米大統領選に再選をはかるドナルド・トランプ前大統領が、多額の選挙資金を裁判費用に流用したことから支持者の離反が始まっているようだ。

“裁判目白押し”でふくらむ費用

米ニューヨーク地裁は16日、トランプ前大統領が資産を過大評価して不当に利益を上げていたとして3億5500万ドル(約533億円)の罰金と、罰金には2019年3月に遡って年9%の利息が加算されると言い渡した。その結果、トランプ前大統領は判決時点で総額約4億5000万ドル(約675億円)を1カ月内に支払うことが求められている。

約3億5500万ドルの支払い命令のほか、州内で企業幹部としてビジネスを行うことが禁じられた
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 トランプ前大統領はこの判決を不服として控訴すると言っているが、米国では控訴する際には「控訴保証金」という制度があり、ニューヨーク州の場合なら罰金や賠償金相当額を裁判所に納付しなければならない。(ニューヨーク・ポスト紙21日記事)

前大統領は保証金を立替える制度を利用する方針とも伝えられるが、それには保証金相当額の抵当と巨額の利子が求められる。

トランプ氏の私邸「マールアラーゴ」(フロリダ州パームビーチ)
トランプ氏の私邸「マールアラーゴ」(フロリダ州パームビーチ)

トランプ前大統領の資産は、ビルやゴルフコースなど不動産の評価額を含めて31億ドル(約4650億円)とブルームバーグ通信が試算しているが、現金や現金化できる証券などはせいぜい3億5000万ドル(約525億円)強とニューヨーク・タイムズ紙は見ているので、現金面で見る限り、前大統領が「手元不如意」に追い込まれることは間違いない。

これに加えて、トランプ前大統領は1月にニューヨーク連邦地裁で、女性作家への名誉毀損で8330万ドル(約125億円)の損害賠償を命じられており、3月にはポルノ女優への口止め料をめぐる訴訟の判決が予定されている。さらに、今後は「機密文書持ち出しと漏洩」「2020年大統領選結果転覆容疑」などの裁判が目白押しで、裁判費用は巨額に上ると予想されている。

選挙資金を裁判費用に流用

「ドナルド・トランプの資金繰りはさらに、さらに深刻化している」

米国のニュースサイト「デイリー・ビースト」は20日、こういう見出しで前大統領の懐具合を伝えた。

記事によると、トランプ前大統領の支持母体である「米国救済委員会」が1月に集めた募金額はわずか8508ドル(約128万円)に過ぎず、その一方で支出は390万ドル(約5億8500万円)に上ったことが連邦選挙委員会に報告されている。支出の内300万ドル(約4億5000万円)近くは「弁護士への支払い」となっている。

“金色スニーカー”を発表した際にも、罰金支払いに充てるのではと、やゆする声が上がった
“金色スニーカー”を発表した際にも、罰金支払いに充てるのではと、やゆする声が上がった

これとは別に、トランプ選対本部の1月の収支は約260万ドル(約3億9000万円)の赤字となっており、「トランプ陣営は天文学的な裁判費用を支持者からの寄付で賄いながら選挙戦を戦おうとしている」と記事は伝えている。

米国では、政治献金を裁判の罰金や損害賠償に使うことはできないが、法務費用として計上することは認められているので、トランプ前大統領としては裁判を「不公平な魔女狩り」だと訴えて支持者からの寄付を頼りにしているようで、これまでに裁判費用として約5000万ドル(約75億円)が前大統領の選対から支出されている(ニューヨーク・タイムズ紙)という。

ニューヨーク地裁の判決に「選挙妨害」「魔女狩り」などと反発(2月16日)
ニューヨーク地裁の判決に「選挙妨害」「魔女狩り」などと反発(2月16日)

「トランプ前大統領が訴訟費用を献金者に転嫁するという選択は、共和党の全国的な資金集めの努力を頓挫させる恐れがある」

「デイリー・ビースト」の記事はこう指摘するが、前大統領は自分の息子の嫁のララ・トランプさんを共和党全国委員会の共同委員長に推挙して、委員会を意のままに操ることを画策していると伝えられる。

当のララさんは、21日にNBCテレビに対して「ドナルド・トランプへの攻撃はアメリカに対する攻撃なのだから、彼を支援することが大事なのです」と選挙資金を前大統領の裁判費用に流用することを否定しなかった。

「支持者の寄付疲れ」

こうした折、英国の経済紙「フィナンシャル・タイムズ」電子版は21日「ドナルド・トランプへ寄付する支持者が前回と比較して20万人減った」と報じた。

同紙が独自に試算したもので、2023年後期にトランプ前大統領の選挙運動に寄付した者は約51万6000人だったが、前回の大統領選挙を控えた2019年の同時期には約74万人いたので、今回は約22万4000人減っている。

その原因について「フィナンシャル・タイムズ」紙は「支持者の寄附疲れ」だとする共和党関係者の談話を引用しているが、それがトランプ前大統領の裁判と時期を同じくしていることにも注目している。

サウスカロライナ州での予備選でも勝利したトランプ氏だが…
サウスカロライナ州での予備選でも勝利したトランプ氏だが…

トランプ陣営は、200ドル(約3万円)前後の小口の寄付をする支持者の広がりに期待をかけているので、そうした支持者の離反は手痛い。

トランプ前大統領はサウスカロライナ州での予備選も圧勝したが、今後本選挙へ向かう選挙戦でこの問題が前大統領の「足を引っ張る」ことにもなりかねない。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。