探せば次々と見つかる、ロゴも商品も展示の仕方も本家とそっくりなコピー商品。

スターバックスをはじめ、マクドナルドやユニクロ、サーティーワン アイスクリームなど、モスクワ市内は今、外国資本が撤退した後、模倣商品で溢れている。

ウクライナ侵攻後のロシアをけん引する“コピー経済”について、北海道大学の服部倫卓教授に聞いた。

順法精神が低い国民性

ーーなぜロシアではコピー商品が横行する?

ロシアでは知的財産権を守ろうとする順法精神がしっかりしていないことが大前提としてあります。

以前から違法にコピーされたDVDなどが大量に出回っている国です。
かつてはWTOに加盟する際、コピー商品の横行が問題になり、知的財産権の侵害が批判されて加盟は難しいと言われた時期もありました。

スターバックスにそっくりな「スターズコーヒー」
スターバックスにそっくりな「スターズコーヒー」
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ある程度改善することによってWTOに入れましたが、もともとそういう素地があるので順法精神は低い国です。

そしてウクライナ侵攻後のプーチン政権は、国民に対してあまり戦争の影を感じさせたくなく、国民自身も今まで通りの生活を続けたいという思いから、模倣商品の横行や並行輸入を積極的に認める方針をとっています。

そのため経済界は、コピー商品や非常に似たブランドを展開して、侵攻前とほとんど変わらないような生活を提供しようとしています。

ケンタッキーフライドチキンにそっくりな「ROSTIC'S」
ケンタッキーフライドチキンにそっくりな「ROSTIC'S」

ーー違法性は?

マクドナルドの場合は、ロシア資本が買い取って名前を変えたということなので、必ずしも違法なコピー商品ということではありません。

しかし、似通ったブランド展開が大量に増えたのは事実です。

マクドナルドとして営業していたハンバーガー店では…
マクドナルドとして営業していたハンバーガー店では…

外国企業がロシアから撤退するためには、いろいろな許可を得たり、売却をしたりと撤退手続き自体が大変です。

そのため日本企業としても、模倣ブランドが展開されていることを批判するよりも、ロシアから撤退することの方を優先しているため、そうした行為をとがめることはあまりないと思います。

これが今のロシアの特殊な事情です。

外国企業撤退後の“隙間”を埋める

こうしたコピー商品の増加の背景には、ウクライナ侵攻後、著作権を侵害してでも、国民に今までと変わらない生活を続けてもらいたいという、プーチン政権の方針があると服部教授は指摘する。

――ウクライナ侵攻後に大量に増えた理由は?

ウクライナ侵攻前は外国企業が普通にビジネスを行えていました。

またロシアとしても、侵攻前は大手資本の権利を守るというのが基本的なスタンスでした。

2012年にWTOに加盟したことで、違法DVDなどあからさまなコピー商品は販売しにくくなっていたし、正常なビジネスが機能していた時代には違法コピー商品は少なかったです。

閉店した「丸亀製麺」が名前を変えて営業
閉店した「丸亀製麺」が名前を変えて営業

しかし戦争が始まって、さまざまな外国企業が撤退したことによって、隙間を埋めるように、いろいろなコピー商品や模倣ブランドが登場してきました。
 

――プーチン政権も関わっている?

プーチン大統領は意外と国民に甘い大統領です。
強面のように見えて、国民が生活について文句を言うと、それを恐れます。

よって、国民がエンジョイしていた消費生活ができなくなるということは、プーチン政権にとって非常に都合が悪いことです。

そのため多少の著作権侵害や並行輸入の問題は積極的に認めて、国民には今までと変わらない生活をしてもらうのが政権の方針です。

外国企業は国民の生活を充実させ、多数の雇用を生み出してきたロシアの消費、経済生活において非常に重要な存在でした。

それが撤退してしまったことで、サービスや雇用の受け皿として、国内企業が何らかの形で続けざるを得ないということだと思います。

ユニクロそっくりは“グレーゾーン”

ユニクロはウクライナ侵攻開始後、事業を一時停止し全店舗の休業を続けているが、その穴を埋めるようにロシア企業が本家の店の跡地でコピー商品を売っている。

こうした行為に問題はないのか。服部教授はケースバイケースだと話す。

――この状態は国際的に問題ない?

モスクワの店ではアップルが撤退した後もiPhoneを売っていますが、これは正規の輸入ではないので、壊れた時の修理の問題などがあります。また、他の国でアクティベイト(通常通り使い始めるための初期設定)した商品を運び入れているので、ユーザーにとって不便であることは間違いないです。

しかしロシア人は知恵を絞っていろいろな方法を探し出すたくましい国民なので、規制や制裁下でも適応していきます。

ユニクロとそっくりな「ジャストクローズ」
ユニクロとそっくりな「ジャストクローズ」

分野によって異なりますが、マクドナルドの場合は、引き継いだ企業がマクドナルドから権利を買い取って営業しているので、違法ではありません。

一方、ユニクロの空き店舗を使用している現地資本のアパレル「ジャストクローズ」は、ロゴや商品が似ているので、国際的に争ったら「違法コピー」と認定される可能性があるグレーゾーンです。

並行輸入に関しては、外国企業の預かり知らないところで売り買いされているので、放置するしかないのが現状です。ロシア的には法律で認めているし、輸出しているのが中国の工場だったりするので、何ともできない現実があります。

ーー静観する海外ブランドがあるのはなぜ?

撤退した外国資本の中には、情勢が落ち着いたらロシア市場に戻りたいという企業もあります。その場合、一時的にロシア側のパートナーにその権利を譲り渡したけど、情勢が変わったら権利を買い戻すパターンもあります。

そう考えると、ロシア側との友好関係を維持したいという思惑もあるので、「コピー商品」でも静観することになるのだと思います。

厳しさを増すロシアを取り巻く環境

ウクライナ情勢の先行きが不透明な中、今後、ロシア経済はどうなっていくのか。

――偽物だらけでも国民は満足?

「選択肢が限られてしまう」とか、「国際的なブランドほどは美味しくない」、「品質が落ちる」ということはあると思いますが、ロシア人にとっては外資が撤退したことで、自分たちのビジネスチャンスといった考え方もあります。

新しい店を作ったり、チェーン店を展開するなどして、ロシアの消費者から選択肢がなくなることはないです。

ダイソンならぬ「ダイショップ」
ダイソンならぬ「ダイショップ」

ーー今後、ロシア経済はどうなる?

ロシアとしては、外資には残ってほしいし、仮に一時期、撤退や休眠しても、情勢が落ち着いたら戻ってきてほしいという思いがあります。

ただ、ロシアを取り巻く国際的な環境は厳しさを増しているので、ロシアとグローバル経済は切り離されていっています。

そうなると、やはりロシア独自の商店やチェーン店に置き換えていかざるを得ないと感じます。