食の雑誌「dancyu」の編集部長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。 

植野さんが紹介するのは「厚揚げのうま煮」だ。

地元の年配客やビジネスパーソンがひっきりなしに訪れる町中華「中華料理 安楽」を訪問。

常連客に愛される店づくりと、記事の最後で秘伝のレシピを紹介する。

公園や緑が目立つ、落ち着いた街にある町中華

都心へのアクセスも良い町、三鷹。少し落ち着いた雰囲気もあり、公園や緑も目立つ。

そんな三鷹は、“天文学研究の拠点”という側面もある。

国立天文台
国立天文台
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国立天文台は駅からバスに揺られること約20分の場所にある。もともとは港区麻布にあった天文台が1924年に三鷹へ移転。都心の発展とともに観測条件が悪化したことから、当時はまだ農村だった三鷹に白羽の矢が立ったという。

高度な技術を誇る望遠鏡を開発し、最新の宇宙データを観測し、分析。定期的に内部を公開するイベントも開催されている。

御年89歳にして今も厨房に立つ父と息子

そんな三鷹にあるのが赤い看板が目立ち、世代を超えて愛される町中華「中華料理 安楽」(東京都武蔵野市中町1-10-5)。

町中華「中華料理 安楽」
町中華「中華料理 安楽」

1966(昭和41)年に開店した広い店内には、4人がけのテーブルが7卓ある。

年配客からビジネスパーソン、学生に女性グループなど、幅広い世代の多くの人たちの胃袋を満たしている。

2代目店主・山田誠一さんと父・徳重さん
2代目店主・山田誠一さんと父・徳重さん

厨房で鍋をふるのが2代目店主・山田誠一(60)さんだ。

料理人歴70年、89歳にして今も厨房に立つ、父・徳重さんと二人三脚で店を切り盛りしている。

人気メニューの「チャーハンセット」
人気メニューの「チャーハンセット」

人気メニューは定番のラーメンとチャーハンのセットにふっくらとした食感のレバーが楽しめる「ニラレバ炒め」。

他にも、麻婆豆腐や酢豚、肉団子など、シンプルながら丁寧な技術で作る料理の数々はご飯にもお酒にもピッタリだ。

職人気質な父の「料理は見て覚えろ!」

誠一さんの父・徳重さんは長野県出身。5人兄弟の末っ子で仕事を求め上京してきた。

食べるのに困らないという理由で料理人の道へ進んだという。

1966年、豊島区要町に開店
1966年、豊島区要町に開店

中国料理店で修業したのちに独立し、1966(昭和41)年に豊島区の要町に「中華料理 安楽」を開店。

それから8年後の1974(昭和49)年、区画整理のために、現在の場所である三鷹へ移転した。

当時は、今は亡き妻・律子さんと店を切り盛りしていた。

そんな両親のもとに生まれたのが誠一さんだ。

誠一さんは店を継ぐつもりはなく、そのまま大学に進学。将来は学校の先生になろうと思っていたという。

 
 

しかし、母の死をきっかけに店を継ぐことを決意し、1987年に「安楽」へ。

しかし、頑固で職人気質の徳重さんは誠一さんが店に入ったものの、“レシピは全て自分のもの”という思いが強かったという。

誠一さんが「オヤジ、この料理の作り方教えて欲しいんだけど」と話しかけるが、徳重さんからは「いちいち聞くな。見て覚えろ!」と言われるだけだったという。

「口下手なので何か教えてもらうってことはないです。父の時代はそれが当たり前で…。行き詰まったときに教えてくれないつらさはあった」と振り返る誠一さん。

そんな頑固な父の背中を見て料理の腕を磨いた誠一さんは、今では父も認めるほどの腕前だ。

常連も絶賛する「厚揚げのうま煮」
常連も絶賛する「厚揚げのうま煮」

他の店ではなかなか見かけないながらも常連が絶賛するメニューが、豆腐のうま味が詰まった「厚揚げのうま煮」。

たっぷりの野菜と厚揚げを、店自慢のラーメンスープで煮込み、最後にとろみをつけたら、優しいうま味がじゅわっと広がる「厚揚げのうま煮」が完成する。

植野さんは一口食べると「いいねぇ」とため息
植野さんは一口食べると「いいねぇ」とため息

一口食べた植野さんは「厚揚げの食感と香ばしさ、油感が全体の旨味を出している」と称賛した。

中華料理 安楽の「厚揚げのうま煮」のレシピを紹介する。