日本一の繁華街・新宿歌舞伎町で働いていたホストはこう言います。
「上には上がいるので東京には。その上いこうと思ったら、頭おかしいことしなきゃいけなくなるんじゃないですかね。歌舞伎町はもう凄いやつが多すぎて」
華やかなネオンのすぐ近くにある大久保公園を取り囲むように立つのは、自分が買われるのを待つ女性たち。
フジテレビ情報番組「めざまし8」取材班は、彼女らの多くがホストクラブでの高額な売掛金いわゆる“ツケ”が発端となり体を売るという実態を放送し続けてきました。
今回は売掛金制度廃止などを機に歌舞伎町から撤退したホストクラブを取材。そのホストたちの歌舞伎町での“最後の営業”の様子、さらにその後、新天地である北海道・札幌市“すすきの”での営業の様子に密着しました。
変わる歌舞伎町「事前に230万円…」
「シャンパン飲んで!まだまだいけるぞ!姫様ナンバーワン!」
爆音が鳴り響き、ミラーボールが輝く店内で、次々と出てくる高級シャンパンと止むことのないホストたちによる“コール”。女性たちはホストクラブで毎日のように行われるその“非日常”を求めているといいます。
2024年1月31日、めざまし8取材班が向かったのは、新宿・歌舞伎町ホストクラブ「club THE STINGER TOKYO」。100坪の広さと総工費一億円の豪華な内装の店内には、多くの女性客の姿がありました。
華やかなイメージのある夜の街、新宿・歌舞伎町のホストクラブですが、この時“ある変化”
が起きていました。

ホストクラブでの支払いの際に常態化していた売り掛け、いわゆる“ツケ払い”。
2023年秋、めざまし8が“悪質ホスト問題”について放送。その後“高額な売掛金問題”が特に注目されるようになり、2024年4月からは多くの歌舞伎町のホストクラブで売り掛け廃止が決まりました。
そのため、ホストクラブで高額なお酒を注文する際は事前入金が必要に。
1月時点では事前に70%の入金が必要になりました。例えば100万円のお酒を入れる際、それまでは全額売り掛けとして“ツケ払い”でも可能であったものが、事前に70万円を支払い、当日残りの30万円を支払う形になります。
1月には70%だったこの入金率が、2月には80%、3月には90%、そして4月には売り掛け廃止という流れになりました。
取材をした歌舞伎町のホストクラブ「club THE STINGER TOKYO」では、このルールを守っての営業をしていて、売り掛けも推奨していません。それにもかかわらず賑わう店内。
女性たちは大金を手に次々とボトルを開けて“ホストたちとのひととき”を楽しんでいました。
まさか…出会って2カ月で300万円
ひっきりなしに行われるシャンパンコール。その度に店内では女性客とその担当ホストとのやり取りがマイクを通して店中に響き渡ります。まるで女性客とホストたちによる“愛の告白”。
この日一番の盛り上がりは総額“300万円”のシャンパンタワーが入った時でした。
「今日のために…」と担当ホストに書いてきた手紙を読み上げる女性。「出会ってまだ2カ月で…初デートはゲーセン…」エピソードを話し終えると2人で“祝杯”をあげました。
テーブルに戻った女性客に話を聞くと「今日を特別な日にしたくて…」という一心で大金をはたいたといいます。

なぜ出会って間もない人のためにそこまで出来るのでしょうか。300万円、簡単に使える金額ではありませんが、事前に約230万円を準備し、シャンパンタワー代のほとんどが会計済み。当日は残りの70万円ほどを支払いました。
一方で売り掛け=“ツケ払い”に頼って、ホストとの時間を楽しむ女性がいるのも事実…。
「売り掛けができなくなり、高額なシャンパンなどをためらうようになった」
「飲んでいて気分が良くなっても追加でシャンパンを入れることが出来ない」
我々がホストクラブに通う女性の取材をしていても、“売り掛けを一度もしたことがない”という女性はほんの一部でした。
このホストクラブの姫野愛逶取締役社長は、今回の“売掛金制度廃止”によって今後の集客にも影響が出ることを懸念しています。
「売り掛けメインでのお客様との付き合いとか、お客様も売り掛けがあるからこそ仕事などを頑張れるっていう子たちとかも少なからず見てきたので、そういうお客様はもう飲みに来ることは減っていくんじゃないのかなと思います」
しかしこのとき私たちは、この日がこの店の歌舞伎町での“最後の営業”の取材になるとは思いもしませんでした。
「歌舞伎町から撤退します…」突然の告白
2024年2月、ホストクラブの代表から急な連絡が入り、歌舞伎町に向かった取材班。待ち合わせ場所に到着して間もなく、姫野取締役社長から明かされたのは“想定外の言葉”でした。
「歌舞伎町がどうなっていくかも分からない中で、自分自身でいろいろ考えた結果、今回歌舞伎町から撤退しようと…」
語ったのは“歌舞伎町からの撤退“。1月の取材時には予想していませんでした。

