日本一の繁華街・新宿歌舞伎町。華やかなネオンのすぐ近くにある大久保公園を取り囲むように立つのは、自分が買われるのを待つ女性たち。
フジテレビ情報番組「めざまし8」取材班では、彼女らの多くがホストクラブでの高額な売掛金、いわゆる“ツケ”が発端となり体を売るという実態を放送し続けてきました。
人生を狂わされた女性たちの悲痛な声は、「本当は体を売りたくない」。
なぜ彼女たちは体を売ることになったのか?取材を続けると浮かび上がってきたのは、「悪質ホスト」の“性的搾取ビジネス”でした。
「中絶」「出稼ぎ」「家族崩壊」、人々の苦しみが積み重なった“シャンパンタワー”。
今回は“海外に売られた”女性が語った、「海外出稼ぎ地獄の10日間」を取材しました。
頼んでいない“シャンパンタワー”350万円
私たち取材班が歌舞伎町で出会った1人の女性。「悪質ホスト」に人生を狂わされた一人です。
「これ以上被害者を増やさない」、この一心で私たちの前で赤裸々に語ったのは、自身が堕ちていった過去でした。
「一回くらいホストいってみてもいいのかな…」
2022年12月、悪夢の始まりは軽い気持ちだったといいます。
気になっていたホストに勇気を出してDMを送信。するとすぐに返信がきたため歌舞伎町を訪れることに。まさかこれが海外に売られてしまう“地獄の入り口”だったとはこの時は想像もしていませんでした。
そして翌月の2023年1月、次にはもう体を許してしまいます。というより拒否できなかったのです。ホストに嫌われたくないーー。私たちには彼女のその思いが見えました。
彼女は初回から一か月でホストと付き合うことに。
どんどんホストに“沼”っていき、1年であっという間に2500万が溶けていきました。
1000万円あった貯金も底をつき、不安だらけの毎日も、「将来、俺が面倒をみる」と結婚を匂わせるホストに本心を語ることはできなかったのです。
付き合って3カ月がたった4月、お店に行くと350万円のシャンパンタワーが目の前に。事前にお願いもしていないタワーに彼女は驚きました。
これは私たちがこれまでに何度も見てきた悪質ホストの強引な接客のひとつ。彼女は仕方なく持っていた現金とクレジットカードで支払いを済ませます。
それはホストに支払い能力を確かめられた瞬間でした。
ホストに強要され作った「カード30枚」
「カード出して」
これは次に店を訪れた時、席に着いた瞬間にホストから言われた言葉です。
彼女は「来たばかりなのに嫌」というと、「カードがきれなかったら不安」といって急に怒り出すホスト。私たちは彼女がいくらまで使えるのかを確かめられていたように感じました。
店のナンバー1になりたいホストは、年間の売上げが決まる締め月になんとしてもお金を使って欲しいという“欲望”があり、彼女にも協力を求めていました。しかし彼女も簡単には応じません。
「私たちに未来がないなら無理」と伝えると、ホストは「将来、面倒を見る」と答えました。
彼女は結婚を考えてくれている、そう感じたといいます。
そしてホストを信じ込んだ彼女にかけられた次の言葉は、「カードを作ってほしい」でした。限度額いっぱいまで使い、またカードを作らせる。カードを作らせた後はさらに「限度額をあげてほしい」と言ってきたといいます。
まさにこれが女性の限界以上にお金を使わせる「悪質ホスト」の手法の1つなのです。
彼女は輪ゴムでとめたクレジットカードを私たちに見せてくれました。「1、2、3…」と自身で数えた30枚のカード。
「これはキャッシング100万できる」「これはリボ払いが200万できる」
金、銀、黒…、それぞれのカードに辛い思い出が残されていました。もちろんカードを切るということは支払いがあるということ。
その苦しみにホストが次にかけてきた言葉は「これで月800万稼げるよ」という新たな金策でした。
ホストから“海外に出稼ぎに行け”
2023年5月、彼女とホストは同棲を始めていました。時折ホストからかけられる「将来面倒を見る」という言葉が、彼女の人生を狂わせていくことになります。
ホストは、お金の心配をする彼女に「月800万稼げるよ」と仕事を持ちかけてきました。月800万稼げる仕事というのは“海外出稼ぎ”のこと。つまり“海外で体を売る”ということです。
