、感染防止の観点から健康上の配慮が必要な人を優先して、ホテルに移動していただきます。避難勧告などが解除されたら、自宅に帰っていただきます。発令の目安は、避難者が避難所の収容人数の7割以上となった場合を想定しています。

乳幼児など、健康上の配慮が必要な家庭が優先される(画像はイメージ)

――財政的な部分で運用は可能なの?

現状では市の予算(2020年度分)として、300万円を計上しています。ただ、同時に数百人がホテルに向かうことはないとも想定しています。2018年7月に豪雨被害が出たとき、京都市も避難勧告を出しましたが、そのときも避難所のスペースには余裕がありました。

協定を結んだ12のホテルには、単純計算だと約2500の客室がありますが、これが全て使えるというわけではないので、避難所が密になりそうなときに、空いている範囲で提供するという考え方になると思います。


――避難者にはどんな影響があると思う?

住民の皆さまは、避難所に大勢の人が来ると新型コロナウイルスに感染するのではないかという不安をお持ちだと思います。ホテルを避難場所とすることは、密を回避する備えとなるので、そうした不安の解消にもつながると思います。市としても、避難所自体が密にならないように、スペースの確保などに取り組んでいきたいと思います。

避難先の選択肢を広げたい長崎市

長崎市は2018年から、「私の(マイ)避難所」運動として、市内に265カ所ある指定避難所だけではなく、親戚や友人らの住宅を避難先の選択肢として意識することを勧めている。

この考え方は、決して避難所に来てはいけないというわけではなく、災害の種類や被災状況などに応じて、指定避難所、親戚や友人宅、自宅などから最適な避難先を選んでもらおうというもの。

マイ避難所シール

長崎市は自分に適した避難先や避難のタイミングなどを記載できる「マイ避難所シール」を全世帯に配布した上で、周囲の人々と話し合って事前に考えてほしいともしている。コロナ禍の現在は、「避難所での3密」の観点からも呼びかけているという。

なぜこのような取り組みを進めているのか、長崎市に聞いた。

――「私の避難所」運動を推進している理由は?

災害時の避難においては、避難情報が発令されても自主避難する住民が少ない、自分の身近な避難所を知る機会がない、日常での防災意識が低いため、地域の防災活動への住民参加が少ないなどの課題がありました。そこで、災害時に市民一人一人がどこに避難するのかをあらかじめ認識し、いざという時に自主的に迅速な避難行動をとることができるよう、啓発として行っています。


――指定避難所以外も意識してほしいのはなぜ?

開設している避難所が自宅の近くだけとは限りませんし、知らない人と同じ空間に避難することはストレスにもなります。コロナ禍においては、避難所は3密になりやすいため、避難所に行くことだけが避難ではないということと、自分が住んでいる地域が危険な場所かを、まず確認するように周知しております。

頑丈な建物や安全な地域に住んでいる親戚宅などがありましたら、そちらに避難することも1つの選択肢として検討していただくことも勧めています。避難とは難を避けることですので、自宅が頑丈で安全な場合は、外に出る方が危険な場合があるためです。

私の(マイ)避難所の考え方

――避難所の混雑を防ぐような効果はあった?

災害の態様や規模は事案ごとに異なるため、効果の有無は一概に判断できかねますが、長崎市ではこれまでの台風や大雨特別警報時に、収容人数を超えた避難が起きたことはありません。


――コロナ禍での避難はどう考えるべきだと思う?

避難所における3密を回避するため、避難所に避難することだけではなく、あらかじめハザードマップなどを活用して、自分が住んでいる場所が安全であるかどうかを確認し、大雨や地震などの種別に応じて複数の避難場所を決めておくことが大事になると思います。

私の避難所運動は分散避難につながりますので、長崎市としては、引き続き地域において説明を行うとともに、広報誌やホームページなどでPRを行っていきたいと考えています。
 


自治体の避難所対策はそれぞれだが、コロナ禍では特に、慌てて行動しないこと、不安を感じすぎないことがポイントになりそうだ。私たちも、近くの避難所は混雑しそうか、指定避難所以外の選択肢はあるかなどを事前に学んでおくことが必要なのかもしれない。
 

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