カナダ・モントリオールで行われた世界フィギュアスケート選手権。
女子シングルでは、坂本花織(23)が56年ぶりの快挙となる3連覇を達成。
この記事の画像(31枚)続く2位には、ショート・フリーともにシーズンベスト更新で会心の演技を披露した、アメリカのイザボー・レヴィト(17)、3位の韓国、キム・チェヨン(17)は四大陸選手権に続きメダル獲得となった。
日本勢では千葉百音は7位、吉田陽菜は8位で大会を終えた。
シーズン集大成の世界選手権、激戦を繰り広げた女子シングルを振り返る。
坂本は4位からの逆転優勝
大会初日のショートプログラム、最終滑走で登場したのは大会2連覇中の坂本だ。
冒頭ダブルアクセルを決めるも、2本目の3回転ルッツでまさかのミス。
その後は立て直したものの、ミスが響き4位スタートとなった。
滑走順抽選が行われた今大会、坂本はフリーで最終グループ3番滑走となった。
覚悟を決めた表情でスタートポジションにつくと、代名詞のダブルアクセルを筆頭にジャンプを全て着氷。
スピンで最高評価のレベル4を獲得し、演技構成点はトップの74.59点をマーク。
2位と10点以上差をつけ、絶対女王の意地を見せた。
終わった直後から、ずっとうれしい
56年ぶり、史上8人目の3連覇を達成した坂本に大会後、話を聞くことができた。
「ここ数年はそれがベースだった」という最終滑走から、今大会はフリーで最終グループ3番滑走。坂本自身にとっても新鮮な体験だったという。
「久しぶりのフリー3番滑走は、『結構時間がないな』と思って。いつも6番目に滑る時はアップして、6分間練習をして、もう1回アップできる時間がある。
でも本当になくて、靴紐をもう1回結び直すぐらいしか時間がなかった。
『久しぶりだな、この感覚』っていう気持ちで、“ずっと勝てるわけじゃないんだよ”ということを感じた試合でした」
ショート4位からフリーに挑むまで、そして演技中の気持ちについても、彼女らしく振り返る。
「ショートでミスした分、その気持ちが大きくて、『なんとしてでも今日は全部決める!』って気持ちでずっと4分間滑って」
「最後のループが終わって一瞬『よっしゃ!』って思ったけど、全日本で最後のスピンをすっごい失敗したので、もう『最後まで集中、最後まで集中』と思いながら、ビールマンスピンが終わって、最後のニースラ(膝で滑る技)で『イエーイ!』と思いながら(笑)。
最後は、『やった、やり切った!』という気持ちでしたね」
目標の全日本と世界選手権のダブル3連覇については、次のシーズンのバネにしたいと語る。
「終わった直後から今に至るまでもうずっとうれしい気持ち。
今シーズンは序盤からいい成績を残すことができた。自分としても、ピークを全日本と世界選手権に持っていきつつ、でも他の試合も頑張るという面で、今年は本当に波が少なかったと思う。
2年後のオリンピックに向けて、すごくいいシーズンを送れたと思う。今年できた経験が次にしっかり生かせると思います」
他を圧倒する強さで有言実行となるダブル3連覇を成し遂げた坂本。
来季への展望も明かしてくれた。
「来季はオリンピックのプレになるので、さらにエンジンをかけていきたい。今年以上のものを来季できたらな」
続けて、来季のプログラムを尋ねると、「誰もが知っているような曲。クラッシックとか、王道やってみたいな」と口にした。
日本の絶対的エース、来季の活躍にも期待がかかる。
華やかにしめくくった17歳の新エース
去年初出場で4位となった、イザボー・レヴィト(アメリカ)。
今大会では、グランプリファイナル後に変更した新ショート『Nella Fantasia』を、彼女の持ち味である重力を感じさせないスケーティングで演じ切り2位スタート。
続くフリーでもジャンプを全て決めて見せ、本人も大喜びのパフォーマンスを披露した。
目標に掲げていた「ショートとフリーでのパーフェクトな演技」を有言実行させ、2度目の世界選手権で初の表彰台に輝いた。
「今は100%ハッピーでうまく説明できない。今シーズンはジェットコースターみたいで、ブレがありました。
タイトルを獲ったり、獲れなかったりでしたが、シーズン最後で最高の結果で終われて超うれしいです」
来年ボストンと母国開催となる世界選手権での活躍にも注目だ。
着実に成長を見せる伸び盛りの高校3年生
