「ユダヤ人に対する寛容の消費期限が切れた」
イスラエルのニュースサイト「オール・イスラエル・ニューズ」に4日、こんな見出しの論評記事が掲載された。
The shelf life of Jewish tolerance has expired.#Opinionhttps://t.co/ekCOnWT21i
— All Israel News (@all_israel_news) November 4, 2023
筆者は、イスラエルの教育者で作家でもある、クッキー・シュウェバー・イッサンさん。イッサンさんは、今回ハマスが殺人やレイプ、斬首、家族全員の虐殺など「ホロコースト以来ユダヤ人に対して最も凶悪な攻撃」を行ったのに、世界の同情がイスラエルではなく、ハマスやパレスチナ人に集まるのは考えられないと疑問を呈す。
その上でイッサンさんはこう考える。
この記事の画像(4枚)「1948年にイスラエルが建国されて以来公然と『反ユダヤ主義(antisemitism)』を表明するのは『流行らないこと』とみなされてきたのに、ここへきてパレスチナ支持の大規模なデモが世界中で広がっているのは、長年封印されてきたイスラエルのみならずユダヤ人に対する憎悪の念が、今、一気に吐き出されていると考えざるを得ない」
つまり、ユダヤ人に対してはもともとその存在までも否定する「反ユダヤ主義」の考えがあったが、主に西欧の人たちはホロコーストの大虐殺に対する人類全体の贖罪の意味からも、それを封印してユダヤ人に寛容に接してきた。しかし、今回はその封印が破れて、本来の「反ユダヤ主義」が解放され広がったとイッサンさんは考え、それを「寛容の消費期限(shelf life)が切れた」と表現しているのだ。
この「消費期限」という表現には含みがある。売り物の卵がたなざらしになって変質し、食に値しなくなり「期限切れ」になったように、「反ユダヤ主義」の封印も年月を経てほころびが生じて破れたもので、必ずしも今回の戦争のイスラエルの軍事行動で憎悪の念がいっきに高まったわけではないことになるからだ。
ではその「期限」が切れるまではどれほどの年月がかかったのだろうか?
イッサンさんは「反ユダヤ主義」が流行らなくなったのはイスラエル建国以来としたが、それなら77年だ。
また「反ユダヤ主義」を封印したきっかけがホロコーストだったとすると、その悲劇を世界に知らせた本「アンネの日記」の初版発行から既に76年が経っている。
長年の月日を経てイスラエル建国の経緯やユダヤ人大虐殺は、歴史書の中の話になってしまったのかもしれない。
若い世代で高まる“イスラエル批判”
2日に公表された米クイニピアック大学の世論調査によると、今回の戦争について「イスラエルを支持する」という回答は50歳以上では58%に上ったのに対して、18歳~34歳の回答者では32%に過ぎなかった。
今回の戦争をめぐってまずイスラエル批判の声を上げたのも、ハーバード大学の学生31団体の共同声明だった。
若い世代の間でイスラエルへの批判が高まっているのは、いわゆるZ世代(1996年~2012年生まれ)は幼少時からインターネットを利用していて、既存の価値観に批判的だからだとも言われる。加えて、やはりホロコーストから70年余経って贖罪の念を実感しなくなったこともあるのではないか。
一方、イスラエル側は「寛容の消費期限」が切れた後どう反応すべきなのか、イッサンさんは最後にこう提言する。
「今後ユダヤ人は彼らの友人が少なくなることを覚悟しなければならない。そして、ユダヤ人を『選ばれた民』と選別し、彼らが2000年間世界の四隅に離れ離れになっていても神の国として守ってくれた神に、これまで以上に頼らなけれならないのだ。
しかしそんな友人がいるのであれば、ユダヤ人は他に何も必要としないだろう!」
イスラエルは「唯我独尊」の道を歩むことになるのだろうか?
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】
(続報)
前回(11月6日)のコラムで「米国議会でただ一人のパレスチナ系議員ラシーダ・タリーブ下院議員(民主党、ミシガン州)がイスラエルへの攻撃的言動で問責にかけられたものの、共和党からの大量造反で不問に」と伝えたが、7日共和党から再度問責案が提案されると今度は友党民主党側から22人が賛成に回り、213対208票で、タリーブ議員は問責された。