それにもかかわらず、私たちのほとんどは、コミュニケーションに悩んだ際に、「まずは話し方を変えよう」と考えてしまいます。
ある実験では、「会話スキル」を学ぶ研修と、「共感力」を学ぶ研修のどちらかを選ばせたところ、ほとんどの参加者は「自分は会話の技術を学びたいが、他人には共感力の研修を受けさせたい」と答えました。
共感力のように抽象的な能力を鍛えるよりも、すぐに役立ちそうなスキルを身につけたいと思うのは自然な心理でしょう。

しかし、何度も見たように、「しゃべりのうまさ」や「論理的な伝え方」などは意思を伝達するツールのひとつでしかなく、それよりも大事な要素は他にあります。
中国のことわざにもあるとおり。「間違った人間が正しい道具を使えば、正しい道具も間違った方向に働く」もの。
もしあなたが高度な会話スキルを習得したとしても、〝魅力〟がなければ宝の持ち腐れなのです。

鈴木 祐
1976年生まれ、慶応義塾大学SFC卒。16才のころから年に5000本の科学論文を読み続けている、人呼んで「日本一の文献オタク」。大学卒業後、出版社勤務を経て独立。
近年では、自身のブログ「パレオな男(http://yuchrszk.blogspot.jp/)」で健康、心理、科学に関する最新の知見を紹介し続ける。自著「最高の体調」(クロスメディアパブリッシング)や「パレオダイエットの教科書」(扶桑社)などを上梓し、ヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。