最初、彼女は断りましたが執拗に体を売ることを求めるホスト。彼女はまた断りました。しかし、次第に断る彼女に対してホストは語気を強め怒るようになったといいます。
気付けばホストは海外出稼ぎを斡旋するエージェントと連絡をとっていました。「怖い」、「誰が守ってくれるの」と湧き上がってくる不安。しかし、結婚する将来をイメージしてしまう中で、「もう行くしかないんだ」と諦めて前に進む選択肢しか彼女には残されていませんでした。
「いい人だからすぐ連絡して」
ホストからそう紹介されたエージェントに送った顔写真。名前、年齢、血液型、身長、体重の他にスリーサイズ、ブラジャーのカップ、結婚歴や出産歴、NG行為など細かいプロフィールも送らされていました。
出稼ぎ先として紹介されたのはオーストラリア、台湾、マカオ、アメリカなど数カ国。エージェントは「個人情報は他の人に見せないですよ」と、優しく丁寧な言葉遣いで彼女の不安をなくし、緊張を解きほぐしていったといいます。
「信用するホストが“いい人”といっているのだから…」
直接会う面談があると言われていたものの都合がつかず、結局エージェントには会わないまま出稼ぎに行くことに。結局、彼女は1時間以上の電話だけで信用してしまいました。
そして彼女が向かった場所はマカオでした。
“避妊具、シャワーなし”地獄ホテル生活
エージェントとのLINEのやりとりでは「サービス60分で3万円バック、『内容』ディープキス、避妊具あり性行為」と、60分間いわゆるソープのサービスで3万円の報酬、そして“避妊具有り”での性行為という話のはずでした。
仕事場はマカオのリゾートホテル。
「夕方6時にホテルに入って、朝の5時まで1時間に1回のショーに出ました。アジア系の韓国、日本、タイ、中国、あとエジプトだったり70人くらいの女性の中で私は日本国旗のマークをつけて、花魁風のパンツがみえるぐらいの衣装を着て、それを見ている客から指名されて部屋に行きます」
しかしマットとベッドがある部屋に行ってみると、あるはずの避妊具はありませんでした。
「その後、待機場所へと戻ると、そこにシャワーはありません。私はトイレに行って30分くらい洗い続けました」
1日に4、5人相手をして、この生活を続けること10日弱。稼いだはずのお金は自分の手元には来ませんでした。
「ホストに行ったんだと思います」と彼女は言いますが、どこに行ったのかはいまだわからないまま。
彼女は私たちの前でこの日一番辛い顔を見せて当時のことを振り返りました。
「自分の部屋に戻っても疲れているのに寝られない…、だから泣きながら働いていました」
1日2回の食事もでてきたのは豚足とご飯。精神的にも辛い中で口に合わない食事は食べられませんでした。
「どん底まで落ちた。人生返して」帰国後…
マカオでの客は暴力的な人が多かったと語る彼女。時には首を絞められたといいます。
「がっつり絞められてやばいと思いました」
店からは危ない状況になったら鳴らすボタンの存在を知らされていましたが、言葉も通じない中でそれがどこにあるのか、どうやって鳴らすのかは把握できていなかったといいます。
彼女は危険をなんとかくぐり抜けたといいますが、首を絞められてから外に出るのも怖くなり、早期の帰国を決断することとなりました。
「悪質ホスト問題」に詳しい青少年を守る父母の連絡協議会の玄秀盛代表によると、ホストとエージェントは女性から金を生むため巧妙につながっているといいます。また円安により海外出稼ぎでの上がり(収入)が良くなっている状況も、海外出稼ぎに行く女性を増やす状況にあると指摘します。
彼女は帰ってきてからも国内のソープで働き、AV出演の寸前まで追い込まれました。
「人生どん底まで落ちた」
今の状況を振り返り彼女はそう口にしました。私たちを前に彼女が吐露してくれたこの出来事は、安易な気持ちでホストに行ってからわずか1、2年。
彼女は最後、私たちに振り絞るように言いました。
「人生を壊された。人生を返して欲しい」
「めざまし8」が追い続け、その後国会でも議論されることとなった「“悪質ホスト”問題」。
なぜ女性たちはホストに通うため体を売るのか?そして、売掛金廃止の動きの中、ホスト側の本音は?
日本特有の社会問題を日本一深く取材したフジテレビの番組が「令和の日本の夜」の実態を描き出します。