北朝鮮が人工衛星を打ち上げると予告した。なぜ衛星の発射にこだわるのか。 そして、北朝鮮の金正恩総書記は10月19日、ロシアのラブロフ外相と会談してから、現在まで32日間も姿を見せていない。これは過去2番目の長さだ。なぜ、姿を見せないのだろうか。龍谷大学の李 相哲(り そうてつ)教授に聞いた。

※放送は11月21日

北朝鮮の"人工衛星" 今度は成功か…

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11月22日以降に衛星を発射する可能性があるということだが、なぜ北朝鮮は衛星の発射にこだわっているのか。 北朝鮮は2023年の5月31日と8月24日に衛星を発射し、いずれも失敗している。韓国側の見立てによると、エンジンに問題があったのではないかということだ。

ここまで発射にこだわっているのは、この衛星は「軍事偵察衛星」で、これを打ち上げることによって日米韓にとって脅威になるからだということだ。北朝鮮にとって3度目の挑戦となる、今回の衛星発射。北朝鮮は何としても成功させたいと考えているのだろうか。

龍谷大学 李相哲教授:
そうですね。今回ばかりは失敗は許されない。経済が大変な状況の中で、何をやっているんだという声が高まっている。そんな中で衛星を発射するということで、今回まで失敗したら説明がつきません。それから、そもそも軍事偵察衛星を持つということは、核保有国にとっては必須条件なんです。今までは“目を持たない状態”でミサイルを打ったりしていましたが、もし彼らが軍事偵察衛星を打ち上げると“目を持つ”事になりますから、日米韓にとってはかなり脅威になることは間違いないですね。

これまでも日米韓に攻撃を仕掛けるような様相もあったが、この衛星発射が成功すればさらに脅威が高まると考えて良いのだろうか。

李教授:
そうですね。衛星を持つと、アメリカの空母が今どこにいるのか、自分たちが打った弾道ミサイルがどこに正確に命中したのかということだけではなく、韓国軍やアメリカ軍が一緒に訓練をする様子や、そういった軍の配置とかを見ることができるんです。ですから、北朝鮮にとっては是非とも必要なんです。

ロシアの協力のもと体制強化か

そんな中、今回の衛星は前回と異なる点がある。それはロシアの助けがあるのではないかということだ。 ロシアの助けで、エンジンと偵察能力の技術が向上するのではないかと見られている。なぜ、ロシアは北朝鮮の軍事偵察衛星の発射に協力しだしたのだろうか。

李教授:
北朝鮮がロシアに武器や弾薬を供給していることは周知の事実ですが、それと引き換えということでしょうか。金正恩総書記がロシアを訪問して、宇宙センターを訪問しましたよね。その大きな目的はやっぱり自分たちの失敗を挽回して、衛星発射を成功させたいということ。その要求にプーチン大統領が答えたということになります。ですから今回はロシアから技術者が派遣されたという情報もあります。今まではエンジントラブルで失敗していますが、エンジンの欠陥を点検して補うのではないか。また、前回彼らが発射した万里鏡1号という軍事偵察衛星は性能があまり良くありません。具体的には、見ることができるのは、前回のものは5メートルから10メートルまでのもの。しかし今回はロシアの助けによって、1メートル以下の目標を識別できるのではないかということです。

今回は性能が上がって、これまでより打ち上げの成功率が高くなるということだろうか。

李教授:今回はいろいろな意味で万全を期しているため、成功確率は高いとみていいと思います。(発射のタイミングは)明日、打ち上げてもおかしくないです。北朝鮮が衛星発射を急ぐ理由としては、11月30日に韓国が初の軍事偵察衛星をアメリカで打ち上げます。それより先に打ち上げたいと。北朝鮮が韓国より先に軍事偵察衛星を打ったということを自慢したいんでしょうね。

あとは天候次第ということだろうか?

