川勝知事の発言をめぐり「多方面に混乱をもたらした」として、県議会の常任委員会が訂正を申し入れたものの、知事はこれを拒否した。なぜ頑なに拒むのか。そこには知事の過去の発言が関係している可能性がある。

不適切発言の後は常に言い訳から

静岡県の川勝平太 知事は人に謝ることが嫌いなのかもしれない。ともすれば、頭を下げたら“負け”とすら思っている節がある。

例えば2019年。県議会の最大会派である自民改革会議の一部の議員を念頭に、川勝知事が他会派に所属する議員の前で「ヤクザがいますからね、ごろつきが」「ヤクザの集団もいますからね。ヤクザもいるじゃないですか。ごろつきがいるじゃないですか」と評した問題では、当初「口に言うのが憚られるような言葉を敢えて言うということはありません」と“発言そのもの”を否定した。

ところが録音データの存在が明らかになると、一転して「怒りに任せて極めて不適切な言葉を発したことに対して衷心より恥じておりまして、猛省しなければならないと思っているところであります」と自らの非を認め「不適切な言葉は二度と使わない」と述べた。

自民改革会議には”文書”で謝罪した(2020年1月)
自民改革会議には”文書”で謝罪した(2020年1月)
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ただ、当の自民改革会議に対しては「すべて撤回し、お詫びします」と“文書”で謝罪しただけだった。

2020年には日本学術会議の任命問題に関連して、菅総理(当時)について「教養のレベルが図らずも露見した」「学問をされた方ではない。単位を取るために大学を出られたのではないかと思います」などと非難。

県には批判が殺到したが、それでもなお「学問に対して本当に大切にしている人かどうかということについて疑問を持った。それで菅総理のこれまでの経歴を見ると学問を本当に大切にしてきた形跡が見られない」と持論を展開した。

最終的には「事実認識が不正確だったということで、その部分は間違いですから撤回する」「学歴差別のようにとられたのは本当に申し訳なく思っている」と謝罪に追い込まれたが、これは自発的ではなく、自民改革会議が「個人に対する誹謗中傷である」として抗議したからに他ならない。

また、2021年10月。参議院議員の補欠選挙で自民党の公認候補が自身と折り合いの悪い元御殿場市長だったことから、川勝知事は御殿場市について「あちらはコシヒカリしかない」「あちらは観光しかありません」と蔑むような発言をしたが、この時も最初は「個人に向けた難詰」「言葉が切り取られた」と強弁していた。

県内外から批判が殺到した”コシヒカリ”発言(2021年10月)
県内外から批判が殺到した”コシヒカリ”発言(2021年10月)

しかし、またしても県内外から批判が寄せられる事態に御殿場市長のもとへと謝罪に赴いた。とはいえ、当の元市長に対して「お目にかかる機会があったら」と直接詫びを入れる考えを示していたものの、2年あまり経った今なお実行されていない。

発言の訂正を求められるも“通常運転”

だからとも言うべきか、今回も川勝知事が簡単に頭を下げることはなかった。自身の発言をめぐり、県議会の総務委員会から訂正を求められた問題だ。

簡単に振り返っておくと、川勝知事は2023年10月、経済界との懇談の席で東アジア文化都市事業に関連して「三島を拠点とした発展的継承センターを置く」「詰めの段階に入っている」などと発言。

川勝知事肝いりの東アジア文化都市事業(2023年5月)
川勝知事肝いりの東アジア文化都市事業(2023年5月)

だが、“発展的継承センター”なる構想は県議会にも知らされておらず、予算化もされていない案件であるため、県議会の総務委員会は発言の真偽や現況について調査し、「何も決まっていないことを『詰めの段階』などとする発言が県議会や県当局はもとより、関係する多方面に混乱をもたらしたことは事実」と結論付けた。

その上で、発言の速やかな訂正と今後は軽率・不用意な発言を慎むよう11月29日に申し入れたが、川勝知事はその場で「訂正するほどのことではない」と突っぱね、さらに12月1日の本会議でも改めて「訂正はしない」と断言した。

総務委員会の正副委員長が申し入れをしたが…(2023年11月)
総務委員会の正副委員長が申し入れをしたが…(2023年11月)

これを受け、県議会は6日の本会議で、議員67人の“総意”として川勝知事に発言を訂正するよう決議する見通しとなっている。つまり、川勝知事と距離を置く議員も、知事を支える議員も関係なく、同じ方向を向いているということだ。

自身の過去の発言に縛られて?

それにしても、川勝知事はなぜこんなにも頑ななのか?

そこには自身の過去の発言が大きく影響していると見る向きが強い。

川勝知事は2023年7月、自らの発言に端を発して県議会で不信任決議案が提出され、可決まであと1票にまで迫られたが、これを受け7月24日の定例記者会見では「不適切な言動等があったら辞めるということになっている」「今度間違うようなことをして人様に迷惑をかければ辞職する」と明言。

定例会見での発言が訂正拒否の遠因に?(2023年7月)
定例会見での発言が訂正拒否の遠因に?(2023年7月)

加えて9月定例会の本会議でも「もし不適切な発言があった場合にはすでに辞職勧告されているため退路を断っている。従って県民に迷惑をかけるようなことになれば辞職することを明言し、その覚悟はできている」と答弁している。

このため訂正に応じてしまえば、自らの過ちを“認めてしまう”ことになるため強硬な姿勢を崩していない、いや崩せないのではないか?というものだ。

口は禍の元と言われるが、“まさに”とも言うべき本件。

重要な県政課題が山積する中で枝葉末節な議論が繰り返される現状に呆れる県民も多い中、川勝知事は己の“言動”が県議会の停滞を招いている自覚はあるのだろうか。

(テレビ静岡)

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