視力が急激に低下する難病「レーベル病」。30代半ばで発症した男性は、視力のほとんどを失って外出もままならなくなるなど生活が一変した。それでも、家族を支えようと新たな一歩を踏み出すことを決意。男性の思いを追った。

自分が視覚障害者になるとは…「毎日が恐怖だった」

白杖(はくじょう)を手に歩くのは、長崎市に住む山下紘史さん(40)。4年前からほとんど目が見えなくなった。

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山下紘史さん:
ここの横断歩道を渡るときが一番怖いですね。遠くの車が見えないので、横断歩道を渡るときも音で判断して、止まったのを確認して渡っているが、最近の車は静かな車も多いので大変

山下さんにとって、信号のない横断歩道を渡ることは命がけ。ほんの数年前まで、自分が視覚障害者になるとは思ってもみなかった。

山下紘史さん:
ふと右目がかゆいと思って右目だけ閉じたら、左目で見たときにテレビの時刻表示が普段見えているのに見えなかったので、おかしいなと思ったのが最初のきっかけだった

病院で検査を受け、医師に告げられた病名は「レーベル遺伝性視神経症」、通称「レーベル病」だった。

たちばなベイクリニック・安倍ひろみ医師:
10~30代の若い方に発症することが多い病気で、急激に視力低下をきたす。視野の中心、見えている範囲でも特に真ん中部分が見えなくなる病気なので、日常生活に困る

患者は国内に約1万人いるとされているが、根本的な治療法はなく、難病に指定されている。

山下紘史さん:
毎日が恐怖だった。いつ見えなくなるんだろうという日々を送っていた

仕事を辞め、家にこもる日々…それでも「前を向くしかない」

発症当時、山下さんは36歳。妻と5歳の娘、小学4年生の息子を養う一家の大黒柱だった。

山下紘史さん:
子どもたちの1日1日の大きくなっていく姿、表情、子どもたちの成長をハッキリ見えないのが一番つらい

両目の視力は半年でみるみる低下し、1.5から0.02になった。仕事中にけがをすることも増え、迷惑をかけまいと、17年間勤めていた植木店を自ら辞めた。

「見えない恐怖」で外出することもできなくなり、約1年、家にこもる日々が続いた。それでも、家族や親戚の支えを受けて一歩踏み出す決意をした。

山下紘史さん:
家族のためにこれから頑張ろうと決めたので、ここで立ち止まるのではなく、なってしまったものは仕方ないので、前向きにいくしかないと思った

妻・山下智美さん(39):
前向きに…前を向いて進むしかないので、振り返らずに、これから先のことを考えてということだけ

仲間と支え合い学ぶ日々「前を向くきっかけに」

西彼杵郡時津町にある、長崎県立盲学校。山下さんは3年前から、ここであん摩マッサージ指圧師の資格取得を目指して勉強している。

山下紘史さん:
あん摩は1対1。色々な方と色々なコミュニケーションを取りながらすることが一番楽しい

長崎市からの利用者:
気持ちよかった。彼が2年生の時から来ている。ずいぶん上手になった。生徒が頑張っているので、応援できればと思っている

テキストを読む時には専用のルーペを使う。カルテを記録する際のパソコンは、文字を入力すると音声で読み上げてくれる。どれも使ったことはなかったが、全て1から習得してきた。

山下紘史さん:
目には頼れないので耳や手の感覚でするしかなくて、何もかもが大変

担任の守山先生は、生まれつき目が見えない。教え子の気持ちに寄り添いながらサポートしている。

担任・守山和喜先生:
山下さんから前向きさ、意欲をいつも感じる。話を聞きながら歩み寄りということで、学習サポートする気持ちで臨んでいる

盲学校では、資格取得のための学習のほかにも、障害者スポーツを学ぶ授業もある。

同級生・福浦ひな子さん(23):
すごく良い方で、年は離れているけれど色々な話を聞いてくれたり一緒に勉強したり、同級生として尊敬できる

3年前、家族を支えるためにと通い始めた盲学校で悩みを共有し、同じ目標に向かって支え合える仲間ができた。

山下紘史さん:
中途で視覚障害になって、本当に人生終わったじゃないけど、絶望だったけれど、ここに来て勉強して資格を取れば、また社会に復帰できる

全国に31万人いるとされる視覚障害者のうち、9割以上が中途視覚障害者だといわれている。一変した生活に絶望を感じたこともあったが、前を向くきっかけを手にした山下さん。新たな目標に向けて、努力の日々を送っている。

山下さんが普段の生活で最も不自由に感じるのが、外出のときだという。

長崎県警察本部によると、チャイムや音声案内がついている「音響型信号機」は県内に395カ所設置されていて、普及率は約17%(2022年度)、全国の平均普及率は12.5%と、長崎県は設置が進んでいる方ではあるが、視覚障害者が安心して外出できる環境が十分に整っているとはいえない。

長崎県警は、県民からの意見や交通状況をみて、できるだけ整備を進めたいとしている。

(テレビ長崎)

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