「撮ってんじゃねぇよ!消せよ!」
新宿・歌舞伎町の大久保公園で女性の怒号が辺りに響き渡りました。見ると、立っていた女性の一人が、スマートフォンを持った男性を追いかけまわしています。
歌舞伎町の華やかなネオンのすぐ近くにある大久保公園を取り囲むように立っているのは、自分が買われるのを待つ女性たち。
フジテレビ情報番組「めざまし8」取材班では、彼女らの多くがホストクラブでの高額な売掛金、いわゆる“ツケ”が発端となり体を売るという実態を放送し続けてきました。
「本当は体を売りたくない」という人生を狂わされた女性たちの悲痛な声。
なぜ彼女たちは体を売ることになったのでしょうか?取材を続けると浮かび上がってきたのは「悪質ホスト」の“性的搾取ビジネス”でした。
今回は、警察による摘発が繰り返されてもなお増え続ける、新宿・大久保公園の「立ちんぼ」を、彼女たちと同世代の女性ディレクターが取材しました。
“買われるのを待つ”女性たち
2023年10月、「めざまし8」のディレクターである私は、取材のため新宿・歌舞伎町にある大久保公園を訪れました。当時はまだ、この場所がメディアで大きく取り上げられ始める前でした。
一見すると普通の街のようにも見えるこの場所には、通常では見られないある光景が…。それは、大久保公園を囲む通り沿いに、等間隔に女性たちが並んでいることです。
彼女たちは路上で売春相手を待っている、通称「立ちんぼ」と呼ばれる女性たち。立っているのは、私と同世代の20代くらいの女性ばかりでした。

下を向いてスマートフォンをいじり、待ち合わせをしているかのようにも見えます。すると1人の男性が、目の前に立っている女性に話しかけました。2人は少し話し込むと、互いに着けていたマスクを顎まで下げ、顔を確認し合っているように見えます。そして女性が2本指を立てる動作をし、再び話し込んだあと、2人でホテル街の方へ消えていきました。
「2本指を立てていたのは2万円という意味があります。値段交渉をしているんですよ。容姿や金額などの条件が合うと交渉は成立します」
そう教えてくれたのは、『青少年を守る父母の連絡協議会(青母連)』のスタッフです。そして彼女たちの多くが、売春で稼いだお金をホストのために使うのだといいます。
目の前で当たり前のように行われている違法な路上売春の光景は、私にとってとても衝撃的なものでした。
10人以上の男性が次々と…
大久保公園の通りを見渡すと、自分の父親ほどの年代の男性に声をかけられる女性や、次から次へと別の男性に声をかけられる女性の姿がありました。
取材中、10人以上の男性に声をかけられる女性もいました。その周りには、“交渉決裂”を待つ別の男性が順番待ちをする状態にまでになる場面も…。

青母連のスタッフによると、1度売春を終えると彼女たちはまた同じ場所に戻って立つことを繰り返すのだといいます。
「お姉さん、今晩遊ばない?」
大久保公園での取材を終え帰ろうとしたところ、私も後ろから1人の男性に突然声をかけられました。振り向くと、立っていたのは40代後半〜50代前半くらいのスーツ姿の男性。
「3万円までなら出してもいいかな」
「避妊もしていいよ」
矢継ぎ早に“条件”を伝えられました。
これが“交渉”なのかと思うと同時に、気軽に売春交渉が行われていることに対する怖さを感じました。既婚者だというこの男性に、現在取材中であることを伝えると、足早に街中へと去っていきました。
「この通りでは違法行為に対して誰一人罪の意識がない…」、そんな風に感じてしまうほど異様な感覚を覚えました。
「撮ってんじゃねえよ!」“観光地化”した大久保公園
2024年4月、新宿・歌舞伎町のホストクラブでは「売り掛け」と呼ばれるツケ払いが廃止されました。「立ちんぼ」をする女性の中には、多額の売掛金を返済するために立っている女性も多かったといいます。
では、売掛が廃止され「立ちんぼ」女性たちはどうなったのでしょうか?

