岸田首相が「歴史的」だと強調する日米韓首脳会談が、18日夜に行われた。これから先、この会談を“定例化”させる方針で、今回の会談は歴史的な機会になりそうだ。

ここには韓国のどんな思惑があるのか?日韓関係が悪化した時に、連携を反故にするような行為をしてこないのかなど気になる点について、韓国情勢に詳しい龍谷大学の李相哲教授に聞いた。 

“中国との経済関係”が弱体化し 韓国が中国との関係を見直し?

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韓国と日本の距離が近くなるのは良いことだが、韓国は3カ国関係についてどう思っているのか、“韓国目線”で見ていく。注目すべきは8月15日、韓国の「解放記念日」に尹大統領が「日本はパートナーであり、日本にある米軍基地が北朝鮮の動きを抑えている」と発言したことだ。

Q.この発言にはどんな意味があるのか?

龍谷大学・李相哲教授:
これは極めて異例な発言です。安全保障の上でも経済関係においても、日本はパートナーであり「大事な国だ」と言っているんですね。歴代の韓国大統領は、解放記念日には必ず(日韓の過去の)歴史に触れてきましたけれども、尹大統領は今回そこには触れていません。本当に異例ずくめと言っていいでしょう

さらに韓国では、“米韓”の関係そして中国との関係にも変化が出てきていて、「安米経中の変化」ということだ。

Q.「安」は安全保障、「経」は経済のことを指していて、安全保障はアメリカ、経済は中国を頼っていた。それが安全保障だけでなく、経済的にも韓中の関係が弱くなっている。韓国にとって中国は貿易相手国として大きな存在だと思うが、その中国との関係を見直しているということか?

龍谷大学・李相哲教授:
すでに見直しは始まっています。3年前まで対外輸出額の25%超が中国。それが2023年の上半期には19%台にまで下がっています、かなり大きな変化です。それから韓国企業のアメリカへの投資も増えています。韓国は価値観を共有する国との連携を強めたい、その中で「経済もやっぱりアメリカなんだ」という風になっているんですね

Q.韓国の思惑は分かったが、日本もそこに乗りたいということなのか?

関西テレビ 神崎博デスク:
日本外交の課題といいましょうか…日韓関係はずっと悪かったですよね。悪化が続いていた中で、韓国に尹大統領が登場しました。日本に対して歩み寄りをしてくれる大統領が現れた中で、 岸田首相としてもここは、アメリカも含めた3カ国の関係を密にしていきたいところでしょう。岸田首相は長く外務大臣を務めていましたので、“外交の岸田”という自負があると思います。ここでポイントを稼いで、低迷している支持率をなんとかアップさせたいという思いもあるのだと思います

首脳会談で「3カ国ホットライン設置」および会談の“毎年開催”が決まるか…

日本と韓国、そしてアメリカの3カ国による首脳会談、この会談で何が決まるか注目されているのが、緊急時に各首脳が連絡を取り合うための「3カ国間ホットライン」の設置だ。

Q.このホットラインはどんな意味を持つのか?

龍谷大学・李相哲教授:
ひと言でいうと専用回線です、電話です。24時間すぐに連絡が取れるようにします。これは特に有事・戦時の状態にすごく大切なものとなる。(Q.台湾有事などの際に?) そうです、その時に朝鮮半島にも有事が生じないとは限りませんので、ホットラインはかなり必要になるでしょう

Q.また、こんなことも決まるのではないかと言われていて、3カ国首脳会談の“定例”開催だ。首脳会談を毎年、開催することが決まると言われている。「毎年開催」これはどう思われますか?

龍谷大学・李相哲教授:
今回、3首脳が集まり会談するのは初めてです。国際会議で顔を合わせることはあっても、わざわざ3人が会談のために集うのは初めて。注目すべき点は2つあります。首脳だけではなく、外務大臣同士・国防大臣同士・安保室長同士といった階層レベルでも会談を続けていくことになること。 そしてもう1つは、この先に政権が変わっても後戻りせずに続けます…と強調している点です

より一層、結びつきを強めていこうということ。

Q.今回の3カ国首脳会談の主催者はアメリカのバイデン大統領ですが、熱意のほどはいかがでしょうか?

