静岡県で橋の名前を記した板、神社の屋根、送電線の盗難が相次いだ。特に橋名板は深刻で9市町で249枚の盗難が確認されている。被害品はいずれも銅や銅を含む金属だ。銅の価格はこのところ高騰していて、背景には世界中で進む自動車のEV(電気自動車)化があるという。

橋名板が9市町で249枚盗難

橋名板が盗まれた橋(島田市)
橋名板が盗まれた橋(島田市)
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静岡県では2023年に入り、橋の名前を記した橋名板が盗まれる被害が相次いでいる。
10月19日 島田市は14カ所の橋であわせて49枚の橋名板が盗まれていたことを明らかにした。橋名板は銅に亜鉛を混ぜた真ちゅう製で、被害総額は約245万円だ。

島田市すぐやる課・田村登央係長は「『しろやまはし』という橋で地元の方になじんでいる名前なので、とてもさみしい思いがあります」と残念がる。

橋名板盗難を説明する田村係長
橋名板盗難を説明する田村係長

島田市すぐやる課・田村登央 係長:
人気のない所といっても近くに民家があり通行人がいますので、そういった中でなくなっていることを考えますと、(犯行が)大胆になってきていると思います

橋名板が盗まれる被害は、島田市に隣接する藤枝市や牧之原市といった県中部の他に、県西部の浜松市や湖西市などでも相次いでいる。2023年10月末までに確認されているだけで、9市町249枚だ。

橋名板が盗まれた橋(静岡県)
橋名板が盗まれた橋(静岡県)

特に浜松市では2022年から2023年にかけて54カ所で183枚 約915万円相当の被害が確認されている。いずれの橋名板も銅に亜鉛を混ぜた真ちゅう製とみられている。

神社の屋根や送電線も被害

盗まれる前の小坂熊野神社の屋根
盗まれる前の小坂熊野神社の屋根

盗まれたのは橋名板だけではない。静岡市駿河区にある小坂熊野神社では10月に入り、本殿にある銅板の屋根がはがされているのが見つかった。

銅板がはがされた屋根
銅板がはがされた屋根

神社の糟屋訓敏 総代は「神様の社の屋根をはがすなんてことは考えられませんよね」と、まさに“神をも恐れぬ犯行”に驚く。

被害状況を説明する糟屋さん
被害状況を説明する糟屋さん

被害は本殿だけではなかった。入り口付近にある天満宮の壁全体と屋根の銅板もはがされて盗まれていた。柱を囲った銅板も一部がはがされていて、途中であきらめたようだ。被害総額は100万円を超える。

敷地内の天満宮も被害に
敷地内の天満宮も被害に

小坂熊野神社・糟屋訓敏 総代:
残念ですね、今までずっと先人から引き継いでお祀りしてきたところですのでね

近くの神社でも屋根の銅板が盗まれていて、警察は11月16日に東京都出身で住所不定・無職の男(51)を、銅板 約80枚 50万円を盗んだ疑いで逮捕した。余罪を調べている。

茶畑の防霜ファンの送電線も盗まれる(掛川市)
茶畑の防霜ファンの送電線も盗まれる(掛川市)

この他、掛川市の茶園では7月に、霜を防ぐファンの銅製の送電線が盗まれているのが見つかっている。
橋名板、神社の屋根、送電線。被害にあったものは、いずれも銅や銅を含む金属だ。

銅価格は約20年前の約4倍

盗難が相次ぐ理由として考えられるのが、銅の価格高騰だ。

買い取り業者に持ち込まれた銅板(静岡市)
買い取り業者に持ち込まれた銅板(静岡市)

静岡市駿河区で銅やアルミなどを買い取る業者を取材すると、ちょうど神社の屋根に使う銅板が持ち込まれていた。盗品ではない。業者によると、銅板は釘で固定してあるだけなので、人の力で容易にはぎ取れるという。銅の価格は4年ほど前と比べ約2倍に高騰していて、神社の屋根に使われる銅板などは1kg800円から900円で取引されているそうだ(2023年10月時点)。

坂部商事・瓜田直広 工場長は「コロナ前より銅の需要が上がって値段が2倍くらい高騰し、それで盗難が増えているのでは」としたうえで、高騰の背景について「自動車のEV(電気自動車)化が進むなかで、EV車は銅をかなり使うので世界的に銅の需要が上がっているのでは」と指摘する。

一般社団法人 日本電線工業会によると、国内の銅1トンあたりの価格は2016年度が60万円だったのが、2022年度は120万円と2倍になっている。

銅製品
銅製品

さらに長いスパンでみると、高騰ぶりが際立つ。
株式会社 日本電動化研究所の和田憲一郎代表取締役によると、銅の価格は2004年が1トンあたり2000USドルだったものが、2023年11月16日現在は7937USドル(1ドル150円換算で約119万円)と約4倍に高騰しているという。和田代表取締役は「特に電気自動車の普及が始まった2019年ごろから一段と高くなっている。今後は電気自動車ならびに充電器の需要も相まって、さらに高くなることが予想される」と話す。

EV車に多くの銅が必要はワケ

電気自動車
電気自動車

なぜ電気自動車だと必要な銅の量が増えるのだろうか。
和田代表取締役は「電気自動車の場合、モーター・バッテリーのバスバー(電極)・高電圧配線など銅を用いた部品が多い。銅を多用する理由は、銀の次に電気伝導率が高く かつ熱伝導率も高いので、多くの電流を流す部品に使用される。一般的に銅の使用量は内燃機関車(ガソリン車など)が23kg/台であるのに比べ、電気自動車は89kg/台と3~4倍多く使用されている。さらに銅の需要を高めているのが充電器で、一般的に銅の使用量は普通充電器0.7kg/基に対し、急速充電器8kg/基と言われており、急速充電器が増加するほど、銅の需要が増加する」と解説する。

業者「盗難品の見分けは難しい」

金属の買い取り業者
金属の買い取り業者

ところで買い取りの際に、盗難品かどうか見分けるのは難しいのだろうか。業者は「買い取りの際に名前や住所などの個人情報を提示してもらっているが、確実に見分けるのは難しい」と話す。

坂部商事・瓜田直広 工場長:
(銅製品を持ち込む人が)業者だったらトラックや車などに社名が書いてあるので(盗難品ではないと)わかりますが、乗用車で来る一般の方は盗難品かどうかわからない

橋名板の場合も、「作業着を着て持ってこられると、県の入札や工事で不要になったものもあったりするので、橋名板を持ってきたからといって全てが盗難品かどうかはわかりかねる」と話す。

ネジとボルトを溶接して盗難対策
ネジとボルトを溶接して盗難対策

藤枝市や島田市は橋名板の裏側に飛び出たネジと止めるボルトを溶接で固定するなど、盗難防止対策を講じている。しかし他市では溶接した橋名板も盗まれていて、島田市は橋名板をすべて撤去することも検討している。

橋名板が盗まれた橋
橋名板が盗まれた橋

橋の名前が地元の歴史に知るきっかけになることもある橋名板。それに地域の人たちが慕う神社の屋根。ふだん見慣れた街の風景が荒らされるのは悲しむべきことだ。盗難品は最先端技術の普及のために使われてしまったのだろうか。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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