能登半島地震の被災地で医療支援にあたった医師が、現地の実情を語った。災害派遣医療チームDMATとして1月16日に大分を出発し、石川県穴水町で活動した医療スタッフ。現地では寝袋で睡眠を取りながら穴水総合病院で救急医療を担当したという。大分三愛メディカルセンターの救急科部長・玉井文洋医師に話を聞いた。

「病院そのものが被災」

――派遣された病院の状況は
我々が行った穴水総合病院は、公立の100床ある病院。病院そのものが上下水道が止まるなど被災していました。それでも残っている患者さんの診療を続けていました。外来は薬を出す程度で、あとは救急車で来る患者さんに対応していました。病院そのものが被災をしていて、常勤の医師や看護師ら皆さんが地域のために一生懸命医療を支えようとしていました。

――上下水道が通っていない影響は
せめてもの救いは、電気が通っていたこと。寒さという意味では暖房が効くので、環境的にはいいのですが、やはり上下水道がないことは非常に大きな問題でした。多くの方が水分を控えてしまう。搬送されてくる患者さんの多くが脱水症を契機にして悪くなっていました。我々ですら水分を控え、トイレを控えました。被災者にとっては上下水道が復旧されない中で、水分を控え、トイレに行く回数をなるべく減らすということになってしまいます。

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――水道が通っていないということは手術は
もちろんあの病院の中ではできません。元々透析をする病院でしたが、透析の患者さんも全て金沢に移りました。災害時に水道の損傷は仕方ないことでしょうが、なるべく早期に復旧させないと、避難者を含めて、我々医療を提供する側も十分な対応ができなくなります。

――断水が長期化しているが影響は
今後の影響を非常に心配しています。被災地の中で水分を十分に摂取できないという環境下であれば、更に脱水症を伴う症状も増えてくるので。避難者は高齢者も多いですから、そういったところで合併症を起こしてくる方が増えてくるのではと心配しています。

「ほとんど何もできない」

――どれくらいの医療を提供できていたか
基本的にはほとんど何もできないと言っていいぐらいでした。我々は病院で救急診療を担当しましたが、初期診療をして転院をさせるのか、帰宅してもらうという選択になるわけです。十数人の患者さんを診ましたが、6割ぐらいは転院になりました。通常であれば、穴水の病院で完結できる患者さんも結局、遠方まで転院してもらうしかなかった。もちろん患者さんとすれば、地域の中で見てほしい要望もあると思いますし、患者さんにとっても残念なことですが、しっかり治療をするという意味ではそちらを優先するしかない。

――生活用水など必要な部分は
自衛隊の方々が頑張ってくれ、病院にも給水車が来ていました。私は入ることはありませんでしたが、裏の敷地に自衛隊が風呂まで用意してくれて、夜には行列になっていました。

「インフラの整備、改めて強化」

――今後の教訓など。感じたことは
上下水道の問題は非常に大きなこと。上下水道がなかなか復旧しないというのは、避難生活に大きな影響を与えます。こうしたインフラの整備を改めて強化し、被災したときにそれを速やかに復旧する方策を立てておく必要があると感じました。

――大分でも南海トラフ地震が懸念されています
避難所は市町村が管理することになります。多くの市町村の担当者に現地の避難所を見てもらって、我々が被災した場合に避難所がどうしたものになるのかというイメージが非常に重要になるかと思います。

(テレビ大分)