イスラエル軍が、パレスチナ自治区ガザ北部で、住民退避のために1日4時間の「戦闘停止」に合意した。ただ、ガザ北部には90万人が残され、シファ病院には多くの避難民などが残された状態だ。
1日“4時間”の戦闘停止
アメリカ政府は、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ北部で、住民退避のために1日4時間の戦闘停止を行うと発表した。

イスラエル軍は9日、ガザ市中心部にあるハマスの主要な軍事拠点を攻撃し、戦闘員など約50人を殺害したことを明らかにした。
イスラエル軍によると、これらの拠点には情報部門などの本部や武器製造工場、さらには訓練施設などがあったという。
こうした中、ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は9日、イスラエル軍がガザ北部の指定した地域で1日4時間、戦闘を一時停止すると発表した。
戦闘停止の3時間前に通知がされるとしている。

イスラエル軍が1日4時間の「戦闘停止」に合意した。
日本時間午後5時から、その1回目の「戦闘停止」のタイミングとなる。
日本時間午後4時半ごろのガザ市内の映像だ。
ガザ地区北部では、イスラエル軍がハマスの司令部があるとするシファ病院周辺で激しい戦闘を続けている。

AP通信が伝えた病院院長の証言では、イスラエル軍は病院から3kmの地点に地上部隊を展開させているとのことだ。
アメリカの「戦争研究所」が作成した地図を見ても、シファ病院にイスラエル軍が南北から近づいているのが分かる。
いよいよ、ハマスの主要施設への最終攻撃が近づいている。

そうした中、イスラエルはアメリカが求めてきた、1日4時間、3日間の戦闘の一時停止に応じた。ガザ市民の北部から南部への避難がこの間に行われる。
アメリカのバイデン大統領も「正しい方向への一歩」と評価している。
避難地まで30kmの過酷な道のり
ただ、ガザ北部には90万人が残されているとされる。
また、シファ病院には多くの避難民などが残された状態だ。そんななかで、1日4時間という限られた時間で、本当に移動できるのか疑問も残る。

9日に撮影されたシファ病院内の映像では、患者も多く運ばれており、人であふれかえっている。病院自体で戦闘が行われている様子はみられないが、本格的な攻撃が行われるのは時間の問題とみられる。
シファ病院には2000人の患者、周辺にも5万人近くの避難者がいるとされており、まだ北部にも多くの市民が残っている。

そのシファ病院から現在キャンプのある南部のハン・ユニスまでは、約30kmの距離があり、徒歩で約6時間かかる計算だ。
現地では気温が30度近く上がる日もあり、食べ物や飲み物も充実していない環境だ。そのため6時間だとしても、かなり過酷な道のりとなる。
イスラエル軍が避難を指示している南部の地域・アルマワシまでも同様に30km近くある。

9日に撮影された映像では、日に日に増えている避難者の多くは徒歩で、荷物も多く持てず、着の身着のままという状態になっていた。
これまでの移動の映像を見ても、ロバや馬車もみられるが、車の数は多くは確認できない。
車椅子で移動する人もみられ、さらには、車椅子が用意できず荷物用の台車で運ばれる人も確認でき、普通の人より避難にはさらに時間がかかると考えられる。

ここからは実際にガザ地区で取材を行ったことがある、中東ジャーナリストの池滝和秀さんにも聞いた。
池滝さんは、4時間での避難は難しいとした上で、避難地域にたどり着くことではなく戦闘地域から出てもらうことが目的だという。
“4時間”の設定には軍事的な狙いも
また、なぜ4時間という設定なのかについては、ハマスに対して補給や立て直しの時間を与えたくない軍事的な狙いがあると池滝さんは指摘する。
すでに6日からイスラエル軍の監視の下で、一定時間は戦闘を行わない市民の移動が始まっていて、今回の戦闘停止は正式な文言にしたものにすぎない。
外交的なプロセスの進展ではあるが、政治的なパフォーマンスの要素もあると考えられる。
戦闘停止の範囲もまだわからず、何時から戦闘停止するかは3時間前に伝えられるというものだ。これで人道状況がどこまで改善されるかはわからない。

また戦闘停止が守られるかという点については、池滝さんの分析によると、ハマスも態勢を立て直したい、また人道的観点からも妨害する可能性は少ないのではということだ。
しかし、他の武装組織が攻撃する可能性もあり、戦闘停止が崩れる懸念もあるという。
(「イット!」 11月10日放送より)