2024年6月、私は再び新宿・大久保公園を訪れました。
午後9時、通りにはスマホを見ながら立つ2、3人の女性の姿が。去年取材した時よりも、人数はかなり減ったように見えます。
「大久保公園がかなり有名な場所になってしまったので、みんなすぐそばのホテル街の方に移動したんですよ」
青母連のスタッフによると、ホストクラブの売り掛け廃止後、立つ場所が変わり、立ちんぼの数は減るどころか、実際は増えているというのです。
すると取材中に突然、「撮ってんじゃねぇよ!消せよ!」という女性の怒号が辺りに響き渡りました。
見ると、立っていた女性の一人が、スマートフォンを持った男性を追いかけ回しています。大久保公園の“立ちんぼ”が有名になったことで、興味本位で動画を撮影する人や、SNSで配信を行う人もこの場所に集まるように。そんな中、自分が撮影されていることに気づいた女性が怒りの声を上げていたのです。
“立ちんぼ”スポットとして一躍有名となったこの街で、違法な路上売春は増え続けていました。
海外から“買いに来る”男たち
この場所が有名になったのは、日本国内だけではありませんでした。
私たちがこの6月の取材で新たに目撃したのは、立っている女性に声をかける「外国人男性」の姿です。取材中には、東南アジア系とみられる外国人男性が、女性に話しかけていました。
言葉が通じないのか、女性は必死に手を横に振り、交渉は決裂していたように見えました。

外国人の男性が増えている理由について、青母連の玄代表によると、大久保公園はネットを通じ、海外でも“立ちんぼスポット”として有名になり、最近では多くの外国人が女性を“買い”にやってくるようになり、「円安で外国人にとっては3万円でも安いくらい」と言います。
円安の影響が大久保公園の“立ちんぼ”にまで及んでいることに驚きました。
中には日本に家族で旅行に来た父親が、数時間だけ家族の予定を抜けて女性を買いにきているケースもあるといいます。
さらに通りを歩いていると、外国人女性の“立ちんぼ”も確認できました。“立ちんぼ”女性の海外での呼び名は、“ストリートガール”。
いつしかこの場所は、国内外から人が集まる“立ちんぼスポット”になってしまっていたのです。
「普通に働くより楽」彼女たちの言い分
彼女たちはなぜこの場所に立つのでしょうか?取材の中で、2人の“立ちんぼ”女性から、直接話を聞くことができました。
「私、東京の人じゃないんです」
そう語るのは、宮城県から“立ちんぼ”をするために、この場所に来たという27歳の女性。数日間立っているといいますが、稼いだ額はゼロ。誰しもが簡単に稼げる訳ではないといいます。
それでも他にやりたい仕事が見つからないという彼女は、稼いだ額をホストなど自分の好きなことに使うため、この場所に立つのだといいます。

そして、ホテル街にうずくまり売春相手を待っていたのは、3〜4カ月前から立っているという20歳の女性。大久保公園の“立ちんぼ”は、ネットで知ったといいます。
多い時は1晩で10人に声をかけられ、そのうち5人と交渉が成立することもあるといいます。これまで風俗で働いていたこともあるといいますが…。
「風俗はお客さんを選べないから。一方で“立ちんぼ”は男性の顔や清潔感を見て判断できる」
彼女は“立ちんぼ”で月70万円ほどを稼ぐといいいます。その目的は、楽器を買うこと。
「普通に働いて稼いだ方が良いのでは?」
その問いに、彼女から返ってきたのはこんな言葉でした。
「普通に社会人するのが向いてない。小さいころから体が弱くて、朝から夕方まで働けない。それよりもこっち“立ちんぼ”をしているほうが楽」
さらに、その女性が明かしたのは、ホストクラブに通っている“立ちんぼ”女性から聞いたという話。
「店のツケ制度は廃止されたけど、最近はみんなホストに借金をしている。借金する先が店からホスト個人に変わっただけで、売掛の構図自体は結局変わっていない」
一部の悪質なホストクラブでは、店ではなくホスト個人に借金をする形で高額な支払いをさせているといいます。
彼女自身は“立ちんぼ”をすることに少しの抵抗もないのでしょうか?
同世代の女性として、私は率直な質問をぶつけました。
「抵抗は全くないです。お金稼げればなんでもいい」
私には理解が難しい言葉でしたが、彼女の意志に迷いはないように見えました。彼女はこれからも“立ちんぼ”を続けるといいます。