李教授:おっしゃる通りです。準備が整っている。政治的に大きな日程があるわけでもないので、天候や気象状況が一番いい時間帯を選んで打つと思います。準備は整っているので、明日から要警戒ですね。

これまでとは異なる反応を見せた韓国

もし発射が成功したとすると、日本の軍事施設も監視対象となっていくので、警戒を強めなくてはならない。また、打ち上げが失敗すると、日本の近海に落下する可能性もゼロではない。そんな中、日本では次のような対策が取られている。

弾道ミサイルが発射された時に発動する警報システム「Jアラート」。これが2023年9月から仕様変更になった。以前はあらかじめ場所を絞り込んで警報を出し、さらに追加の警報も出していた。しかし、今回の変更によって、あらかじめ広い範囲で警報を出すことで、その分、警報が出るタイミングが1分程度早くなるということだ。この変更によって早期の避難につながっていくと考えられている。

その他にも、日本では岸田首相が衛星の発射の予告について非難、発射中止を求める考えを強調した。

一方、韓国はどのような反応をしたのだろうか。 韓国軍は「北朝鮮が発射を強行すれば必要な措置をとる」と厳重に警告した。韓国がこのような反応を見せることは異例だ。

李教授:異例ですね。今回韓国が敏感に反応している理由は二つあります。一つは、今回北朝鮮はロシアの軍事技術を利用する。これによって北朝鮮の軍事力が向上するのは間違いありません。もう一つは、北朝鮮の軍事偵察衛星の打ち上げはICBM打ち上げの技術と全く同じなんです。これは国連の制裁決議に違反するだけでなく、2018年9月19日に南北の間で締結した軍事協定にも違反するものです。軍事境界線沿いでは、お互いに偵察活動や挑発行為、訓練もしないという約束だったんです。これは韓国に非常に不利な協定で、今までは北朝鮮が韓国に挑発してきましたよね。その動向を韓国が察知する必要がありましたが、偵察をやめた。それを今回もし北朝鮮が軍事偵察衛星を打ち上げれば、その約束の一部を見直すと。偵察活動や訓練を韓国も再開するということになります。

最悪のケースを想定すると、韓国と北朝鮮が軍事衝突するリスクもあるのだろうか?

李教授:北朝鮮にはそんな体力はないですよね。1%もないというわけではありませんが、可能性としては低い。ただ、北朝鮮は最近中距離弾道ミサイルの固体燃料の実験に成功していますので、それを発射したり、韓国に挑発してくる可能性は十分に考えられます。

32日間姿を見せていない金正恩総書記 健康上の問題か

金正恩総書記について、気になる点がある。「金正恩総書記は弱っているのではないか?」と李教授。これまで金総書記が人前に姿を見せなかった空白期間の最長は、2014年の39日間だ。その後、姿を見せた時は松葉杖をついていた。 今回は32日間姿を見せていないが、持病の糖尿病が悪化している、また、新型コロナの後遺症に苦しんでいる可能性もあるということだ。

李教授:
弱っているのは間違いありません。昨年の行動を見ると、大体1週間くらい働いて、3週間くらい休むというパターンが続いています。特に、2023年に入ってから1カ月以上姿を消した回数は6回以上にのぼります。それは彼が自分の権威を示したり、神秘的なイメージを演出するためと考えると、今の北朝鮮の状況を考えるとその必要もないし、そのような余裕もない。ですから、やはり健康上の問題だと思われます。昨年、平壌でコロナが大流行した際に、金総書記の妹の金与正氏が“金総書記は高熱の中でも休まなかった”という情報をメディアに公開しました。北朝鮮ではコロナのことを“高熱”というので、コロナに罹っていたのは間違いありません。糖尿病の持病があるので、コロナの後遺症は無視できないのではないでしょうか。もし、衛星を発射する時に彼が現れるのか、どんな姿なのか、注目ポイントですね。彼の健康状態は北朝鮮の健康状態です。彼が倒れれば、北朝鮮も倒れると見て良いのではないでしょうか。

北朝鮮は人工衛星を本当に打ち上げるのか。しばらくは警戒が必要だ。

(関西テレビ「newsランナー」 2023年11月21日放送)

関西テレビ
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