災害は「いつかやってくる」と思っていても、実際に遭遇すると慌ててしまうものだ。特に小さな子供は自分で判断することが難しい。
こうした状況でパニックを起こさず、親子で身を守るにはどうすれば良いのか。子連れ向けの防災講座を各地で開く、NPO法人「ママプラグ」の理事・冨川万美さんに聞いた。コツは「普段の生活で子供と一緒に防災を体験すること」だという。
突発的災害は「数秒」が命に関わる
災害はさまざまな種類があるが、冨川さんは「突発的に発生するものか、ある程度予測できるものか」によって、身を守るためのポイントが違ってくると話す。
【突発的な災害にみられる傾向(例:地震)】
・発生からすぐに被害を受けやすい
・家族が離れ離れで被災しやすい
【予測できる災害にみられる傾向(例:台風、大雨など)】
・比較的、事前の備えがしやすい
・状況が短時間で変わりやすい
地震は「緊急地震速報」が届いてから、強い揺れの到達までが数秒~数十秒とされる。そこで「災害が来るかもしれない」と思ってからの“短い時間”の使い方が大切だ。
屋外では落下物を避ける行動をとる。家では食器棚や家電など“凶器”となるものが倒れないように工夫をしたり、できるだけ物を置かない“安全な場所”の確保を心がけよう。
「屋外では古いビル、看板や窓の近くから離れる。家では廊下や玄関に集まるといったことを家族の共通認識(ルール)にできると良いですね。子供には『頭に物が落ちてこない、体が挟まれない場所に行くんだよ』などと、簡単に伝えましょう」(以下、冨川さん)
そして覚えておきたいのが、親子ペアでできる“ダンゴムシのポーズ” 。とっさでも低い姿勢を保ち、頭部を守りやすいので、小さな子供がいる家庭は遊びながら練習してみよう。
【ダンゴムシのポーズのやり方】
1.子供と親が向かい合わせになる
2.子供は体を丸め、頭を両手で抱える
3.親はその上から、お腹で覆うように抱きかかえる
ただ、実際の災害ではポーズのことばかり意識して、安全な場所に移動することを忘れないようにしたい。親は自分の頭部もクッションなどで守るようにしよう。
予測できる災害も「状況の変化」に注意
一方、台風や大雨などは近づく時期が予測できるので、事前に危険になりそうな物はどける、食料品を準備するといったことはしやすい。ただ、短時間で状況が変わりやすいともいう。
「自宅がすぐに冠水することもあるので、情報を入手できるかが、命を守れるかどうかに直結します。垂直避難する、大切な物は上階に移動させるなど早めの行動も必要です」
公式のニュースやラジオで正確な情報を集めつつ、防災アプリも活用してリアルタイムの状況を把握しよう。災害時は停電の可能性もあるので、充電切れにならないよう、スマホのモバイルバッテリーも用意しておくと安心だ。
このほか備えとして、自治体などが公表している「ハザードマップ」を参考に、居住地域ではどのような災害リスクがあるか調べておくと、いざという時に行動しやすいという。
子供との“防災ごっこ”で備えよう
子供は災害に遭遇すると、どうすれば良いか分からずに混乱することもある。そこで冨川さんが勧めるのが、普段の生活に“防災ごっこ”を取り入れることだ。
・水道や電気、ガスを使わないで生活してみる
・非常食を食べる、防災グッズを使ってみる
・地震が今来たらどうするか、シミュレーションする
こうしたことを遊びながら体験すると、災害時のストレスを軽減しつつ、焦らず行動できるようになるという。非常食や防災グッズのテストにもなるので一石二鳥だ。自宅周辺をピクニックしながら、避難所や危険な場所を確認したり、野山へキャンプに出かけて、天候の変化や電気がない生活を体験したりしてみよう。
また、災害時の子供は割れたガラスの上を裸足で歩くなど、予想外の行動で負傷することもある。これは「危険性を知らない・分からない」ために起きるので、日常でちょっとしたけがをした時に「どうしてこうなったか」を教えておくと、意識も変わりやすい。
「小さな切り傷などを負ったら『こういうので血が出ちゃうんだね、痛い思いをするんだね』などと声をかけてください。痛みや危険性は親が教えてあげられます」
子供は思うように行動できないと、パニックを起こす可能性もあるという。注意点やすべきことは理解しやすいよう、簡単な言葉や表現で伝えておくこともポイントだ。
複数の連絡手段を用意しよう
災害では、子供は学校、夫は職場、妻は自宅など“バラバラ”に被災することもある。通信網が麻痺することもあるため、複数の連絡手段を用意してほしいという。
「家族の安否がわからないと不安になります。LINEが使えないなら、InstagramのDMで連絡する。それもダメならXのDMを使うなどと決めておきましょう」
冨川さんはSNS以外の連絡手段として、NTTが提供する「災害用伝言ダイヤル(171)」の利用を勧めている。電話で安否情報を録音できるほか、相手の電話番号がわかれば、離れた場所からでもメッセージを再生できるので心強い。
「システムが音声アナウンスなので、最初は使い方が分かりづらいかもしれません。月に2回(1日、15日)お試しで体験できるので、家族で使ってみてほしいですね」
このほか、災害で家に帰れない場合の「一時的な避難先」を話し合っておくことや、子供が一人で外出する時は行き先を聞いておくことも、安心につながるという。皆さんも日常を通じて、災害に備えてみてはいかがだろうか。
冨川万美
特定非営利活動法人MAMA‐PLUG(NPO法人ママプラグ)理事。青山学院大学卒業後、大手旅行会社、PR会社を経て、フリーランスに転向。東日本大震災での母子支援を機に、NPO法人ママプラグの設立に携わる。防災に対して、アクティブな姿勢で行動を起こす「アクティブ防災」を提唱し、全国各地でセミナーを行っているほか、東京都の「東京防災」「東京くらし防災」編集・検討委員なども務める。二児の母。