JR東海は2023年12月にリニア中央新幹線の開業目標を「2027年」から「2027年以降」へと修正した。こうした中、静岡県の川勝平太 知事は工事に伴う南アルプスの生態系への影響について「2037年までに解決すればいい」と述べた。

2024年も川勝節は健在 独自の見解を力説

2024年が幕を開け、静岡県庁では1月4日に恒例の年頭会見が行われた。

この中で、こう着するリニア中央新幹線の建設工事をめぐる議論への向き合い方を問われた川勝知事は、まず「(JR東海は)丹羽社長になって、葛西(=JR東海・葛西敬之 元名誉会長)路線から自由になったという印象を強く持っている」と述べた。

川勝知事による年頭会見(1月4日)
川勝知事による年頭会見(1月4日)
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川勝知事が念頭に置いているのはリニア中央新幹線に関する開業目標の変更だ。JR東海はこれまで2027年に品川・名古屋間を開通させた後、2037年に大阪までの全線を開通させることを目標とし、静岡工区の着工が見通せない中でも、2027年の開業は「困難な状況」とするだけで時期に関する具体的な言及は避けてきた。

ところが、2023年12月に開業目標を「2027年以降」へと変更する申請書を国土交通省に提出。JR東海が公的な書類で、開業が当初の目標より後ろ倒しになる可能性があると示唆したのはこれが初めてだ。

リニア中央新幹線の実験線
リニア中央新幹線の実験線

このため、川勝知事は「これまで現実的に厳しいと思いつつも、前の社長(現会長)以前は一貫して同じことを言っていた。2027年に品川・名古屋間の開業、2037年までに全線開通という旗を下ろしたことは一度もない。しかし、2027年以降ということになったので、その意味で大きな変化だと思っている」との認識を示した。

その上で、「2027年という数字が実質消えたので、2037年までに東京から大阪までの全線開通というのが残された最後の期限になると思う。従って、難航している国立公園であり、ユネスコのエコパークである南アルプスの自然・生態系を保全することとリニアの両立という件についても、2037年までに解決すればいいと私は受け止めている」と独自の解釈を披露。

さらに、以前は「(全体の)1合目よりは進んだという感じ」と評していた議論の進捗状況についても「南アルプスが守られたという意味では1回下山したということではないか。登らないで下山したということ」と口にした。

期成同盟会との“約束”はどこに?

ただ、ここで思い出されるのが2022年に静岡県がリニア中央新幹線建設促進期成同盟会への加盟を認められた際の経緯だ。

静岡県からの加盟申請を受け、期成同盟会の会長を務める愛知県の大村秀章 知事は川勝知事に対して書面で“ある確認”を行った。期成同盟会は、その名の通りリニア中央新幹線の建設に“推進”の立場を取る沿線都府県によって構成されていて、静岡県や川勝知事のスタンスに疑念を持つ会員がいたからだ。その“確認文書”には、こんな一文が記されている。

(1)現行ルートでの整備を前提に、スピード感をもって静岡県内の課題解決に向けた取組を進めること
(2)品川・名古屋間の2027年開業、大阪までの全線開業2037年を目指すとの立場を共有すること

期成同盟会への加盟は、静岡県がこの2つの条件を“呑んだ”からこそ実現したからに他ならない。

期成同盟会への加盟を申請した川勝知事(2022年6月)
期成同盟会への加盟を申請した川勝知事(2022年6月)

確かに前述の通りJR東海は開業目標を修正した。しかし、だからと言って期成同盟会の各会員に何の断りもなく “スピード感をもった課題解決に向けた取組を進める”との約束を反故にしてよいことにはならないし、川勝知事が“勝手に”「2037年までに解決すればいいと受け止めている」「1回下山した」と述べたことに各会員はどのような思いを抱いただろうか?

工事ヤードが出来ていないと言うが…

また、今回の会見で川勝知事は南アルプスの生態系の監視(モニタリング)に関連して、「(トンネルの掘削)工事をしながらモニタリングすることになっているが、工事をするためには工事ヤードがなくてはならない。そういう物がなければ、モニタリングも砂上の楼閣の話になる。いま葛西方式が音を立てて崩れたと私は見ている。先走ったモニタリングを言う前に工事ヤードがそもそも出来なければ、船が出来ていないのに寄港地の研究をしているようなもので、まずそこをどうするかというところに戻らなければいけないと思っている」とも気色ばんだ。

だが、工事ヤードの整備を含む準備工事については、2020年6月にJR東海の金子慎 社長(当時)が県庁を訪れ着工許可を求めて直談判した際、一度は容認するかのような素振りを見せつつ、その後一転して「本体工事と一体で認められない」と話したのは他でもない川勝知事である。

それも、準備工事はトンネル掘削などが含まれないにも関わらず、だ。

”直談判”に訪れたJR東海・金子社長(2020年6月)
”直談判”に訪れたJR東海・金子社長(2020年6月)

それに、例えば県が発注した国道414号・静浦バイパス(沼津アルプストンネル)などの公共工事においても、準備工事と本体工事(トンネル掘削)は明確に区別されている。

いま、静岡県や川勝知事に求められているのは客観的事実や科学的・工学的事実に基づいた論理的な主張ではないだろうか。

(テレビ静岡)

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