「更生保護」とは、罪を犯した人の自立や更生を支援して再犯を防ぎ、犯罪のない安心な社会を実現するための活動だ。国や民間団体、地域のボランティアなどにより住まいの提供や就労の確保など様々な支援が用意されている。立ち直りを支える人々への取材を通して更生保護のこれからを考える。

“半数近くが再犯”の現実

「前科3犯、強制わいせつ」「窃盗の前科4犯、懲役1年6カ月に処せられていた」。事件の取材をしていると、容疑者が過去にも罪を犯していたと知ることが度々ある。私たちは、事件と直接の関係がない場合などに、前科前歴を報道することはない。しかし、なぜ再び罪を犯してしまうのか。この疑問について改めて考え直してみたい。

金沢刑務所
金沢刑務所
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刑務所を出所した後、再び罪を犯して刑務所に入る人の割合は、2年以内で16.9%、5年以内で37.2%、10年以内になると44.7%と半数近くに上る。罪を償って刑務所を出た人たちが、なぜ再び罪を犯してしまうのだろうか。

再犯を防ぐための支援制度

仮釈放になった人や執行猶予となり保護観察の対象となった人などを最初に支援する国の機関、金沢保護観察所を訪れた。上岡靖之所長は「様々な環境的な問題もあれば、人の心の中の問題、いろんな問題によってまた刑務所に戻ってきてしまう現状があると思います」と話す。

金沢保護観察所 上岡靖之所長
金沢保護観察所 上岡靖之所長

再犯をしてしまう理由は人によって様々あるようだ。「仕事がうまくいかないとか、障害ゆえに福祉制度につながらないとか、本人が心の中で抱えている問題が解消されないがゆえに依存を繰り返して薬物やアルコールがやめられないとか」。こうした問題を解決するため、犯罪をした人の就労を支援する制度や、薬物依存などの人を対象にした専門のプログラムなど、様々な支援の仕組みが整えられている。

地域の更生保護施設

石川県金沢市宝町にあるのは、県内唯一の更生保護施設「親和寮」だ。円山正三所長は「この施設は刑務所を出所した方、起訴猶予という処分を受けた方などその後頼れる人がいない、帰る場所がない人に入所してもらって社会復帰を支援する施設です」と紹介する。

親和寮 円山正三所長
親和寮 円山正三所長

実は、再犯をして刑務所に入る人の約2割が決まった住居を持たない「住居不定」の状態となっている。こうした行き場のない人たちを支援するのが更生保護施設だ。国から委託を受けて宿泊場所や食事を無料で提供したり、自立に向けた指導を行ったりしている。「入所したから次再犯しないのかというと絶対とは言えない。1人でも減らすためにここで生活してもらって、今後の生活を考えて実践していく場所としてもらえばいい」。

親和寮(石川県金沢市)
親和寮(石川県金沢市)

親和寮は明治時代の1899年に創設され、これまでに少なくとものべ2000人以上の立ち直りを支えてきた。入居可能人数20人に対して、取材時は10代から70代までの14人が生活していた。2022年、老朽化のため約50年ぶりに建て替えた際には、明るく開放的な空間になるよう意識したそうだ。

一方、居室に入ると机に対して窓が斜めに備えられていた。「斜めでしょ、これ真っすぐにしたら見えてしまう。地域住民の方への配慮でもあるし、入所者への配慮でもあります」と円山所長は説明する。罪を犯した人を支える場所には、地域に受け入れてもらうために配慮が必要なのも現実なのだ。「人は相談相手がいないときに投げやりになってしまう。どうでもいいわと。本当は刑務所に戻りたいと思っていないと思うけど、少しでも再犯を食い止めることができれば、この施設の意義も十分にあると思う」。

法改正で支援の対象が拡大

様々な支援制度が整っているのに、再犯をしてしまう人が多いのはなぜなのか。金沢保護観察所の上岡所長は「大体仮釈放だと数カ月、執行猶予だと5年未満。その後は法定期間がなくなる。援助を求めてもなかなかどこも関わることができず、再犯に至ることはあると思います」と指摘する。2023年11月時点で、保護観察所が支援できるのは仮釈放などで保護観察期間中の人や、本人からの申し出を受けて原則6カ月間の更生緊急保護の対象となっている人のみだった。その期間が終わると手を差し伸べたくても差し伸べられない現状があったのだ。

こうした中、この課題を解決するための法改正が行われた。「刑法の一部改正に合わせて更生保護法も12月から変わるんですけれども、法定期間が終わって手の及ばない範囲まで息の長い社会復帰支援をしようというのが、改正更生保護法の目的ということになります」と上岡所長は説明する。法改正の目的は「再犯防止」により力を入れること。2023年12月から保護観察などの法定期間を終えた人にも支援ができるようになる。

国を挙げて「再犯防止」に取り組む流れの中で、更生保護のあり方も変わろうとしている。11月6日、石川県白山市で集まっていたのは保護司の人たちだ。保護司は地域のボランティアで、犯罪をした人と定期的に面接するなどして立ち直りを支援している。この日は、今回の法改正によって罪を犯した人の求めに応じて支援の裁量が増えることについて、保護観察官から説明を受けた。保護司からは「本来はしなくてよかったことをしていかんなんってことやよね、難しいよね…」と戸惑いの声も聞かれた。

法改正について話し合う保護司と保護観察官
法改正について話し合う保護司と保護観察官

これに対して保護観察官は「本人が求めているのに何もしないというのはどうなのか、そういう人に対して援助できる体制もとっておかないといけないのでは、ということで関わってほしい人には必要かつ相当な限度で関わっていく。それが再犯防止という意味では必要なこと」と語りかけた。

息の長い支援を実現するため、これからは地域全体のネットワークを築き、関係機関がより一層連携して更生保護に取り組んでいくことが求められる。保護司の一人は「再犯する人は相談する人がいないからひとりぼっちになっている。だからまぁいいか…ってなっていると思います。これから動いていかないと犯罪も減らないし、社会も明るくならないと思います」と話した。金沢保護観察所の上岡所長は「なぜ加害者を助けるのかと我々や保護司さんが非難されることもあるが、加害者を助けることで再犯をさせない。そのことによって次の犯罪被害者を出さないという意味があると思うので、まずは社会の中で受け入れていろんなケアを提供することが必要だと思います」と強調した。一度罪を犯した人が再び犯罪に手を染めないために、何ができるのか。社会全体で考える必要がある。

(石川テレビ)

石川テレビ
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