“夢の超高速鉄道”といわれるリニア中央新幹線だが、静岡県が工事の着手を認めていないため開業時期は見通せていない。こうした中、JR東海の丹羽俊介 社長が就任後初めてテレビ局の単独インタビューに応じた。

どうなる?半世紀以上の研究成果の行方

リニアの歴史は“意外にも”古く60年以上にも及ぶ。

東海道新幹線の開業を2年後に控えた1962年。東京・大阪間を1時間で結ぶことを目指し、新幹線の“次”の超高速鉄道としてリニアモーター推進浮上式鉄道の研究が始まり、10年後には初めて浮上走行に成功した。

ただ、その後 国鉄の経営が悪化。開発は順調に進まず、民営化後にJR東海が計画を引き継いだ。

1997年からは山梨リニア実験線での走行試験が始まり、国土交通大臣は2011年、リニア中央新幹線の整備計画を決定。2014年には品川・名古屋間の工事の実施計画が認可された。

山梨県のリニア実験線
山梨県のリニア実験線
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当初は2027年の開業を目指していたが、静岡県が工事に必要な許可を出していないことから今も静岡工区は未着工の状態が続いていて、開業時期は見通せていない。

こうした中、JR東海の丹羽俊介 社長が単独インタビューに応じた。2023年4月の就任後、テレビ局の単独インタビューに応じるのは初めてだ。

リニアの意義は?静岡のメリットは?

-リニア中央新幹線を建設する理由や意義は
JR東海・丹羽俊介 社長:
目的としては東京・名古屋・大阪という、いわゆる日本の大動脈を二重系化していくことにある。日本の大動脈輸送は現在、東海道新幹線が担っているものの2024年10月で開業60周年になる。もちろん適切なメンテナンスを行っているので安全・正確に運行できているが、ただ将来を見据えた時に経年劣化についても考えなければいけない。

それから、南海トラフ巨大地震など大きな災害も発生する可能性が高いともいわれている。そういったことに対して抜本的な備えとして、リニアによって日本の大動脈輸送を二重系化することは大変意義が大きいと思っている。

中央新幹線はターミナル駅や路線の8割以上は地下もしくはトンネルとなる。そうすると大雨や雪、強風といった気象条件にも強い、地震にも強いといった特性がある。こういった点からも災害対応という意味で二重系化には大きな意味がある。

テレビ局の単独インタビューに応じるのは就任後初めて
テレビ局の単独インタビューに応じるのは就任後初めて

また、もう1つ別の観点では中央新幹線が実現することで日本の社会経済が大きく活性化する考えている。リニアの最高速度は500キロなので品川から名古屋まで最速で40分、大阪までは67分ということで、現在に比べ大変な時間短縮になる。

そうすると首都圏・中京圏・近畿圏といった日本の3大都市圏が1つの巨大都市圏、これは人口にすると6500万人いるわけだが、これが1つの巨大都市圏になって広域的な交流が促進されるということで大いに社会経済が活性化されるという期待がある。

大変大きな意義を持つプロジェクトであり、多くの方から強い期待を寄せられているのでなるべく早期の開業に向けて全力で取り組んでいる。

-静岡県におけるメリットは
JR東海・丹羽俊介 社長:
日本の社会経済全体が活性化するという話をしたが、当然のことながら効果は静岡県にも及んでくるので、そういった意味での効果は大きいと思う。

もう少し具体的なメリットとして挙げると静岡県の方々に東海道新幹線をより便利に使ってもらえるようになると考えている。

リニア開業で東海道新幹線が”より便利”に
リニア開業で東海道新幹線が”より便利”に

中央新幹線が全線開業すると、従来は東海道新幹線の「のぞみ号」を使っていた利用客の一部が中央新幹線にシフトすると考えている。それによって東海道新幹線のダイヤに余裕ができた場合に「ひかり号」の停車回数を増やしたり「こだま号」の便数を増やしたりといったことで、より便利なダイヤにしていけるのではないか。

-10月には国交省が実施したリニア開業に伴う東海道新幹線への効果予測が示され、静岡県内における新幹線の停車本数が1.5倍に増えると想定している。実際に「ひかり号」や「こだま号」は増えるのか
JR東海・丹羽俊介 社長:
大前提として、実際にダイヤを作り設定するのはまだ先の話。

ダイヤを作るには「需要」はもちろん大切だが、それ以外にもいろいろな要素を考慮する。例えば列車を運行させるための設備にも条件があるし、車両の性能なども含めて多くの条件を考慮しながら緻密にダイヤを作っていくことになる。なのでダイヤの策定は大変複雑な作業となる。

