教団を離れたら、家族や親友であっても、信者とは絶縁状態となるー。

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FNNは2024年3月、キリスト教系新宗教「エホバの証人」が、そんな厳格さで知られるいわゆる「忌避」という教義を、部分的に緩和する方針を示したことを報じた。

(【独自】「エホバはあなたに帰ってきてほしい」エホバの証人が教義緩和か?内部文書入手 批判集まる教団内で一体何が)

この方針転換を機に、「もしかしたら家族と関係修復ができるかも」と期待感を覚えた元2世信者がいる。FNNは、男性が10年以上にわたり絶縁状態にある両親を訪ねる姿に密着した。

不祥事告発で一変、教団を“排斥処分”…両親とも“絶縁状態”に

4月13日、ソメイヨシノの見頃を迎えた春の土曜日。
神奈川県内のある駅の改札口で、その男性は緊張した面持ちで立っていた。

元2世信者の根尾啓太さん(仮名)。(根尾啓太さん(仮名)はこちら)

熱心な信者の母親の影響で4歳から会衆(信者のグループ)に通っていたが、約10年前に教団を離れた。

根尾啓太さん(仮名)

生活のそばには、いつも教義があった。両親との布教活動を強いられたり、教義に反しているとして体罰を受けたりすることもあり、教義への違和感を覚えることもあったが、成人後も信者を続けてきた。

大学中退後には教団内で、信者らの世話役にあたる「長老」や「奉仕の僕」などの役職を得て、手術が必要な信者と、無輸血での治療をおこなう医療機関をつなげる要職にも選ばれた。

両親や妹たちは、そんな長男を誇りに思っているようだった。会衆の会合や街角での奉仕活動など教義に沿った活動を除けば、仲の良い一般的な家庭の姿だった。

だが約10年前、教団幹部の不祥事を教団内で告発したことで、全てが一変した。
告発は無視された一方、逆に自身が「反抗的だ」と指弾を受けた。

数回の聴聞の末に受けたのは、教団内からの破門を意味する「排斥処分」だった。

処分を受ける前夜、実家を訪ね、いつも通りに家族で夕食を取った。
食卓に家族がそろうと、必死に自分の無実を訴えた。

「僕は間違ったことはしてない」「不正を見逃している幹部の方が悪い」「家族なら分かってくれるよね」

しかし、そう訴える自身を母親はこう突き放した。

「最終的にはエホバが決めることよ」

翌日、排斥処分を下されて以降、実家を訪ねても家族が玄関を開けてくれることはなくなった。

何度インターホンを鳴らしても、返ってくる答えは「帰って下さい」のみ。
冷ややかに追い返される度に、心が冷めていくのを感じ、次第に実家に足を運ぶことはなくなっていった。

「もう家族と会うこともないだろう」。そう諦め、10年以上生きてきた。

「あなたと話しちゃいけないんですよ」父親が息子に放った一言

しかし2024年3月、教団が突然、教義緩和を発表した。

緩和の内容は、脱会した元信者への「挨拶」を許す程度とされたが、これを機に「元通りの家族になれるのでは」と思えた。迷った末、実家を訪ねることを心に決めた。

実家に向かう根尾さん
実家に向かう根尾さん

4月13日朝、最寄り駅から閑静な住宅街を歩いて約10分。
実家のあるアパートに着くと、ちょうど玄関口から父親が出てくるのが見えた。

80代になった父。変わっていないように見えたが、少し小柄になったようにも感じた。

「ちょっとお話しませんか」。そう話しかけると、父親は戸惑いつつもうなずいた。

10年ぶりに父と会話を交わす
10年ぶりに父と会話を交わす

「組織は変わりましたか?」「うん、やっぱりね」「今、健康なの?」「うん、大丈夫ですよ」

一般的な挨拶を交わすにつれ、父親の目元に少し笑みが浮かんだ気がした。
もしかしたら、と思えた。思わず、この日一番聞きたかった質問を尋ねた。

「我々の関係がこのままでいいと思いますか?家族の絆を取り戻さないと」

しかし、父親の返事は冷ややかなものだった。

「あなたは聖書に反抗的だから。挨拶はいいんだけど、お付き合いまではね」

その後のやり取りも、父親の突き放すような口調は変わらなかった。

話題は、忌避についても及んだ。

「世界的にも批判されている」「おかしいと思いませんか」。そう訴えたが、「判断基準は、人それぞれですから」と他人行儀に返された。

根尾さんとの親子の会話を切り上げ立ち去る父親
根尾さんとの親子の会話を切り上げ立ち去る父親

そして、父親は「あなたと話しちゃいけないんですよ。これくらいにして下さい」と話し、歩き去っていった。

家族関係を元通りにするのは、わずかな可能性だと思っていた。
しかし、いざ目の前で拒絶されると脱力感を覚えた。

「所詮、『組織から出た人間はヨソ者、組織の中にいる人間だけが仲間』ってことですかね」

徐々に遠ざかる父親の背中を見つめつつ、「私は、ただ普通の家族でいたいだけなんだけど」と語る横顔は、硬くこわばって見えた。
【取材・執筆:フジテレビ社会部 松岡紳顕】

松岡 紳顕
松岡 紳顕

フジテレビ報道局社会部記者
1991年生まれ、福岡県とカナダ育ち。慶應義塾大学法学部を卒業後、2015年に全国紙に入社。知能犯罪や反社会的勢力、宗教2世問題、農水省、宮内庁などを担当。2023年秋よりフジテレビ社会部で司法担当記者として、汚職関係を取材しています。趣味は冬山登山です。
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