1966年に発生した強盗殺人事件で死刑判決が確定した袴田巖さんの再審、やり直し裁判が続いている。姉のひで子さんは全ての裁判に欠かさず出席する一方で、全国各地で講演をしている。事件発生から58年、死刑判決確定から44年。弟の無実を信じ続けた姉は、91歳になっても情熱が衰えない。

弟の面会に拘置所に通い続けて

2024年2月 静岡地裁
2024年2月 静岡地裁
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2023年3月、死刑判決が確定した袴田巖さんの裁判をやり直す「再審」開始が決まった。
姉のひで子さんは意思疎通が取れない弟に代わり、保佐人として2023年10月の初公判以降、すべての裁判に欠かさず出席してきた。

死刑廃止を考えるシンポジウムで講演(2024年1月・福井市)
死刑廃止を考えるシンポジウムで講演(2024年1月・福井市)

裁判が続く一方で、ひで子さんは全国各地に足を運ぶ。2024年1月27日、袴田ひで子さんの姿は福井県にあった。死刑廃止を考えるシンポジウムで講演を依頼された。
ひで子さんは、死刑判決が確定し獄中から裁判のやり直しを求めた弟の巖さんを励ますため、東京拘置所に通い続けた日々のことを振り返った。

1984年 東京拘置所
1984年 東京拘置所

講演する袴田ひで子さん:
毎月面会に行っていました。面会拒否をされても行っておりました。拘置所に行って、「袴田ひで子が面会に来た」ということを、係の方が巖に言ってくれる。それだけが伝達手段でした。いくらおかしくなっているといっても、どこか まだまともなところがあると思っていました。それで、「まだ家族はあきらめていないよ」というメッセージを送るために、私は行っておりました

2012年 支援者と東京拘置所を訪問
2012年 支援者と東京拘置所を訪問

ひで子さんは「巖が48年間 拘置所にいたということを、何とかいい方法に利用してもらわなければしようがない。今さら巖をもとの体に戻せなんて、そんなことは申しません」と続けた。

相次ぐ同志の死 

桜井さんは2023年8月に逝去
桜井さんは2023年8月に逝去

日に日に力強さを増すひでこさんの言葉。その一方で、辛い出来事も続いた。
1967年に茨城県で起きた強盗殺人事件で無期懲役判決の確定後に再審無罪を勝ち取った、いわゆる「布川事件」の桜井昌司さんが2023年8月 76歳で亡くなった。桜井さんは袴田さんの再審請求を支援してくれていて、ひで子さんとも親交があった。

桜井さんをしのぶ会(2023年12月・東京)
桜井さんをしのぶ会(2023年12月・東京)

2023年12月の「しのぶ会」で、ひで子さんは「悲しくなります。桜井さんも天国で笑っておいででしょう。天国で人気者になっていると思います。見守ってください、桜井さん、ありがとうございました」と、これまでの支援に感謝した。

西嶋弁護団長は2024年1月に逝去
西嶋弁護団長は2024年1月に逝去

そして袴田さんの弁護団長を20年以上務めてきた西嶋勝彦弁護士も、2024年1月に亡くなった。82歳だった。
ひで子さんは「もう半年 長生きしてもらいたかった。西嶋先生にも無罪という裁判の決着を聞いてもらいたかった」と、再審無罪への闘いを率いたリーダーの死を悼む。

2024年元日に届いた西嶋弁護団長の年賀状
2024年元日に届いた西嶋弁護団長の年賀状

毎年元日に届く西嶋弁護士からの年賀状。2024年に届いた年賀状には「袴田巌さんをもうすぐ死刑台から取り戻す。なんと半世紀かかった」と記され、「春が来る 袴田姉弟 雪冤だ」と自作の句が添えられていた。雪冤は無実の罪を晴らして、身の潔白を明らかにすることだ。

「闘いの味方 頑張ってもらいたい」

袴田ひで子さんと巖さん
袴田ひで子さんと巖さん

自分に残された時間、弟に残された時間、不安に思うことはないだろうか。

袴田ひで子さん:
考えたってしょうがない、そんなものはね。元気なうちは頑張っていくしかないの。年寄りだからパタンと明日いくかもしれん、それはそれでしょうがない。そんなことを心配していたら何もできない

ひで子さんの91歳の誕生日を祝福(浜松市)
ひで子さんの91歳の誕生日を祝福(浜松市)

2024年2月8日、ひで子さんは91歳の誕生日を迎えた。弟の巌さんも3月で88歳になる。
長年の拘置所生活で精神を病み、一度は姉の存在すらも否定した巖さん。しかし、ひで子さんの誕生日には、巖さん自身が選んだクマのぬいぐるみとともに、これまでにない言葉を姉に贈った。

袴田巖さん:
姉ということで、闘いにおいては姉は味方なんだ。(Q.これからも長生きしてほしいですか?)頑張ってもらいたい

袴田さんのやり直し裁判は2024年5月に結審の予定だ。

91歳 闘い続ける姉の願い

前述の死刑廃止を考えるシンポジウムで、袴田ひで子さんは講演を次のような言葉で締めくくった。

2024年1月 福井市
2024年1月 福井市

袴田ひで子さん:
巖だけ助かればいいと思っていません。巌はもちろんですが、えん罪で訴えている大勢の方が泣いております。その方も再審開始になるようにお助けしたいと思っています。年だなんて言ってはおれせん。ともかく、元気なうちは命のある限りは闘ってまいります

えん罪被害に苦しむすべての人を救いたい。それが、ひで子さんの強い思いだ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
テレビ静岡

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