JR静岡駅の新幹線改札
JR静岡駅の新幹線改札

この大前提の上に具体的なダイヤについては、その時々の経済情勢や他の輸送機関の動向も踏まえリニア中央新幹線の開業が近づいてきた時点で検討していくということになるわけだが、今回の国交省調査で示された静岡県全体の停車回数については違和感なく、あり得る範囲のものであると考えている。

我々としても中央新幹線の開業で静岡県の方々に実際にメリットが生じるということを実感していただくことが大切だと考えている。国の調査結果も参考にしながら「ひかり号」の停車回数や「こだま号」の増便など、静岡県の皆様にとって便利な東海道新幹線のダイヤが実現できるように将来に向けて検討を進めていきたい。

-開業が近づいた段階で東海道新幹線のダイヤを検討するということだが、そうなると静岡工区の着工の見通しが立たない現状ではダイヤの検討までは入れないということか
JR東海・丹羽俊介 社長:
ダイヤの検討自体は常により良いものにしていくということで検討を深めたいと思っているし、中央新幹線が全線開業した際には「こんなダイヤにしたい」という中身については、もちろん今後に向けて検討していきたい。

ただ、まずは南アルプストンネル静岡工区の着工を出来るだけ早期にし、それによって開業時期の目途をしっかりとつけられるように取り組んでいきたい。

開業時期は不透明もルート変更は否定

-2027年の開業が困難になっている現況への受け止めは
JR東海・丹羽俊介 社長:
中央新幹線建設の工事実施計画の認可をもらったのが2014年。それ以来、品川から名古屋までの各地で精力的に工事を進めて来ている。

一方で南アルプストンネル静岡工区においては、まだ静岡県の理解を得ることができずにトンネル工事に着手できていない状況。このため2027年の品川・名古屋間の開業が困難となり、現時点で新たな開業時期も示すことができない状況となっている。

3年前には金子社長(当時)が直談判に訪れた(2020年6月)
3年前には金子社長(当時)が直談判に訪れた(2020年6月)

我々としては出来るだけ早くまずは名古屋まで開業させたいと考えていて、このために他の県での工事を精力的に進めるとともに、静岡工区について早期着工のために大井川の水資源、南アルプスの環境への影響について地元の方々の中には心配を抱いてる方もいるので、心配を解消して理解を得られるように引き続き双方向のコミュニケーションを大切に頑張って対応していきたい。

-いつ頃までの開業を目指しているのか
JR東海・丹羽俊介 社長:
開業時期がいつ頃になるんだろうかということで、先日も中間駅の方々から「なるべく早く時期を明確にして欲しい」という要望もあった。もっともなことだと思っている。

ただ、大変強い期待をしてもらっているが、今のところ南アルプストンネル静岡工区の着工の見通しが立っていない。

工事が進む神奈川県駅(仮称)
工事が進む神奈川県駅(仮称)

このため開業の見通しを申し上げることが出来ない。我々としては静岡県の方々の理解得るためにしっかりとコミュニケーションに取り組んでいきたいと思っているし、力を尽くしていきたい。

-ルート変更や部分開業の可能性は
JR東海・丹羽俊介 社長:
ルートについて話すと国交相が2011年に整備計画を決定し、その中で南アルプスの中南部などを通るという形で整備計画を決定している。この整備計画に基づいて当社は国交相から建設指示を受けている。

指示を受けて環境アセスメントの手続きの中でリニアの技術的な観点、地形・地質といった観点、環境要素の観点など、様々な制約・条件を考慮しながらルートの絞り込みを行った。この内容を踏まえ国交相から2014年に工事実施計画の認可をもらった。

仮にルートを見直していくということになると、いま申し上げたプロセスすべてが振り出しに戻ってしまうということになる。すでに沿線の大変多くの方々から、この工事実施計画に基づいて貴重な土地や建物を譲ってもらい工事を進めさせてもらっている。そういったこともあり、私どもとしては現行のルートで進めていきたいと考えている。

それから部分開業については、そもそも中央新幹線の目的が、現在は東海道新幹線が1本で担っている日本の大動脈輸送を二重系にして、大規模災害などへの抜本的備えにしていく、日本の社会経済を活性化していくところにある。

そうすると部分的な開業ではこのような目的は果たせないことになるし、「まずは先行して一部区間を部分開業させればいいのではないか」という話についても、仮に一部区間の開業であっても、例えば指令の設備や車両基地など開業に必要な様々な設備がある。これを1セットでまとめて完成させる必要がある。

さらに、その他に試運転や運営体制の整備など様々な準備をすることになるわけだが、その後、また本格開業するときに同様のことを繰り返す必要が出てきてしまう。こういったことを考えると部分開業は現実的ではないと考えている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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