韓流を代表する人気ガールズグループNewJeans(ニュージーンズ)が韓国社会で逆風にさらされている。
「育ての親」で、所属事務所ADOR(アドア)代表だったミン・ヒジン氏と大手芸能事務所「HYBE(ハイブ)」の葛藤に引きずられるように、K-POP業界の「しきたり」に一石を投じたものの、それがかえって世論の反発を招いている。
「司法軽視?」世論の反発
NewJeansは所属事務所ADOR(アドア)との専属契約の解除を宣言し、独自活動を目指していた。
しかし、ADOR側は2025年1月、ソウルの裁判所に対し「所属事務所の地位保全および広告契約締結禁止」の仮処分を申請。メンバー5人がマネジメント会社を通さずに新たな活動をしたり、独自に広告契約を結ぶことを禁止するよう求めた。2月には新曲のリリースや海外公演の差し止め要求も追加した。

ソウル中央地裁は最近、所属会社の主張を全面的に認め、NewJeansは法的に活動を制限される事態となった。
裁判所の決定を受け、NewJeans側は米タイム誌に独占インタビューの形で声明を発表した。
「これまで私たちが経験してきたことに比べれば、これは旅路の一歩にすぎません。今の韓国の現実かもしれませんが、だからこそ変化と成長が必要だと信じています。まるで、韓国が私たちを革命家に仕立てようとしているように感じます」
22日に公開されたインタビューで5人は、裁判所の決定に「失望した」と異議を唱え、K-POP業界が簡単に変わるとは思っていないと述べた。

だが、このインタビューは韓国内でNewJeansへの反発や批判を招く結果となった。NewJeansはこれまで巨大資本「HYBE」に対抗し、表現や活動の自由を求める「アーティスト」という立場を取り、世論を味方につけるのに成功していた。
今回、NewJeansにとって誤算とも言える展開となったのはなぜなのか?
政治情勢と関連する二つの「NG」
NewJeansの発言にあった「司法への不満」「革命家」の二つが、韓国の政治情勢と密接に関連しているためだ。
韓国は尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾裁判という政治的に重要な局面を迎え、憲法裁判所の判断に注目が集まっている。だが、世論は弾劾賛成・反対に二分されており、司法がどのような結論を出すにせよ、一方が不満を持つことは避けられない状況だ。

この状況で最終的には司法判断に従うという社会の原則が否定された場合、社会的混乱に収拾がつかなくなる恐れがある。
こうした中で若者層に影響力のあるNewJeansが司法軽視とも受け止められる対応をすれば、司法判断に従わないとの風潮が社会全体に広がりかねない。法曹界を中心にNewJeans批判が提起されているのもそのためだ。
韓国に居場所がなくなる?
インタビューで使われた「革命家(revolutionaries)」という表現も問題視された。
尹大統領は戒厳令発令にあたり「北朝鮮の共産勢力の脅威」と「従北(北朝鮮追随)勢力」から国を守ることを理由に挙げた。また、2024年4月の国会議員選挙は北朝鮮や中国が介入した「不正選挙」だとも主張してきた。

このため、尹大統領支持派の集会では「CCP(中国共産党) OUT」や「(最大野党「共に民主党」代表の)李在明(イ・ジェミョン)はパルゲンイ(共産主義者)」といったスローガンが掲げられている。

NewJeans側にはそこまでの政治的意図はなかったかもしれない。だが、「革命家」という言葉は韓国では革新勢力と結びつきやすい。政治的発言として捉える人も少なくなく、アイドルの発言としてふさわしくない、との批判につながった。
さらに、インタビューの場として海外メディアを選択したことも裏目に出た。
所属会社のADOR、親会社のHYBEとNewJeansの対立に留まっている間は、同情論が通用した。しかし、K-POP業界全体を問題にするのであれば、話は別だ。
K-POPの否定的側面を強調することは、韓国社会全体への批判につながりかねない。これにはNewJeansファンを自称する弁護士も苦言を呈した。

「最初はプロデューサーのミン・ヒジン氏と同調して親会社を攻撃し、他のレーベルや所属アーティストを攻撃していたが、ついには産業全体を否定し、最終的に裁判所まで無視して韓国社会全体を愚弄するような嫌韓発言に至ったのであれば、今後彼女たちの居場所はどこにもなくなるだろう」
活動中断の長期化懸念
NewJeansは3月23日、香港で開催されたコンサートの終了後、暫定的な活動中断を明らかにした。
「法廷の決定を尊重し、しばらくの間、活動を停止することにしました。ファンのバニーズは悲しむかもしれないが、これが私たちを守る道であり、さらに強くなって戻ってくるための選択です」

この日の公演では、新曲「Pit Stop」を初めて披露する一方、「Attention」や「Hype Boy」「Ditto」などNewJeans名義で発表されたヒット曲は歌わなかった。代わりに各メンバーがカバー曲を中心としたソロステージを展開した。
今回の公演はADORとは無関係に進められたとされ、ADORが派遣したスタッフも現場でNewJeansのメンバーと接触することはできなかったという。活動中断の発表も事務所側と事前に共有されたものではなかった。
ADOR側は「NewJeans以外の名義で公演を強行し、一方的に活動中断を宣言したことは非常に遺憾」とするコメントを発表したうえで「できるだけ早くアーティストと直接会い、今後について議論したい」と呼びかけた。

しかし、NewJeans側は「信頼関係はすでに崩壊した」とし、交渉には応じていない。メンバーたちは「お金の問題ではなく、自分たちの価値と人権を守るための戦いだ」と主張している。
完璧な歌唱力やダンス能力を要求されるK-POPアイドルの育成には、時間とお金がかかる。所属会社は先行投資として巨額の費用を投入する。
ADOR側はNewJeansのデビューに210億ウォン(約21億円)を投資したとされる。所属会社側からすれば、アイドルが成功しても投資を回収する前に契約解除されてしまえば元が取れない。NewJeansとADORの契約は2029年までとされる。

4月3日にはこの契約が有効かどうかを審理する訴訟が始まる。NewJeans側は契約解消の正当性を主張する構えだが、新たな証拠がない限り、判決の逆転は難しいだろう。
これまでNewJeansは世論の支持を武器にADOR側と対峙してきた。司法判断を否定すれば世論の支持を得ることは難しく、活動中断が長引けば必然的にファンは離れていく。
NewJeansはアイドルによる契約解除の前例を作ることができるのか。「革命」の前途は見通せていない。
(執筆:フジテレビ客員解説委員、甲南女子大学准教授 鴨下ひろみ)