食の雑誌「dancyu」の編集部長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。 

今回植野さんが紹介するのは「細巻き」。

ちょっとぜいたくしたい日にふらっと立ち寄る町の寿司店「すし宗達」(東京・初台)を訪問。

10年間修業した熟練の職人の技とその秘伝レシピを紹介する。 

新宿から1駅、アクセス抜群な町の寿司店

新宿から京王新線でわずか1駅の初台駅。

駅の目の前には、現代舞台芸術のために建てられた新国立劇場と東京オペラシティタワーがあり、街のランドマークになっている。

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そんな「初台」、実は新宿との間には、かつて都心に水道水を供給するための「浄水場」があり、その浄水場へ水を運ぶための水路が街中を走っていた。

浄水場が廃止されると水路があった場所は道路に。当時の名残で今でも「水道道路」と呼ばれている。

その通り沿いにあるのが今回目当ての寿司店だ。

手さばきを眺めるだけでうっとり

これまで、数々のお店で修業してきた「植野食堂」だが、実は寿司店を訪れるのは初めて。

今回は気軽に入れて自由にお寿司を楽しめる“町寿司”「すし宗達」(東京都渋谷区本町1−58−7)へ。

すし宗達
すし宗達

テーブル席2つにカウンター8席で、いつも多くの人で賑わう店内。

見事な職人技で提供される握りは、あまりの美味しさにうなずいてしまうお客さんが続出する。

人気のワケは江戸前のお寿司の代名詞、コクのある赤酢を使った酢飯。

握りは一貫80円台からのお手頃価格で、品揃えも幅広い。

さらに酒のお供になる一品料理も充実している。

煮だこのツマミ
煮だこのツマミ

ぎっしりと身が詰まった「毛ガニ甲羅詰め」や柔らかく、味も染みた「煮だこのツマミ」。程よい弾力で旨味が溢れる「ニタリクジラの刺身」も人気だ。

生きてるうちは永遠に修業…厳しい寿司職人への道

新鮮な魚介の宝庫として知られる、北海道小樽市で生まれた新田真治さん。

“寿司の街”小樽で生まれ育った少年は、いつからか寿司店を開くことを夢見るようになり、18歳で寿司の道へ進んだ。最初の修業先は、杉並区久我山にあった町寿司だった。

新田さんはそこでベテランの職人に尋ねた。

代表取締役・新田真治さん
代表取締役・新田真治さん

新田さんが「どれくらい修業をすれば一人前になれます?」と質問するも、先輩は「寿司ってのはな、覚えることは山ほどあるんだ」「生きてるうちは永遠に修業だ!」と厳しい言葉を投げかけた。

知れば知るほど寿司の奥深さを感じていった新田さん。

いつか自分の店を持つことを夢見ておよそ10年間、修業を重ね、28歳の時にとうとう独立。念願だった自分の店をオープンした。

しかし、そこで待ち受けていたのは厳しい現実。

初めのうちはお客さんが来なく、せっかく仕入れたマグロもどんどん鮮度が落ちていく。だが新田さんは「鮮度の良いものしか出さない!」という信念を貫き続けた。

その結果、徐々にお客さんは増えていき、今では遠方からわざわざ訪れる人もいるほどの人気店になった。

現在都内に5店舗を経営
現在都内に5店舗を経営

さらに店舗は増え、新田さんは独立から8年で都内に5店舗を経営するまでに。

それでも新田さんは「高級店はやるつもりない。肩ひじ張らない、頑張れば月一回とか来れるような町の寿司店を目指していきたい」と思いを持つ。

自分の寿司を、より多くの人に食べてもらうため、新田さんの挑戦は続く。

常連が太鼓判を押すメニュー
常連が太鼓判を押すメニュー

そんな「すし宗達」の常連が太鼓判を押すメニューが「細巻き」だ。

海苔の上に酢飯を手早く広げ、具材を綺麗に並べてくるっと丁寧に巻き上げれば、つまみにも、締めにももってこいの「細巻き」になる。

一口食べた植野さんは「それぞれの旨味が残りつつ巻物としてのおいしさがある」と太鼓判。

すし宗達「細巻き」のレシピを紹介する。