この猫は、ビル4階に住み続ける設定なので、長く愛され続けるべく、新バージョンの映像はこれからも次々と作られる。
「CGのエンターテインメント性は保ちつつ、素の猫の魅力は守り続けたい。ナツコさんのように堂々ときりっとして、ビルの上から道行く人々に意味不明な勇気を与え続けられるといいなと思っています。東口の猫を手がけたことで、僕たちスタッフも猫を取り巻く環境に改めて思いを馳せるようになりました。保護活動の広がりにも一役買えたら」と、山本さんは願う。
自分の面影が新宿という大都会に残り、国籍も年齢も問わず人々を笑顔にして、知らない者同士をつなぐ。そんな奇跡のような展開を、空の上からナツコは「どうよ」と強気の微笑で見下ろしているに違いない。
ナツコは、24歳近くまでお達者に我が道を生きた、筆者の愛猫である。
小さい頃から我が道を行く猫だった
そんなナツコとの出会いと「新宿東口の猫」のイメージモデルとして採用されたことを佐竹さんはこう語る。
ナツコとの出会いは29年前。小さい頃からナツコらしさ全開の猫だったようだ。
「春先に家族が釣り堀から連れ帰ったキジトラの子猫『モモ』が、避妊手術をする前の初夏に産んだ子猫たちの1匹でした。きょうだいの個性はそれぞれでしたが、ナツコはヤワではない母親の気質を受け継ぎ、小さい頃からつるむのが大嫌いな、我が道を行く猫でした」
飼い主として「新宿東口の猫」を見た佐竹さんは、イメージモデルに選ばれたことが「奇跡のよう」と話す。
「国も性別も年代も超え、見上げる人々の目尻を下げさせる『猫』ってすごいなぁと感嘆しました。東口の猫は“マイペースで意味不明に強気”だから、“元気出せよ”と萎縮した人間社会にはっぱをかけているようです。そのイメージモデルに市井のナツコがなったことは、奇跡のようにもぴったりのようにも思えました」
著書『猫は奇跡』は、17つの猫にまつわる実話が収められている。「前を向いて生きる猫たちの姿だけでなく、それを支えた人々の思いも書きたい」という思いで始まった。
長年の取材経験から、タイトルは特別な猫が起こす奇跡ではなく、「どの猫も小さな体で強い意志や復活力、思いやり、喜び、悲しみを秘めて生きていること。寄り添う人を選ぶ目の確かさや、人と人を結びつける力、人生を一変させる力も持っている」ことから、『猫は奇跡』となったと話した。

佐竹茉莉子
フリーランスのライター。フェリシモ「猫部」のWEBサイト創設時からのブログ『道ばた猫日記』は連載15年目。朝日新聞系ペット情報サイトsippoの連載『猫のいる風景』はYahooニュースなどでも度々取り上げられ、反響を呼ぶ。