大きな災害が起きて被災した場合、避難所などへ向かうと水や食料など公的機関からサポート(公助)が得られる。

しかし、自分や大切な人の命を、自分たちのチカラで守る「自助」をしなければならない段階がまずやってくる。

その自助にフォーカスを当てているのが、自衛隊危機管理教官・川口拓さんの著書『災害からテロ、ミサイル攻撃まで まさか!?の非常事態で「死なない技術」』(扶桑社ムック)。

災害時、さまざまな備えを必要とする中で、どんなリスクが存在しているのか、身の回りのリスクの明確化とその対策について一部抜粋・再編集して紹介する。

不安を和らげるためのリスクの明確化

危険を整理することが、災害対応の第一歩。そこで、われわれは災害に備えて何をしておくべきかを考えてみたい。

災害が起きたときやそのあとにできることは少ないが、前にできることはたくさんある。

これまでこの本では、アウトドアでのサバイバルや、都市災害でライフラインが寸断された場合にどう行動すればいいかについて説明してきた。

考えられるリスクは人それぞれ。季節や時間帯によっても変わる(イラスト:さじろう)
考えられるリスクは人それぞれ。季節や時間帯によっても変わる(イラスト:さじろう)
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だが、リスクはそれだけではない。命を脅かす脅威はほかにもたくさんあるのだ。多くの人は、そうした脅威に対して不安な気持ちを持っているだろう。

地震が怖いと思うのは当然のことだし、そう思うことは避けられないことである。

この不安を少しでも和らげるために必要な第一歩が、リスクを明確化することである。

どんな危険が自分に降りかかる可能性があるのか、できるだけ具体的にイメージしておくこと。

そうやってイメージができてはじめて、その対応策を考えることができる。

リスクをイメージすることをせずに対応策を考えようとしても、ただ漠然とした恐怖が大きくなっていくだけになる。

対応策を講じることで不安を消すことはできないが、和らげることはできる。常に備えることを忘れてはならない。

身近に潜む8つのリスク

実際に災害が起きたときに想定される、8つのリスクを挙げていく。

【家屋の倒壊・閉じ込め】
古い家屋は倒壊する危険がある。絶対とはいえないが1階が押しつぶされることが多いので、なるべく2階で就寝する。安全に避難できる状況であれば外に出ることも考える。

揺れてからの避難は危険を伴うので、緊急地震速報後、実際に揺れるまでの短い時間が非常に重要になる。避難路を整理しておくことも大切だ。

【帰宅困難】
政府は、大量の帰宅困難者が徒歩で移動すると緊急車両の通行の妨げになることなどから、大規模な地震発生時は従業員を施設内に待機させることを企業に望んでいる。

だが、自宅へ徒歩で帰ることは想定しておき、ルートをあらかじめ調べ、電気や通信機器が機能しない可能性も高いので、パソコンではなく紙の地図などに記しておくこと。

【人々のパニック】
自分がパニックにならないことも当然大事だが、パニックになってしまったほかの人が自分や家族に危害を加えてくる可能性がある。

人が密集しているような場所では、1つの出口に人が殺到してしまい押しつぶされて命を落とす危険もある。また、我を失って暴力的になる人も多いだろう。

災害時は人が多い場所から離れるというのも選択のひとつ。

土砂災害はあらかじめ危険なエリアを把握しておく(画像:イメージ)
土砂災害はあらかじめ危険なエリアを把握しておく(画像:イメージ)

【土砂災害】
地震による揺れで地盤が緩み、大量の土砂や石が流れ落ちてくると甚大な被害を生むことがある。雨が降っていたり余震が続いている場合はとくに注意しなければならない。

発生してから逃げるのは不可能なので、あらかじめ危険なエリアを把握しておくこと。山の斜面に亀裂が生じたり、地面から水が湧き出るようになったりしたら、すぐさま避難する。

【地震による火災】
火災に関しては、どれほど自分が備えていたとしても避けられないこともある。火元が自分の家とは限らないからだ。

地震火災で多いのは、通電火災といって、地震などによって途絶えた電気が再び流れた際に、ダメージを受けた配線などから出火するケース。これを防ぐには、停電したとしても家を出るときにはブレーカーを落とすことだ。

室内・屋外など落下物にも注意が必要だ(画像:イメージ)
室内・屋外など落下物にも注意が必要だ(画像:イメージ)

【落下物】
照明や棚の上の段の荷物など、室内で自分の周辺を見まわしてみれば危険があるものはすぐわかるはずだ。屋外においては、ビルの壁が剝がれたりガラスが割れて落ちてくることがあり危険。

店の看板なども要注意だ。普段から、スマホばかりを見て歩くのではなく、どこに危険があるかチェックしながら歩くことが対策となる。

【津波】
津波の恐ろしさについては、いまさら説明するまでもないだろう。残念ながら東日本大震災では多くの被害者が出てしまった。

津波からはなんとか逃れたが、その後、体が濡れたままで低体温症で亡くなった方もいるという。どんな状況でも体温を保持する方法を身につけるようにしなければならない。もちろん、避難できる高台がどこかも把握しておこう。

【家具などの転倒】
このリスクは比較的、対応がしやすく、寝ているベッドの上に家具が倒れてこない配置にしたり、転倒防止対策をすればいい。

だが、ほかにも家具が倒れてドアをふさぎ閉じ込められてしまうことや、オフィスなどで什器が床の上を勢いよく滑ってきてケガをすることがある。病院が機能しなくなることを想定すると、小さなケガであっても防ぎたい。

『災害からテロ、ミサイル攻撃まで まさか!?の非常事態で「死なない技術」』(扶桑社ムック)

川口拓
2013年に一般社団法人「危機管理リーダー教育協会」を設立。CMLEブッシュクラフトインストラクター養成トレーナー、Japan Bushcraft School校長、Japan Urban Survival School校長、自衛隊危機管理教官、自衛隊サバイバル教官

川口拓
川口拓

1990年代よりカナダ、アメリカのサバイバルスクールでサバイバル技術やネイティブアメリカンの古来の教えを学び、2001年にブッシュクラフトやサバイバルの技術を伝える自然学校「WILD AND NATIVE」を設立。地球とのつながりを感じる自然体験プログラムを実施している。2013年に一般社団法人「危機管理リーダー教育協会」を設立。執筆活動、テレビや雑誌などのメディア協力も積極的に行い、技術を広く共有している。CMLEブッシュクラフトインストラクター養成トレーナー、Japan Bushcraft School校長、Japan Urban Survival School校長、自衛隊危機管理教官、自衛隊サバイバル教官