パレスチナ自治区ガザでの戦闘はイスラム組織ハマスの地下トンネル網が主戦場となっている。ガザの地下には総延長500kmにも及ぶトンネル網が存在するとされ、イスラエル軍にとって暗く湿ったトンネル内での戦闘はリスクが高く、攻略は極めて難しい。
こうしたトンネル戦に対応するためイスラエル軍は専門部隊を持つだけでなく、ガザに極めて似せて作られた専用の訓練施設を持っている。「ミニガザ」と呼ばれる軍事施設を取材した。

「ミニガザ」とは最大都市テルアビブから南に約100km離れたツェーリム陸軍基地の「市街戦訓練センター」のこと。この施設にはガザでの戦闘を想定した9つのエリアがある。

それぞれのエリアは、モスクやビルがある市街地や、難民キャンプ、農村地などロケーションの特性に合わせて作られていて、約500の建造物があるという。

この施設は第2次インティファーダ(イスラエル占領に対するパレスチナの民衆蜂起)後の2006年頃に作られた。その後ガザの状況に対応しながら、設備をアップデートし続けているという。

訓練施設の中でも最も注目されるのがハマスのトンネルを模したエリアだ。イスラエル軍は10年以上前からトンネルの脅威に対処する訓練を続けてきた。
ハマス攻略に必要なトンネルの知識・・ガザの東22km先で再現
取材した訓練用のトンネルは2種類。一つは「建物直結型」、もう一つは「攻撃戦略型」だ。
「建物直結型」のトンネルは、文字通り建物の下に作られている。イスラエル軍はこれまで幾度となく「ハマスの拠点は病院の地下にあり、隠れみのにしている」と主張してきたが、この種類のトンネルは建物とつながる出入り口が巧妙に隠されていることが多いという。

もう一つの「攻撃戦略型」トンネルは、ハマスが戦闘の際に戦略的に使用するものだ。農村部のグリーンハウスなどの横に出入り口が作られることもあり、ハマスの戦闘員が局所的な攻撃を仕掛けた後、すぐにトンネルに逃げられるように作られている。

こうした「攻撃戦略型」のトンネルは「建物直結型」よりも狭いのが特徴だ。その幅は70cm程度、天井までの高さは170cmほどで人が1人やっと動けるほどの大きさだ。屋外の出入り口は容易にカムフラージュができるものの、換気の必要があるため、よく見ると周辺には空気用のダクトなどが存在するという。

この「攻撃戦略型」を模した訓練用のトンネルに実際に入ってみると、場所によっては体をかがめないと進むことができず、さらに地面は砂地で歩きにくく移動が困難なことが分かる。農村部などに設置されていることも多く、この訓練施設のトンネルでも壁には体長3~4cmの黒い虫が10匹ほどはりついていた。

トンネルの出入り口の形状も様々だ。地下に降りる出入り口は大きく分けると「階段型」「ハシゴ型」「スロープ型」の3つのタイプがあり、こうした出入り口を用途に応じて作ることで戦闘員は市街地を縦横無尽に動き回ることができるという。訓練を担当するイスラエル軍の中佐が説明する。

「ハシゴ型は一つの例だが、家の中に直結していて隠れるのに都合がよい。出入り口は家具の下や、じゅうたんの下に隠されている」。

またイスラエル軍は、地下トンネル網を一網打尽にするため海水の注水も始めている。
この「水攻め」について中佐は「以前からエジプトも使った有用な手法だ」と有効性をアピールした。ただ専門家の間では、海水を注入することによる地下水の塩分濃度などへの影響を懸念する声も出ている。

ハレビ参謀総長は12月26日、ハマスとの戦闘について「数カ月続く」との見解を示した。イスラエル軍は今も地下トンネルの破壊を目的とした大規模な軍事作戦を続けていて、この目標達成までは戦闘を続ける可能性が高い。
(取材・執筆:FNNニューヨーク支局弓削いく子 取材:FNNロンドン支局一文字哲也、シャイ・フォーゲルマン)