関西テレビ 神崎博デスク:
非常に意気込みを感じます。それが分かるのが開催場所“キャンプデービット”です。ここはアメリカ大統領専用の山荘で、過去には、米・ソの首脳会談が行われたこともある特別な場所。日本だと小泉元首相が、ブッシュ元大統領とここでキャッチボールをして、日米関係の良さの象徴のように報じられたこともあります。この山荘に招くというのは特別な意味を持ちますし、バイデン大統領は気合が入っていると思います

政権交代で韓国側が「心変わり」する懸念は?

おもてなしをする気持ちがより強いということなのか。 ただ、気になるのはこの枠組みが本当に続くのかという点だ。韓国の政権が変わっても大丈夫なのか。日米韓3人の首脳の最近の支持率は、バイデン大統領40%、岸田総理41.3%、尹大統領32%となっている。

Q.韓国は政権が変わる度に日韓関係も変化してきた。反日感情をあおって支持率を上げようとする動きも過去にはあったと思うが、仮に政権交代をした場合、それでも3カ国首脳会談は続いていくのでしょうか?

龍谷大学・李相哲教授:
この枠組みは政権が変わっても続きます。大きな点を2つあげるとするならば、1つは韓国のGDPです。1人あたりGDPは日本を追い越す勢いがあります。日本と対等になりますから、昔のようにひがんだり、へそを曲げたりとか、そういうことはしないと思います。それから今、韓国から日本にたくさん旅行客が来ています。多い時は年間700万人以上です。その人たちは直接日本を見て、自らSNSで発信するんですね。ですから韓国の人々はいま、自分で必要な情報を、政府が出してる情報ではなくて、自分で得ている。そういう風にして日本を理解するので、ますます日本への理解が深まるでしょう。両国の国民同士は仲が良いですからね。ですから、この3カ国首脳会談の枠組みは(今後政権が変わっても)そんなに大きな変化はないのではと見ています

Q.日本にとって尹大統領は、いい意味で信念を持って突き進むところがあるので、このまま突き進んでほしいと思うのですが、気になるのは2024年4月に韓国で行われる総選挙です。尹大統領も当然、与党で過半数を取りたいと思うと、今の支持率は低い。「日本の肩を持ち過ぎではないか」という国内の声を意識せざるを得ないのではないか…という心配があります。この点はいかがでしょうか?

龍谷大学・李相哲教授:
尹大統領の支持率は、日本と仲良くしたり岸田首相と会った時も下がりません。今の尹大統領の支持率は、日本との関係が大きな要因になっている訳ではありません。しかも今、尹大統領の支持率はじわじわと上がっています。今日時点では38%になっていて、上がってきているんですね。ですから、これから韓国国民も日本が大事なパートナーであり、演説で尹大統領が言っていたように、有事の際には日本が1番大事な後方基地にもなります。そういうことも浸透していって、韓国の国民も日本の大切が分かっていくという風に私は確信しています

会談に対し不穏な動きを見せる北朝鮮

今回の3カ国会談を受け、北朝鮮が不穏な動きを見せている。北朝鮮がICBM(=大陸間弾道ミサイル)を発射する兆候があるということだが、李さんは今週末にも、北朝鮮がミサイルを発射する可能性があるとしつつ、9月9日の北朝鮮の建国記念日までには何かしらの動きがあるのではないか…と見ている。

背景には今回の3カ国首脳会談もあるが、8月21日から始まる「米韓合同軍事演習」も要素の1つではないかということだ。

龍谷大学・李相哲教授:
北朝鮮はいつも米韓合同軍事演習には激しく反発します。日米間3カ国首脳会談をにらんでICBMを発射する可能性ありますが、「みんなが発射するだろう」という今のタイミングでミサイル発射しても効果は大きくありません。なので米韓合同軍事演習をにらんでやってくるでしょう。あとは建国75周年にあたる9月9日前後で、軍事偵察衛星の発射などをしてくるかもしれません

ここで、視聴者から届いた質問を紹介する。

Q.日米間の連携で「拉致問題」解決の見通しは?

龍谷大学・李相哲教授:
拉致問題は北朝鮮の態度にかかっています、金正恩の態度次第です。3カ国首脳会談で「拉致問題を全面的に支援する」としているので弾みはつくでしょうが、大きく状況が変わるということは残念ながらないと思います

(関西テレビ「newsランナー」8月18日放送)

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