米下院で、パレスチナ系民主党議員のイスラエルに対する攻撃的な言動を問責する決議案が提出されたが、イスラエルに好意的と考えられていた共和党から大量の造反者が出て廃案となり、米政界でもイスラエルに批判的な意見が高まっていることを示した。

パレスチナ系民主党議員に問責決議案

米下院では1日、「ラシダ・タリーブ議員に対する問責決議案」が採決にかけられた。

民主党のラシダ・タリーブ下院議員(2019年)
民主党のラシダ・タリーブ下院議員(2019年)
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タリーブ議員は、ミシガン州出身の民主党下院議員で、両親はパレスチナの移民だ。2018年に初当選して、米議会初のパレスチナ系女性議員となった。その主張はイスラエルに批判的で、あまりにも激しい攻撃にイスラエルのネタニヤフ首相は2020年、タリーブ議員の入国を拒否することを決定したほどだ。

今回のイスラエル・ハマス戦争に当たっても、イスラエルに対する批判はさらに攻撃的となり、10月18日には下院に抗議グループを招き入れ、議員会館内でイスラエルとイスラエルを援助する米政府に対する抗議活動を行っていた。

こうしたタリーブ議員の言動は、米国の議員にあるまじき振る舞いで、問責すべきだと提出されたのが今回の決議案で、提案者は共和党でも最右翼の保守派で、トランプ前大統領の強い支持者として知られるマージョリー・テイラー・グリーン議員(ジョージア州)。

決議案を提出した共和党のグリーン下院議員。トランプ氏の強い支持者として知られる。(11月1日)
決議案を提出した共和党のグリーン下院議員。トランプ氏の強い支持者として知られる。(11月1日)

決議案は次のようにタリーブ議員の責任を追求している。

⚫️タリーブ議員は2023年10月8日、ハマスがイスラエル人を惨殺するのを糾弾し、全ての人質の解放を要求する代わりに「未来に向けて、封鎖を解除し、占領を終わらせ、非人間的な状況を作り出すアパルトヘイト体制を解体しなければならない」と言ったこと。

⚫️2023年10月12日には、「イスラエルの手によってパレスチナの乳児が死ぬのを許したのは米国だ」とするメッセージを再投稿し、米国への憎悪を煽ったこと。

⚫️2023年10月18日、米国連邦議会議事堂で暴動を起こし、エレベーターや階段の吹き抜け、出入り口を封鎖して、上院外交委員会の公聴会を含む上下両院の公務を妨害したこと。

決議案はこの他にも8事案を挙げて、こう責任を追求している。

「テロ組織を称賛しながら米国を非難することは、連邦議員として不適格である。従って次のように決議する。

①ラシダ・タリーブ下院議員を問責する。

②ラシダ・タリーブ下院議員は、問責を受けるために議長前に進み出ること。

③ラシダ・タリーブ下院議員は、議長による本決議案の朗読をもって問責される」

投票の結果、問責決議案は見送られることに(11月1日)
投票の結果、問責決議案は見送られることに(11月1日)

決議案は1日下院総会にはかられたが、米下院では簡単な案件では修正動議などで審議時間がかかるのを避けるために議案の「見送り」の可否を問うことがあり、今回も問責案の「見送り」をめぐって投票が行われた。

問責案の「見送り」をめぐる投票の結果(米下院事務局のHPより)
問責案の「見送り」をめぐる投票の結果(米下院事務局のHPより)

その結果「(見送りに)イエー(賛成)」が222、「ネー(反対)」が186で、タリーブ議員に対する問責決議案は採択されないことになり、事実上「廃案」となった。

共和党に10%もの造反者

ちなみに、米下院の定数は435議席。内欠員2議席。無投票25議席(議長は投票せず、また当日24人の議員が欠席)なので投票総数は408。その内訳を見ると、問責決議案の見送りに「イエー」としたのは民主党議員199人と共和党議員23人、「ネー」とした186人は全て共和党議員だった。

つまり、共和党内で23人の造反者がいたため、タリーブ議員のイスラエルを攻撃する激しい言動は許されることになった。

今回の戦争前の2023年3月にギャラップ社が「中東問題」をめぐって行った世論調査では、民主党支持者の間で「パレスチナ支持」49%、「イスラエル支持」38%で、パレスチナ支持者が初めてイスラエル支持者を上回った。その一方で共和党支持者の間では「イスラエル支持」78%、「パレスチナ支持」11%で圧倒的にイスラエルに好意的だった。

また、問責の対象が民主党でも最左翼のタリーブ議員で、日頃から共和党の攻撃の的になっていたことを考えると、その共和党から党議拘束がかからなかったからとはいえ、10%もの大量の造反者が出てまで同議員を助けたことは「意外」と捉えられている。

共和党内でもイスラエルに批判的な意見が広がっているとすれば、民主党内の批判をかわしながらイスラエルへの支援を続ける、バイデン政権の新たな「重荷」になりかねないだろう。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。