3位に輝いたキム・チェヨン(韓国)は、ルッツジャンプを中心に完成度の高い演技で勝負するスケーターだ。
四大陸選手権ではその持ち味を発揮し2位表彰台。
満を持して挑んだ今大会では、ショートではジャンプにミスが出てしまい6位に。
しかし最終グループ1番滑走で迎えたフリーで、悔しさを晴らす演技を披露する。
ジャンプを全て着氷させ、演技構成点は坂本に次ぐ2番目のスコアを獲得した。
シニア2年目にして着実に結果を残している今季の成長について、「昨季は、緊張するとミスが1つ2つ出たのですが、今シーズンは、後半からは自分を信じて演技できるようになり、ミスが減ったように思います」と語る。
2年後の五輪も見据え、彼女はさらなる飛躍を誓う。
初出場で存在感を残した18歳
日本からは、坂本の他に千葉百音・吉田陽菜が出場。
ともに世界選手権デビューで千葉は7位、吉田は8位と健闘した。
四大陸女王として挑んだ千葉は、ショートで大会の雰囲気にのまれてしまい、13位に。
それでもフリーでは前半の3回転ループにミスが出るも、その他のジャンプで崩れることなく気持ちの強さを感じる演技を見せた。
フリーで5位と巻き返し、総合7位で大会を終えた。
大会後に話を聞くと、「この悔しさを忘れちゃいけないなと思いました」と悔しさを滲ませた。
日本勢の坂本や三浦佳生らがショート終わりにすぐ気持ちを切り替えていた姿に影響を受け、フリーでは強い気持ちで挑むことができたという。
スポーツ喘息に苦しみ、思うように運ばないことも多かったシーズン前半を乗り越え、全日本2位、四大陸選手権で優勝を手にし、後半から快進撃を繰り広げた今季。
千葉は「これから伸びしろしかないと強く感じた1年でした」と語る。
表彰式を吉田と一緒にリンクサイドから眺めていたという千葉は、表彰台にのぼる3人の姿に「表彰台に立っている3人はとにかく強くて、自分もそこに絶対に立ちたいと強く思いました」とリベンジを誓った。
4月から大学生となり迎える来季へ向けては、「今年はシニア1年目で、なかなかつまずくシーンも多かった。たくさん悔しい思いもして、成功体験もして、すごく濃い味の1年だったなと感じている。
その悔しい思いを絶対に忘れずに、来シーズンに向けてしっかり生かしていきたいです。もっともっと全体的にグレードアップしていきたい」と意気込む。
「自分の良さを最大限出せるような曲を滑りたいです」と、ショート・フリーともに来季一新する予定だというプログラムも楽しみだ。
今できる最高のトリプルアクセルが跳べた
千葉とともに“18歳コンビ”として初出場を果たした吉田陽菜。
武器のトリプルアクセルはショートでは回避した。
2本目のジャンプを失敗するも、スピン・ステップ全てで最高評価のレベル4を獲得しショート8位につける。
迎えたフリーでは試合前に鼻血が出るアクシデントが起こる。
演技後には声が出なくなるほどで、会場内の乾燥が原因だったという。
しかしその影響を感じさせない堂々の演技を披露。
ノーミスとはならなかったものの、大技トリプルアクセルを着氷させ、総合8位でフィニッシュ。
大会後、自身のトリプルアクセルについて振り返ってもらうと「直前の公式練習はアクセルの調子が良くなかったので、とにかくイメージをして、自分が思うカーブにしっかり乗って、自分の中で今できる最高のアクセルができたんじゃないかなと思う。
回転不足でしたが、ここまで練習してきたことや、試合前のイメージなど、そういう部分はしっかり結果に出たかな。来シーズンはショートからアクセルを挑戦できるように、体力などを強化していきたいです」と吉田。
シニア本格参戦となった今季は、グランプリシリーズ中国大会で優勝。
進出したファイナルで3位表彰台と国際大会で結果を残し、初の世界選手権代表の座を勝ち取った。
中学生から挑み続けているトリプルアクセルの精度もあがり、飛躍を遂げたシーズンにもなった。
「自分が思い描いていた以上に結果が残せたシーズンだった。世界選手権に出場することも想像していなかったので、ここに来ていることもすごいと思う。
もっともっと上を目指していかないといけないので、全ての試合で学んだことをしっかり今後につなげて、最終的にはしっかり2年後のオリンピックにつなげたいです」
絶対女王の貫禄、新エースたちの輝きなど多くのドラマが生まれた今大会。
来季の五輪プレシーズンでも、彼女たちの熱き戦いに目が離せない。