全国各地にある警察音楽隊。様々なイベントなどで演奏を披露しているが、昔からある当たり前の存在ではなかった。隊員たちはどんな思いで活動を続けているのか、石川県警音楽隊の活動に密着した。

兼務としての警察音楽隊

ある時は観客を魅了し、またある時は故人を弔うために演奏を行う。様々な所でパフォーマンスを行うのが警察音楽隊だ。石川県警察音楽隊の練習は通常、週2日の午前中に行われる。吹奏楽などの経験者だけでなく未経験者も所属し、2023年度の隊員は計26人だ。中には楽器の演奏だけでなく、フラッグパフォーマンスを行うカラーガードという役割の隊員もいる。

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隊員たちに普段はどんな業務を行っているのか聞いてみると「事務補助みたいな警察職員の補助」「交番勤務」「25年パトカーを運転していた。今は鉄道警察隊。この3月で定年退職になる」などと年齢だけでなく警察内での役割もいろいろだ。そもそも音楽隊は警察業務の一環で、現役の警察官や警察職員が所属している。

「堅いイメージを柔らかく」と創設

石川県警音楽隊ができたのは1970年。北陸3県では最も遅い創設だった。音楽隊の立ち上げに尽力したのは当時県警の警察官だった木谷隆さん。過去の取材に対し「警察音楽隊が持っている大きな役割は県民の皆様に警察をより理解していただくこと。制服の堅いイメージを柔かくすること」と音楽隊の意義を語っていた。

木谷さんの思いは今の音楽隊にしっかりと受け継がれ、イベントへの派遣演奏などを通じてその認知度を高めてきた。石川県警音楽隊の小島直樹隊長は「県民の皆様と警察を結ぶ音の架け橋。警察を身近に感じていただけるととても嬉しく思います」と話す。そんな格式ある音楽隊をまとめる金沢市出身の石原幸明隊員(38)は2023年から指揮者を務めている。「警察業務は法律や規定に当てはめていくのですけど、音楽って答えが無い。これが正しい、これが間違っているというものがないので、その辺は本当に難しいですし、揃えるのが大変」と試行錯誤の日々だ。

石原幸明さん
石原幸明さん

子どもの頃から音楽が好きで中・高は吹奏楽部だった石原さん。高校卒業後に警察学校を出て憧れの警察官、そして音楽隊員となった。「警察業務も色々あるが、聞いてる人から拍手をもらえるような部署って多分、音楽隊が一番そういう機会が多い」。

高校時代の石原さん(中央)
高校時代の石原さん(中央)

兼務の音楽隊ならではの難しさ

音楽隊での練習を終え石原さんが向かったのは勤務先、石川県白山市にある松任交番だ。「交番勤務では警らと言いまして管内をパトロールして不審者がいないかという活動や、住宅一軒一軒を回ってどのような人が住んでいるのかという巡回連絡など、いろいろあります。110番が入れば当然現場の方に向かう」。この日は、安全運転を呼びかけるキャンペーン活動や松任駅前に停められた自転車の防犯チェック。更に通報を受けて駆け付けた現場で当事者から話を聞き取り、交通事故の状況を確認した。「被害にあったり事故にあったり、自分がその立場になってみたらどうなのかなって、そういう時に困ってる人の味方になれる仕事がいいなと。小さい頃、交番のお巡りさんをカッコイイなって思ったのが一番です」と石原さんは警察官を志した理由について話す。

通常業務に忙しい隊員たちも、大きなイベント前などは演奏の練習に専念する。この日は年に一度の定期演奏会に向け、講師を務めるプロの音楽家松田浚良さんの指導にも熱が入る。「1個の音そのものに対する集中力を高めてくれたら絶対にもっといい音が出る!」と隊員たちに檄を飛ばした。「警視庁とか大きいところは専務隊なんですが、石川県警は兼務隊で、お廻りさんとか臨時職員とか。他に仕事があるから大変なんですよね。ちょっと音の環境が劣悪なところに派遣されて演奏することが多いんですよ。体育館とかテントの中とかグラウンドとか。色々荒れてしまうんですよね、耳もテクニックも」と松田さんは話し、通常業務と音楽を両立する難しさに理解を示した。

松田淩良さん
松田淩良さん

集大成は年に一度の定期演奏会

定期演奏会の当日。入念なリハーサルと音のチェックを行い、いよいよ本番だ。行進曲「ウェリントン将軍」やYOASOBIの「アイドル」など、一度は聞いたことのあるような様々なジャンルの音楽を演奏していく。

観客も曲に合わせて拍手を送る。この日はお隣、福井県警の音楽隊とのコラボ演奏も行われた。「ジャンボリーミッキー!」と観客が叫ぶとSNSを中心に大人気の曲「ジャンボリミッキー!」で会場は大盛り上がり。衣装や演奏内容を変えながら行った2時間半のコンサートは大成功に終わった。

吹奏楽をしている2人組の観客に感想を聞くと「吹奏楽って女性メインだったりするんですけど、男性が多くてすごく力強さを感じました。私は昔からずっと警察を目指してて音楽隊は憧れています」と話した。タクトを振った石原さんは「みんな一丸となって素晴らしい演奏会になったと思います。音楽の一番の力は人と人を繋ぐこと。業務と言えば業務なんですが、音楽はやらされてやるもんじゃなくて自発的にやるものなので、言ってしまえば生きがいの部分もあるのかな」と改めてやりがいを感じていた。時に楽しく、時に悲しみに寄り添う演奏を届ける警察音楽隊。その姿はこれからも県民と警察を結ぶ音の架け橋となることだろう。

(石川テレビ)

石川テレビ
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