「このまま歌舞伎町で僕自身がずっとホストをやっていきたいと思うのか思わないのかっていうのを胸に手を当てて考えた時に、今回取り締まりも含め、売り掛けの件も含め、かなり悪質なホストたちも増えていて。全員が全員なわけじゃないですよ。本当にちゃんとまじめにやっている所も知っていますし。
ただやっぱりどうしてもそこを一緒にされて、自分たちもどうしてもひとくくりの中になってしまい、一部の良いイメージを持たれないホストの印象を変えきれなかった部分がありました」
歌舞伎町撤退の理由は”逆風“を考えてのことでした。
さらなる追い打ちとしてあったのが、新規ホストの“人材不足”も問題だと話します。
「今までとは段違いで入ってくる人数は減りました」
一連の“ホスト問題”により「今歌舞伎町でホストやってもお金を稼げない」と考える若者が増え、新規ホストの体験入店が来ないというのです。ホスト業界にも広がる人材不足…。
山積みの問題の中で今後はいったいどうするのか。
新天地として選んだのは“売り掛け廃止”がない北海道・札幌市の繁華街“すすきの”でした。
「余裕で3桁」大金飛び交う“すすきの”
2024年6月末、取材班が向かったのは歌舞伎町から約800km離れた、北海道・札幌市の“すすきの”。福岡・中州、新宿・歌舞伎町と並ぶ日本三大歓楽街として知られ、日本人のみならず外国人観光客も多く訪れます。
そんな観光地の一角に見えてくるのが、キャバクラやガールズバー、風俗…。そんな“夜のお店”が軒を連ねるなか、歌舞伎町から移転してきたホストクラブも、この“すすきの”で営業しています。

飲食店などが入った雑居ビルのエレベーターを上がり、いざお店に一歩足を踏み入れると…。キラキラした内装、音楽は爆音で流れ、店内は多くの女性客で賑わっています。それはまるで“歌舞伎町で見た光景”でした。
歌舞伎町の“売り掛け廃止”から約2カ月。ここ“すすきの”では廃止されていません。
この日は一人一人のその月の売り上げが決まる「締め日」。その月のランキングが決まるともあって重要な日です。それもあってかホストクラブ内は絶え間なくシャンパンコールが聞こえ大盛り上がり。
歌舞伎町で廃止された“売掛金制度”をすすきのでは、どう利用しているのか。すすきのの女性たちから聞かれたのは意外な声でした。
「もうちょっと金額あればラストソング(その日最も売り上げが高かったホストが閉店前に好きな曲を歌う、流すこと)を取れる日とかに2、3万円の掛けをする」
「売り掛けを利用して遊んでいたところもあるんですけど、そんな無理な売り掛けはしたことなかった」
歌舞伎町とは打って変わり、どの女性客も「ほとんど売り掛けをしたことがない」と口にします。それでもこの日のお会計最高額は“約400万円”。女性のバッグからは”帯の付いた札束“が出てきました。
離れて気づいた歌舞伎町の“異常さ”
禁止されていないにもかかわらず、この日の売り掛けはなし。このお店では普段から基本的に売り掛けがないといいます。
なぜすすきのではそもそも売り掛けが少ないのか。営業後に話を聞いたのは歌舞伎町のホストクラブで代表をしていた姫野さん。
「そもそもすすきののホストが、そんなにやる気がないので。やる気があったら歌舞伎町に行くので。その差なんですよね。みんな疲れているか、そもそもやる気がないか。俺の中でどっちかかなと思いますね」
歌舞伎町のように、女性を陥れてまで自分の売上を上げるホストがいない…。
すすきのでは歌舞伎町に比べ、店やオーナー側がホストへの要求が少なく、ナンバー1をホスト同士に過剰に競わせる事も少ないといいます。それが、売り掛けにつながっていないのではないかと考えています。

さらにこの約2カ月で感じたのが歌舞伎町の“異常さ”でした。
「もう上には上がいるので東京には。その上いこうと思ったら、頭おかしいことしなきゃいけなくなるんじゃないですかね。歌舞伎町はもう凄いやつが多すぎて、たぶん自分たちがみんな売上を上げたい上げたいってなって…。
あんなふうに女の子に立ちんぼさせたりとか風俗に落としたりとか。本来ホストではないことをしなきゃいけなくなるような状況に、歌舞伎町がそうさせてしまった」
億超えホストが、ごまんといる歌舞伎町。そこで勝ち抜いていくために“悪質ホスト”が増えたのではないかと指摘しました。そして最後に、こう締めくくりました。
「みんな間違っていますよね、自分のためしか考えてない。きっとみんなそういうふうに生きていかなきゃいけない苦しさに気付いてない。俺は札幌に来て少し落ち着きました」
「めざまし8」が追い続け、その後国会でも議論されることとなった「“悪質ホスト”問題」。
なぜ女性たちはホストに通うため体を売るのか?そして、売掛金廃止の動きの中、ホスト側の本音は?
日本特有の社会問題を日本一深く取材したフジテレビの番組が「令和の日本の夜」の実態を描き出します。